第37話 ブーイング

 後日。動画撮影の前に集まった私達は、赤坂さんと一緒にガックリとうなだれていた。

「完敗、だね」

「うん、完全に持っていかれたね」


 先日の歌番組。私達的にはいい出来だったと思っていたけど、世間の注目は『アップルリング』と言う新人アイドルに注がれた。中学生にして完成されたビジュアルに高い歌唱力、作曲も有名アーティストだと公表され、完全に話題の中心だ。


「大型新人だわ、あー、今回の歌番組でもう少し反響ほしかったんだけどなぁ。ツアーに繋げたかったんだけどなぁ」

 赤坂さんがスマホを見ながら呻く。私達は思わず小さくなった。

「すみません、力が足りずに……」

「いやいや、違う。これはこっちの戦略ミスだから」

 赤坂さんはそう言いながらも、ずっとスマホを睨みつけていた。

「あのぉ、もしかしてツアーの売れ行き良くないですか?」

 私は勇気を出してたずねた。赤坂さんのスマホをチラリと見たら、ツアーの販売状況のページになっていたからだ。

 赤坂さんはバツが悪そうに答えた。

「いや、全然駄目ってわけじゃないのよ。完売してるとこもあるし。ただ、平日とかがちょっとね。この調子だと、やっぱり都内でもゲスト入れたほうがいいんじゃないかって上からの指令が来てて」

「あー……」

 既に、地方のライブハウスでは、地元のローカルアイドルをゲストに迎えることが決まっている。

「ゲスト入れるのは嫌じゃない、ですけど」

 盛り上げるため、とかステージを良くするため、とかなら全然ゲストは楽しい。私達は対バンとか好きだし。でも、人が集まらないから、って理由を付けられるとちょっと凹む。

「まあ、もう少しだけ様子見てから……ね」

 赤坂さんが励ますように言った。

「あ、そう言えば前に結音、早川結音と一緒に飲んだ時に」

 私はふと、先日の事を思い出した。


『今度ツアーやるんでしょ?初ツアーって、席埋まるかピリピリするよね。もし埋まらないハコあったら、私ゲストに出てもいいよ。それなりに集客力あると思うからさ』


「結音、ゲスト出てもいいって言ってました」

 客寄せパンダ的な事は申し訳ないとその時は曖昧に断ったのだが、実際に埋まらないハコが出そうなら一応赤坂さんに伝えておくべきかもしれない。

 そう思って伝えたのだが、赤坂さんは何故か苦い顔をしてみせた。

「あー……早川結音ね。うん、あー、ほら、事務所も違うしな」

「え?やっぱり事務所同じ方がいいんですか?」

「う、うーん。まあ。その」

 どうも赤坂さんは歯切れの悪い。私達がじっと赤坂さんの言葉を待っているのを見て観念したのか、赤坂さんは小さなため息をついて言った。

「その、あなた達って結構王道の正統派アイドルとしてそこそこ人気出してるのは自覚ある?」

「まあ、自分で言うのもなんですけど」

「で、早川結音って、一般人気はそこそこあるけど、アイドルファンの間でアンチが多いのは知ってる?」

「……何となく」

 私は頷いた。私だけでなく、爽香と奈美穂も気まずそうに頷いたので、二人もネットの噂を見たことがあるのだろう。

「アイドルなんか踏み台だった、みたいな発言のやつですよね?音声も流出してるって」

「そうなの。それで、前に早川結音をゲストで呼んだアイドルグループがいたんだけど、彼女がステージに出た瞬間にファンからブーイングの嵐になったらしくて」

「それは……」

 想像しただけで恐ろしい。

「前の莉子ちゃんの件もあったし、リスクは排除しておきたいかなーって」

 赤坂さんは肩をすくめた。

「それにしても、早川結音って、そんなブーイングとか浴びた事あるのに、ゲスト出るって言ってくれてたんですか?」

 奈美穂が不思議そうに言った。

「私だったら、そんなことされたら胃痛で死ぬ気がします」

「てか、胃痛にならなくても、ゲストなんて二度とごめんだわっ!てなりそうだけどね。やっぱりメンタル強いのかなぁ」

 爽香も首をかしげる。

 確かに二人の言うとおりだ。そうなると単なる親切とも思えない。

「なんでだろう。何で自分からゲスト提案してくれたんだろう?」

 私はボソリと呟いた。

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