第42話 面倒なグループ

 奈美穂も一応納得したようで、その後の話し合いはスムーズに進んだ。

「よし、じゃあ収録は二週間後、レンタルスタジオでね。あそこ狭いから振り付けは正確に覚えてきてね。結音は私達の曲二曲ね。一曲はフルでソロだから頑張って」

「ちょ、ちょっと待って」

 結音は焦ったように言った。

「二週間!?二週間って……キツイって。ライブってもっと準備時間かけるでしょ?」

「え?大丈夫でしょ?ダンスなら1時間もあれば覚えれるし?」

 私がキョトンとして言うと、結音はブンブンと首を振った。

「いやいや、私ブランクあるんだけど。花水木組の曲ですら最近歌ってないし……」

「大丈夫だよ。早川さん昔ダンス上手かったの覚えてるよ」

 爽香も明るく励ます。

「そうですよ!アイドル好きなんですよね?好きなら大丈夫ですよっ。あ、フォーメーションは心配ですよね?明後日レッスンありますけど来れます?」

 奈美穂も純粋な目で言う。

「……あんた達、いい子の皮被った鬼じゃん…」

 結音はゲッソリと言いながらも、明後日のレッスンに来ることを約束してくれた。

「ねえ、やっぱりもう少し日数おかない?告知とか宣伝とか充分にしたほうがいいでしょ」

 結音が諦めきれない様子で言った。

 しかし私も申し訳ない顔をして答えた。

「あのぉ、私達にとっては、この配信ライブ自体がツアーの宣伝だから……だから少しでも早くやりたいっていうか」

「……あー、なるほど。そういう事」

 結音は一瞬だけ頭をかかえ、そして呆れたように笑った。

「あんたも結構計算高いのね。まあ、いいわ。利用して利用されて。私達いい関係性よね」

 よく分からないけど、私は結音に褒められたみたいだ。


 会議も終わり、お菓子を食べながら私達は雑談に花を咲かせだした。

「そう言えば、今日の午前中花実さんと一緒の仕事だったんだけどさ」

 結音はお煎餅を個包装の袋の中でバリバリに割りながら話しだした。

「花実さん、昨日の私の居酒屋での写真にイイネしてくれたんだけど」

「ああ、あの好葉がべろべろに酔っ払って早川さんに寄りかかってる写真ね」

 爽香が結音のSNSを開きながら言う。恥ずかしいからあんまり見ないで欲しい。こんなにべろべろだったとは自分でも知らなかった。

「でさ、その件でむっちゃ問い詰められたんだよね」

「問い詰め?」

 私が首をかしげて聞き返すと、結音は煎餅を粉々になるまで割り続けながら頷いた。

「どうやったらあんなに好葉を酔わせることが出来るのかって。ちょっと怖い顔で」

 雪名さん……。まだ私を酔わせてあれをさせることを諦めてなかったようだ。

「何で花実さんあんたを酔わせたがってんの?」

 結音が粉状になった煎餅を口に流し込むのを、むせそうな食べ方だな、とぼんやりと思いながら

「さあ?何なんでしょうね」

 と私は適当に答えた。

「そう言えば、好葉が酔っぱらってべろべろになるのは珍しいよね。前に間違えて度数強いお酒飲んでダウンしたことはあったけど」

 爽香が思い出したように言うと、奈美穂も相槌を打った。

「そうですよね。いつもは自分の限界はわかってます、みたいな飲み方ですよね。何かあったんですか?」

「うん、えへ、結音に、我が強いって褒められちゃって」

 私が照れながら答える横で、結音は「褒めてないから」と冷たくつき放す。しかし爽香と奈美穂はケラケラと笑い出した。

「そっか!そりゃ嬉しくて飲んじゃうよね!」

「好葉、昔から我が弱いって社長とかにいっつも叱られてましたもんね。我が強いって褒めらたらそりゃ嬉しいですね!」

「ねえ、だから私褒めたつもりないんだけど」

 結音が断りを入れるように口を挟んで来るのを無視して、私は続けた。

「あとね、結音は私達LIPが、売れそうとか今認められてるって言ってたの」

「え?何それちょっと詳しく教えて下さい。!!」

「ちょっと早川さん!何帰ろうとしてるの!まだ帰さないよ。ねえ、その売れそうって思ってる根拠教えて」

 逃げようとしていた結音は、爽香に捕まってまた椅子に座らされた。

「もー、何なの、あんた達もなの!?面倒くせえ!」

「まあまあ、紅茶もう一杯どうぞ」

「いい、いらない帰るっ!自分達のファンとかマネージャーにでも褒めてもらいな!」

「外部の!外部のご意見が聞きたい!」

「あああ、本当に面倒なグループに手を出しちゃったよ……」

 結音はぐったりと天井を仰ぎ見ていた。



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