第22話 自分の可能性
〜〜〜〜
「それで、牧村ちゃんを雪名のマンションにつれてにて、来客用の布団に寝せました」
白井さんの話を聞きながら、私は悪寒が止まらなかった。
「……嘘、ですよね?」
「いえ、本当です」
「百歩譲って本当だとして、ちょっと盛ってますよね?」
「全く盛ってません」
白井さんの回答に、私はガクガクと震えだした。
「まさか……そんな私がそんな事を……そんな失礼な事を……!?切腹……」
「大丈夫よ、途中で寝ちゃった事くらい、焦らしプレイの一部ってことで許してくれるわ」
「そこじゃないです!!」
私は頭を抱えた。
「そんな、雪名さんの美しい顔に足でペチペチするなんて……そんな。酔っ払ってたとはいえ売れっ子女優さんの顔に……。だいたい、何で白井さん止めてくれなかったんですか!事務所の大事な女優が馬乗りにされて踏まれかけてたんですよ!?」
逆ギレの如く白井さんに泣きつくと、白井さんは悪びれもせずに微笑んだ。
「ごめんね、なんか耽美的でつい」
「耽美的なワケないじゃないですか!」
私が呻いていると、玄関の方から、ガチャ、と音がした。
「あ、雪名帰ってきたかな」
白井さんが玄関に雪名さんを出迎えに行っている隙に、私はオロオロと部屋をあるき回った。
逃げちゃいたい。でもやっぱり謝るべきだよね?その後は?白井さんの話によると、雪名さんは昨日の続きを望んでいるみたいだけど……無理無理、ぜっっったいに無理。そんな馬乗りで顔を踏むなんて……。どうにかして勘弁してもらないと。でもどうしよう。
私が一人しゃがみこんでパニックに陥っている時だった。
「好葉、具合はどう?」
雪名さんが、気持ち悪いくらいに上機嫌で現れた。
「は、はい。大丈夫です。昨日はご迷惑おかけして……」
「いいのよ、ぜーんぜん」
雪名さんは私に目線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「昨日はさすがに腹が立って仕方なかったけど……でも私はすっかり好葉の焦らしプレイの虜みたい。今日の早朝生放送だって、美味しくもない甘ったるいお菓子を笑顔で食べれたし、面白くもないアナウンサーのジョークにも大爆笑出来たわ。これも全部、帰ったら好葉が昨日の続きをしてくれると思ったらとっても仕事のやる気が出てきて」
「そ、それは……よかったです、けど」
私、続きをするなんて一言も言ってないです。
「せ、雪名さん?私昨日の事全然覚えて無くて……」
「白井さんから聞いたでしょう?」
「聞きましたけど、あの、無礼なことしたのは謝ります。ごめんなさい。勝手にそんな馬乗りになったりとか」
「謝る必要はないわ。さあ、早く昨日の続きをしなさい」
雪名さんはしゃがみこんだ私の足を撫でてきた。私は思わず足を引っ込める。
「ご、ごめんなさい。続きなんて無理です。その、昨日の私はちょっとおかしかったというか。ライブで変なことあったりお酒飲みすぎちゃったりしてなんか変なふうになって。あれは忘れて下さい」
「何言ってるの?まだ焦らしプレイする気?」
「だから、焦らしプレイじゃないんですぅ」
私は必死で訴える。
そんな私の顔を優しく雪名さんは掴んだと思うと、すっと顎を掴んで上を向けられた。
――顎クイだ……
「好葉、あなたは自分の可能性に気づいてない。あれはあなたの内に眠る、踏みたい欲望よ」
そんなの眠っててたまるか。私は顔をそらした。
「ほら、素直になりなさい。本当は私のこと踏みたいんでしょ?」
踏みたい?踏みたいわけ……。
「ほら、踏んで。一度私の顔を踏んでみればその気持ちよさに気づくわよ。ほら、踏みなさい」
「踏んで……みる?」
「そうよ」
踏んでみる?雪名さんの顔を、踏めば……。
「……やっぱり無理ですぅ。ごめんなさぁい」
私は半泣きで雪名さんから距離を取った。
「雪名、もうやめてあげて。さすがに牧村ちゃん可哀想」
白井さんが私の味方をしてくれた。
「無理やりしたら、もう足すら踏んでもらえなくなるわよ?いいの?」
ん、なんか完全な味方になってくれてるわけではなさそうだけど。
でも、白井さんの言葉に雪名さんは一瞬怯んだ。白井さんは畳み掛ける。
「忘れないで。雪名を踏んでくれてるのは、あくまでも牧村ちゃんのご厚意なんだからね」
「…………そうね。……全くその通りだわ」
雪名さんは大きな落胆のため息をついた。
「悪かったわ。あまりにも昨日の好葉が凄すぎて、欲望が暴走したわ」
そう言って、雪名さんはゆっくりと私に近づく。
「ごめんなさい。よく考えたら昨日は大変だったのに」
雪名さんは空気が抜けたみたいにしゅんとしてしまっている。
これは……助かった?でもなんか……。
「ごめんね、ずっと仕事が忙しくてちゃんと踏んでもらえてなかったから……欲求が溜まってて……。今日もこのクソみたいな番組を乗り越えたらあの素敵な好葉を堪能できるって期待してて頑張ったから……」
「うんうん、雪名頑張ったよ。ほら、新しいベイビーベイビーの靴下のカタログ届いてるよ?」
「……見る」
雪名さんは白井さんの持ってきた子供服のカタログの、靴下のページに力無く頭を突っ込んだ。
やだ。こんな雪名さん見たくない。
そんなに?そんなに昨日の私は期待させちゃったんだろうか。
なのでつい言ってしまったのだ。
「い、いつもくらいの……背中踏むくらいなら、します……よ?」
「本当?」
雪名さんはぱっと顔を輝かせた。
「じゃあ早速お願いするわ」
随分と立ち直りの早い雪名さんに、さっきのが演技じゃないか疑惑が持ち上がった。しかし、顔を輝かせている雪名さんに、やっぱり無しでとは言いづらい。
まあ、顔を踏むのは勘弁してもらったから……本当に雪名さんには今回は感謝してるし……。昨日はご迷惑かけちゃったし……。あれ?私流されてないよね?
いそいそと私の足元にいつもの土下座スタイルをしてくる雪名さんに、私はいつものようにそっと足を乗せるしかなかった。
第一章 ライブ編 完
第二章へ続く……
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