第7話 デート日和②

「じゃ、この辺で。帰りはまた迎えにくるからね」

 白井さんは、いかにもおしゃれなお店の立ち並ぶ、でもあまり人通りの少ない場所に下ろしてくれた。


「さて、行くわよ」

「えっと、何が目的ですか?」

 私はサングラスをかけた雪名さんと一緒に歩きながらたずねた。雪名さんは傾げて答えた。

「は?デートなんだから、映える、ゴテゴテに飾った着色料たっぷりのスイーツ食べに行くに決まってるじゃない」

「美味しくなさそうな言い方しないで下さいよ。

 そうじゃなくて!何で急にデートなんですか?何か理由でも?」

 私の問いに、雪名さんは面倒くさそうな顔を向けた。

「まだ正式発表じゃないから言わないでよ。今度、キラキラ女子の役を映画でするんだけど」

「雪名さんが、キラキラ女子?」

 冷血女子の代表、雪名さんがキラキラ女子とは。

「まあ私だって色んな役をやっていかないとだめだしね。それで、役作りでデートでもしてきなさいって社長命令。ついでに自力でキラキラSNS上げてみろって。あ、一応アップ前に白井さんにチェック受けてからだけど」

「なるほど」

 私は頷いた。それなら何となくわかる気がする。

「確かに、雪名さんどっちかっていうとインドア派っぽいですもんね」

「そう?」

「案外、家でゲームとかばっかりーって言われても似合うかも」

 私がそう言うと、雪名さんは首を振った。

「確かに、オフの日は一日中家にいるけど、ゲームとかはしてないわね」

「じゃあ何してるんですか?」

 そう言えば、プライベートの雪名さんなんて全然分からない。興味深々でたずねてみる。

「子供用靴下のカタログとかを、ずっと見てる」

「は?靴下のカタログ?子供用?」

「さすがに子供に踏まれたいとかはないけど。でもあの小さい靴下見てると、時がすぎるのを忘れるわ」

 雪名さんはうっとりと言う。そしてふと、私がドン引きした顔をしているのに気づいて、すぐさま言った。

「安心して。私が好きなのは好葉の足だけよ。子供用靴下はただの観賞用だから」

「いや、嫉妬したわけじゃないんです」 

 私は呆れたように言った。


 そんなふざけた会話をしながら、私は雪名さんと歩いていく。


 ふと目の前に、最近できたばかりのソフトクリーム屋さんが現れた。

「あ、ここ、可愛いトッピング出来るって話題になってましたよね?うわぁ、さすが凄い並んでる」

 ズラッと並んだお客さんの列に、雪名さんはなぜか怯えた顔をしている。

「雪名さん?」

「な、何この行列……みんな暇なわけ?」

「いや、こんなもんですよ。できたばっかりだし、最近何度もテレビにも出てたし、インフルエンサーの人も結構紹介してましたし」

「で、でもまさかこんなに……」

「もしかして、雪名さん、ここに来たかったんですか?」

 私がたずねると、雪名さんはコクリと頷いた。

「ちゃんと事前に調べて、流行ってて、食べづらくなくて、なんか映えるようなのを必死で探したのに……」

「流行ってて食べづらくなくてなんか映えるから、皆来てるんですよ」

「そんな」

 雪名さん、並ぶの嫌いそうだもんなー。

「あ、よかったら雪名さんどっかで待っててくれてもいいですよ?私が二人分買って来ます」

 私が提案すると、雪名さんはキッと睨んできた。

「嫌よ。私を一人にする気?」

「いやだって……」

「好葉、この行列に並んだらどれくらい時間がかかると思ってるの?その間、私がファンとかに見つかったらどうしてくれるの?お詫びに顔でも踏んでくれるわけ?」

「顔踏む話は置いておいて下さい」

 私は興奮する雪名さんをドウドウと落ち着かせた。さてじゃあどうしようか。


「あ」

 私はふと思いついた。

「とりあえず、可愛くて映えて食べやすければいいですか?」

「ええ」

「じゃあこっちに来てください」

 私は雪名さんの前に立って歩き出した。







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