第62話 厄日

 だめだ。ファンと二人きりで食事なんて。絶対に問題になる。でもあの写真もなんか駄目だ。ネットに上げれたら面白おかしく言う人もいるし、幻滅するファンもいるだろう。

 今が大事な時だ。なのにこのままじゃヤバい。爽香や奈美穂にも迷惑がかかる。

 私はこれからどうするべきか必死で頭を働かせた。


「そんな怖い顔しないで」

 シュウヘイさんは優しい顔をしてみせるが、とても怖い。

「とりあえずここ出ようか。本も見ないでいると怪しまれるしね」

 仕方なく私はシュウヘイさんについて外に出る。


「あの、本当に約束があって。ドタキャンしたら心配されて大事になっちゃうかもしれないので、メッセージだけ一つ入れさせてもらっていいですか?」

 私は、必死になって言った。するとシュウヘイさんは、少し考えて頷いた。

「そうだね。心配かけちゃダメだもんね。いいよ」

 私はホッとしてスマホを取りだした。

 すぐに赤坂さんにヘルプのメッセージを送ろうとしたときだった。

「あ、変なメッセージ送らないか、一応見せてよ」

「えっ」

 私は慌てて赤坂さんへのメッセージを取り消す。

「そんな、変なのなんて送らないですよ」

「じゃあ見せられるよね」

 そう言われて仕方なく、私はシュウヘイさんに見せながらメッセージアプリを開く。

 そして、雪名さんへメッセージを送った。


『すみません、たった今友達とばったり会って、今から飲みに行くことになりました。すみませんが、今日持ってきてもらうのはキャンセルでお願いします。後日持ってきて下さい』


「約束のキャンセルのメッセージです」

 私はシュウヘイさんに見せながら送信する。シュウヘイさんは満足げに頷いた。


「じゃあ、行こうか」

「どこへ行くんですか?」

 私はなるべくどうにかする時間を稼ぎたくて、立ち止まったままたずねる。

「シュウヘイさん、この辺に住んでるんですか?この辺いいお店いっぱいありますよね。詳しいんですか?」

「そうだね。知ってるよ。どこ行こうかな。好葉ちゃん最近ちょっと出てきてるから個室は必須だよね?あ、そうだ。俺の部屋は?」

「はっ!?」

 私は思わず変な声が出た。ヤバいヤバい。部屋とか絶対にヤバい。どうにかしなきゃ。

「部屋、は、ちょっと……あの、さすがにダメかな。事務所NGが出てるので……」

「そう?こっそり行けばバレないでしょ?だって、こーんな写真みたいなこともしてるんだしね」

 シュウヘイさんはニコニコとスマホを振って見せる。

 だから、そんないかがわしいことしてないのに……。今になって、雪名さんから注意された「不用心に触らせるんじゃありません」という言葉の深みが身にしみる。


「さて、タクシー捕まえるからちょっと逃げないで待ってね」

 シュウヘイさんが私の腕を強く掴んだ。



 その時だった。シュウヘイさんに、ドシン、と黒い服の男性二人組がぶつかった。


「おい、テメエ!!痛えなぁ!!」

 黒い服の男性は、シュウヘイさんに圧をかけながら怒鳴ってくる。

「いや、そっちがぶつかってきたんじゃ……」

「ああ??俺達が悪いって言うのか?おいおい、女連れだからって調子乗ってんのか?」

 黒い服の二人組は、どうやらヤクザ屋さんだったらしい。


 ああ、もう、泣きっ面に蜂……。めちゃくちゃだ……何今日厄日なの?私は力が抜けてしまうのを感じた。








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