第16話 爆弾発言
莉子ちゃーん!莉子ー!可愛いー!
ファンの声がよく響く。
莉子ちゃんの前に出演していたアイドル達はとても盛り上げ上手だった。お客さんもとても温まって最高の空気だ。
莉子ちゃんがステージに立って、ギターを構える。
すっと一つ息を吸うと、アカペラで始まる素敵なウエディングソングを歌い出した。
あまり莉子ちゃんのセトリに入らない曲だ。一瞬ファンはノリに戸惑ったみたいだけど、すぐにウォー、と歓声が上がった。
「莉子ちゃんいい感じ」
「私達も負けられないですね」
私達がそう話している間に、短いその曲はすぐに終わった。
「皆さんありがとう!あんまりライブでやったこと無い曲だから、皆びっくりしちゃったかな」
莉子ちゃんは可愛い笑顔で観客席に問いかける。
「実はもっとびっくりさせる事があるの」
なーにぃー?とお客さんが声を揃える。
莉子ちゃんは満面の笑みで言った。
「莉子は、結婚します」
シーン……。観客席が水を打ったように静かになった。
り、莉子ちゃん?それは、爆弾発言では?
しかし莉子ちゃんは、更に爆弾を投げつけてきた。
「今、妊娠3ヶ月なんです」
莉子ちゃん!?それはっ!さすがにっ!
周りを見渡すと、ライブハウスのスタッフも他の出演アイドル達も皆戸惑ったような表情を浮かべている。
「り、莉子ちゃんのマネージャーはどこ!?これは言わせていいやつなの!?」
赤坂さんが急いで莉子ちゃんの事務所の関係者を探しているようだ。
その時、もはや爆発物製造機と化した莉子ちゃんが更に言い放った。
「相手は、私のマネージャーなんです」
「マネージャー?」
「莉子ちゃんのマネージャーって、確か、バツ5の50代のオジサンじゃなかったっけ?」
私達が顔を見合わせていると、観客席から「ふざけるな!」と怒号が響いた。
勿論、叫んだのは莉子ちゃんのファンだ。
莉子ちゃんのイメージカラーの黄色のペンライトを投げつけてきた。
「何が結婚だ!何が妊娠だ!まさか祝福されるとでも思ってんのか!?」
「金返せビッチ!!」
観客席は修羅場と化している。
「おい、ステージ降りろ。危ない、乱闘騒ぎになるぞ!」
ライブハウスのスタッフが、莉子ちゃんを無理やりステージから捌けさせた。
観客席の方も、スタッフがどうにかして暴力沙汰が起きないように宥めている。
「莉子ちゃん!」
ステージ袖に捌けさせられた莉子ちゃんに、私は駆け寄った。
「何でこんな事……事務所は知ってるの?」
「事務所に、彼のことと妊娠してることは伝えたよ。まあ結婚は反対されるし堕ろせの一点張りだし。だから、こうして勝手に発表しちゃったの」
ケロッとした顔でペロっと舌を出してみせた。
「ごめんね、ライブぶち壊しちゃって。でも、私は後悔してないから」
そう言うと、莉子ちゃんは大騒ぎになっているステージ裏を、他人事のような顔でサッサと縫うように歩いて立ち去ってしまった。
「ちょっと莉子ちゃん!」
私の呼びかけも虚しく、莉子ちゃんはすぐに姿が見えなくなってしまった。
「みんな、ちょっと待っててね。今これからどうなるか確認中だから。多分中止になるんじゃないかな。結構大暴れしてた人が何人かいたみたいで、備品とかも壊されてたりしてて」
思った以上に大変ヤバそうだ。
「あー、もうそれにしても莉子ちゃんの事務所の人誰もいないんだけど、どうなってんの?逃げた?」
赤坂さんはイライラしたように叫びながら、どこかへ向かって行った。
「どうなるんだろ。胃が痛い……」
奈美穂がつぶやく。私もなんか胃が痛い。
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