第21話 ご褒美
ふと目が覚めると、見たことのないカーテンが目に入った。匂いも何となくうちとは違う。すっごくいい香りがする。
「どこ?」
私は体を起こして周りの見渡した。見たことのないフカフカの布団で眠っていたようだ。
「おはよう牧村ちゃん。二日酔いとかしてない?もうお昼だよ」
「白井さん?」
なんで白井さんが?
「えっと、ここは?」
「雪名のマンションだよ」
「えっ!!」
私は慌てて布団から飛び出した。
「せ、せ、雪名さんのマンション!?なんで!?」
「ごめんね、ちゃんと牧村ちゃんのマンションに届けるって赤坂さんと約束したんだけど……ちょっと色々あって……」
「い、い、色々とは!?もしかして私なんかしでかしたんじゃ」
「いや、しでかしたというか……しでかさなかったというか……」
白井さん困ったように曖昧に微笑む。
「まあ、とりあえず具合悪くないならごはんでも食べようか?」
「あ、あ、あの、雪名さんは?」
「雪名は朝早くから仕事。今日はタクシーで行くから、牧村ちゃんの監視……じゃなかった、お世話してあげてって言ってたのよ。もうすぐ帰ってくるんじゃないかな」
一瞬物騒な単語が聞こえたような気がしたのは気のせいだろうか。
「あの、何があったんですか?私昨日仮眠した後全然記憶無くて」
「んー、まあ……では、昨日の一部始終を、語らせて頂きます」
そう言って、白井さんは、真面目な顔で、まるで小説でも語るように話し始めた。
〜〜〜
打ち上げも終わりの時間になっても、好葉は目を覚ます事無くグーグーと熟睡していた。
赤坂が帰るよ、と言っても眠ったままだ。白井は赤坂に申し出た。
「よければ私が送っていきます。牧村ちゃんのマンション、前に教えてもらってるので。私のあげたお酒のせいですし」
「そんな申し訳ない」
「いえいえ、お気になさらずに」
なんやかんやと白井と赤坂の遠慮しあいの結果、好葉は白井が送っていく事になった。
雪名と一緒に車の後部座席に座らされた好葉は、グデングデンになったままだ。好葉のマンションに着いても全く起きる気配がない。
「お酒に弱いのね」
「まあ、飲み慣れてないでしょうし、今日は体力的にも精神的にも疲れてたでしょうしね」
「ふーん。ほら好葉、あなたのマンション着いたわよ、起きなさい」
雪名は、目をつぶっている好葉のほっぺをプニプニと突く。
「ねえ白井さん、起きないならこのまま好葉をうちのマンションに連れて行くのはだめかしら?好葉明日休みよね?」
「流石にだめよ。送り狼みたいな事言わないで。なんか犯罪っぽいわよ」
「やっぱりダメよね」
少し残念そうに雪名は言うと、好葉の耳に口を寄せた。
「今回は、今日のあれで満足してあげるわ。さ、早く起きなさい」
そう言って、雪名が好葉のシートベルトを外した時だった。
パチ、と好葉は目を覚ました。
「あら起きたようね」
「今、満足って言いました?」
「は?」
好葉は、ぽかんとしている雪名のシートベルトを素早く外した。そして勢いよく雪名を押し倒した。
「せ、雪名!?」
白井は慌てて後ろを振り向いた。
好葉は雪名に馬乗りになっている。
「ねえ雪名さん、満足したってホント?あれで満足なの?」
「好葉?何言って……」
「雪名さん頑張ってくれましたもんね?私のことも助けてくれましたもんね?ご褒美欲しい?」
「ご褒美……」
明らかに雪名の声色が変わった。何かを期待しているようだ。しかし持ち前のプライドで言い返した。
「好葉、この私に今何してるか分かってるの?」
「ほら、雪名さん、何して欲しいんですか?」
好葉は雪名の威嚇に全く動じていない。
それどころか、靴を脱いで、片足を雪名の胸元に置いた。
「あっ……足……」
「ご褒美ですよ?ほら、どこにこの足が欲しいんですか?」
「あ……あっ……あぁ……」
思いがけない好葉の行動に、雪名は声が出なくなってしまっていた。むしろ完全に好葉の足にしか意識がいっていない。
「顔……顔に欲しい」
「そうですよね?雪名さんはこのちっちゃい足で、顔を、踏まれたいんですよね?こんなふうに?」
そう言って、好葉は雪名の顔を足でペチペチと軽く叩いた。
「あ……や……」
「嫌?」
「嫌じゃない。して欲しい……」
「ふふふ、素直で可愛い」
そう言いながら、雪名の顔を足で踏もうとした時だった。
「……好葉?」
急に眠気が再度襲ってきたのか、好葉はぱたんと雪名の上に倒れ込んだ。そしていびきをかいて爆睡してしまったのだ。
「嘘でしょ?こんな状態で?この私にこんなお預け食らわすの?」
悲壮な声を上げる雪名の事など気にせずに、好葉はぐうぐう眠ってしまっている。
「白井さん!!」
「は、はいっ」
「やっぱり好葉をうちに連れて行くわ」
「いや、でも」
「こんな状態で……この私がこんな焦らしプレイさせられてこのまま返せるわけ無いでしょ!絶対に連れて帰る!起きたら絶対に続きをさせるわ」
「多分牧村ちゃん覚えてないんじゃ……」
「関係ない!」
凄い勢いに負けた白井はため息をついて、雪名のマンションに向かって車を走らせるのだった。
〜〜〜
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