第8話 デート日和③
私が向かったのは、さっきまでの通りから少し外れた道だった。
そこに、小さな和菓子屋がある。私のお気に入りの和菓子店だ。
今日もそこそこお客さんはいたが、そんなに混んではいない。
「雪名さんコーヒーとか好きですか?」
「好きでも嫌いでもないけど」
「じゃあ、別にいいですね」
私はそう言うと、サッサとその和菓子屋へ入っていく。
「イートインにしようと思いますが、大丈夫ですか?」
「どちらでもいいけど」
「じゃあイートインで食べましょう。ここ、器もキレイなんです」
私は店の中に入って、店員さんに、2名、目立たない席で、とお願いして案内してもらった。
「勝手に注文していいですか」
「ここまで来たら全部任せる」
雪名さんが面倒くさそうに言うのをいいことに、私は顔馴染の店員さんに、コーヒーセットを注文した。
「お待たせしました」
呑み口がハート型の可愛らしい抹茶茶碗に入ったコーヒーが目の前に置かれた。
「あら、確かに可愛らしい」
雪名さんは思ったより興味をしめしてくれたようでホッとした。
そして、もう一つ。
「これは……」
「これ、角砂糖なんです。可愛いでしょ?」
目の前に置かれた赤いハートやピンクのリボンの形などの可愛いアイシングのされた角砂糖を指さして、私は自慢気に言った。
「店主のおじいちゃんの最近の趣味なんですって。アイシング。手作りだから、一つ一つちょっと形が違うんです。可愛いですよね」
「ええ、素敵だわ。和菓子かって言われるとよくわからないけど……でも素敵」
雪名さんがそう言って、角砂糖に手を伸ばしたので、私は慌てて言った。
「雪名さん、まず写真!キレイな状態でキラキラ写真撮らないと」
「ああ、忘れてたわ」
雪名さんは面倒くさそうにスマホを取り出して写真を撮った。
「うまく撮れました?」
「こんな感じ?」
雪名さんは撮った写真を見せてくれた。うーん、まあ悪くはないけど……。
「私も撮っていいですか」
そう言って、雪名さんのスマホで写真を撮った。
「もう少し、こう……あ、ちょっと私のスマホで明かり足しますね。あと、そのスプーンこっちに持ってきて……。違います、それじゃバランスが。あ、茶碗逆向きの方がいいですね」
「ねえ、好葉、もういいでしょ」
「良くないです!映えるキラキラ女子したいなら、ここちゃんと意識しないと!」
「そういうもの?」
「そうです!」
「ふうん、勉強になるわ」
思ったより素直に雪名さんは頷いた。そういえば役作りとか言ってたもんな。
私は満足できる写真を撮ると、雪名さんにスマホを返してコーヒーを口にした。
「ねえ、このお砂糖、お土産に買っていきたいんだけど」
「んー、これはあくまでも店主の趣味みたいですよ。買っていけるのは普通のお団子とかの和菓子だけです」
「そう。残念」
そう言って、雪名さんは角砂糖を一つ摘んだ。
その角砂糖に描かれていたのは、赤いハイヒールだった。
「こんな小さな靴……芸術だわ」
「あー、なるほど靴……」
うっとりと角砂糖を見つめる雪名さんを、私は苦笑いして見つめるしか無かった。
「いいお店。こっちにきてよかったわ。並ぶ必要も無かったし」
雪名さんはニッコリと笑った。あの、顔を歪ませる不細工な微笑みだ。本当に喜んでもらえたようで良かった。
そうして和菓子店を出ると、その後雪名さんの買い物に付き合ったりして過ごした。
思ったより普通の友達のように楽しめた事に、私は正直驚いていた。
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