第20話 度数の強いお酒
「そう言えば、さっきの件、ネットニュース載ってたよ」
赤坂さんがスマホを見せてきた。
「莉子ちゃんの爆弾発言と併せて、ファンの暴走の件」
「なんか、ちょっと、世間は暴走ファンに同情的だねぇ」
襲われかけたこっちとしては、あんまり同情もしたくはないんだけど。
「一応、うちらの名前も載ってますね」
「こんな事で名前載りたくなかったけど」
ちょっと不満げに言う私達に、雪名さんが鼻で笑った。
「贅沢言ってるんじゃないわよ。どんなことでも踏み台にしてやるって心意気じゃないと売れないわ。ていうか、こんなもの、名前が載ったうちにも入らないじゃない」
酔っ払っているのか、雪名さんのキツイ本性がちょっと漏れ出てきちゃってる。
しかし、雪名さんの言っていることはもっともだ。
赤坂さんもため息交じりに言った。
「確かにね。だって、この件で、どうやら莉子ちゃんの方にはバラエティの仕事がすぐに打診されたらしいって噂なのよね。まあ、ちょっとゲスい暴露系の番組とかだけど」
そんな。何か納得出来ない。
「まあ、仕事めちゃめちゃにしてるわけだし、もう正統派の仕事はあんまり望めないだろうけど」
私が不満そうな顔をしているのに気づいたのか、赤坂さんはちょっと気遣った事を言ってくれた。
「負け惜しみかも知れないけど。甘いって言われそうだけど。私は正統派のアイドルで売れたい」
私は拳を握りしめて言った。思わず足にも力が入ってしまい、ちょっと雪名さんを喜ばせてしまったことは一旦無視する。
「私も。歌とダンスで認められたい」
「私もです。まずはメンタルを強くします」
爽香と奈美穂も続いた。赤坂さんは「そうね、その意気だ!」と微笑んだ。
「よしよし、皆頑張って!ほら、飲んで飲んで」
白井さんも、爽香と奈美穂にはお茶を、私にはお酒を注ぎながら背中をバンバンと叩いてくれた。
「私達は応援してるよ。ね、雪名」
「そうね、私、あなた達の事好きよ」
女王様はご機嫌で微笑んでいる。このご機嫌は、お酒のせいなのか、私がさっき強く踏んじゃったせいなのかはわからない。しかし、雪名さんは裏表があるけど正直な人だ。多分本当に私達の事はそこそこ好いてくれているんだろう。
ちょっと嬉しくなって、白井さんの注いでくれたお酒を思いっきり飲み干した。
途端、むせた。
「あっ、牧村ちゃん大丈夫?結構これ度数強いんだけど」
「どすう?」
「ちびちび飲むタイプのお酒で……ごめん、はじめに教えておくべきだったね。大丈夫?」
白井さんが心配そうに私の顔を覗く。
「胃薬あるよ。飲む?」
奈美穂も私の背中をさすってくれた。
「大丈夫……でもちょっと胸が熱いかも」
「お水飲もうか?ちょっと寝とく?帰る?」
「ちょっと、横になる……」
私はそう言ってふらふらと、仮眠用の毛布を引きずり出して、その場にゴロンと寝転んだ。
……その後の事は全く覚えていない。
次の日、雪名さんの住むマンションで目を覚ますまでは。
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