第51話 頑張りました
※※※※
「どうやら花水木組側は、結音がアンチから攻撃されてそれをそのまま放置しているのが対外的に都合が悪かったみたいなんてす。それに、もうすぐある結成5周年のライブに結音を呼ばないわけにはいかないからその前になんとかしたいとか色々あって。で、そのシナリオとして、やらせっぽくなく事務所の反対を押し切って仲直りしたと世間に思わせようとして、全然事務所の違う私達を利用したみたいで」
あのライブの日から三日ほど経った。
私は今日も、ホテルに呼ばれて雪名さんを踏んづけていた。
「ずいぶんと、不満げに言うのね」
踏まれながら私の愚痴を聞いてくれていた雪名さんが、興味無さそうな声で言った。
「だって、友情に感動してたのに」
私が口をとがらせると、雪名さんは鼻で笑う。
「この世界、利用し、利用されが当たり前じゃない。あんた達だって、色んな利益もらえたんでしょ」
「そうですけど……。確かに、ツアーの問い合わせも増えてるみたいですし。計画通りって言えば計画通りなんですけど」
私は頬を膨らませて言った。
「……もう一つ不満が……」
「何よ。この際ぶちまけちゃいなさい。聞き流してあげるから」
雪名さんは踏まれたまま、寛大なお言葉をくれる。お言葉に甘えて、私は今回一番の不満をぶちまけた。
「感想が、あんまり無かったんです」
「感想?」
「そう、そうです!!」
私は勢いよく言った。
「今回、私構成とか考えたんですけど。結構自画自賛だったんです。いっぱい練習もしたし。で、終わってみれば、まあ世間的には結音の事が話題になるのは想定内でしたが、私達のファンの間でも、ハナミズキの種に出ることのお祝いコメントが多くて。それはありがたいです!ありがたいんですけど!ライブの感想がほとんど聞こえてこないんですよ!!どう思います!?」
「興奮して話している好葉は、踏む力が強くなるからとってもいいな、と思っているわ」
宣言通り見事に聞き流してくれている……。
私はムスッとして雪名さんを踏む足の力を緩めた。
「あら、イジワルするのね」
雪名さんが咎めるように言うが、私は無視して続けた。
「でも、トモさんは、いつも通りライブの感想をいっぱい書き込んでくれてました。やっぱりトモさんは私の癒し……」
「ふうん」
雪名さんの声色が急に変わった。
雪名さんは、もう踏むのはいいわ、と立ち上がると、マッサージオイルを用意して突然言った。
「良かったわよ。特に二曲目」
「へ?」
「感想、欲しかったんでしょ?」
雪名さんは私の足にオイルを塗りながら顔も見ずに素っ気なく言った。
「雪名さん、配信ライブ見ててくれたんですか?」
「仕事入ってたから前半だけだけど。好葉が裸足でライブするなんて言うから、怪我しないかどうか心配で心配で」
「怪我しなかったでしょう?」
「でも、やっぱりちょっと荒れてるわ」
雪名さんは私のかかとを丁寧に撫でる
「でも、裸足でのダンス、格好良かったわ。荒々しくて、ちょっと荒削り感がまたこちらに訴えてくる感じが良かったと思うわ。一曲目でハードの曲で惹きつけて、そして二曲目でしっかり聞かせる構成も、悪くなかったと思う」
思ったよりもちゃんとした感想をつらつらと述べていく雪名さんに、私は声が出なかった。
体中がくすぐったいのは、足をマッサージされているからなのか、思いがけない人からの思いがけない感想をもらったからなのか、私にはわからなかった。
「こんなものかしら」
雪名さんはそう言って、手を拭いてオイルを仕舞うと長いソファに座り、私にも横に座るように促した。
雪名さんの隣は、さっきのマッサージオイルのいい匂いがする。
「好葉、今回頑張ったと思うわよ。ちゃんと見てる人は見てるわ。皆まだ興奮してるだけよ。もう少し経てば、あなた達のファンも感想を出してくるわ。トモさんだけじゃなくね」
そう言って、雪名さんは私の肩を引き寄せて、頭をポンポンと撫でてくれた。
急に優しい雪名さんに動揺して、私は泣きそうになってしまった。
「私、頑張りました」
「そうね」
「でもこれからもっと頑張るんです」
「そうね」
「あの後、ラジオとかトーク番組とかのオファーがいっぱいあったんです。花水木組の仲直りの現場のの裏側を話してほしいって依頼が。それ系は、皆で話し合って断ることにしたんです。甘いかもしれないですけど。それで、ちょっと生意気、みたいな意見も今出ちゃってて」
「そうなるかもね」
「でも、頑張るんです」
「そうね」
雪名さんは短くしか答えない。でも、聞き流しているわけではないようだ。
私は、滅多に無い女王様の甘やかしを、今だけはしっかり堪能することに決めたのだった。
〜〜〜
「ところで、打ち上げとかで、酔って早川結音を踏んだりなんか……」
「してないです!っていうか、結音に踏まれたい願望なんてありません!踏まれたい願望は」
第三章 ライブ編② 完
第四章へ続く……
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