第5話 ファン

 ※※※※


 雪名さんをホテルで踏んだ日から三日ほど経った。


「好葉ちゃん!今日も可愛かったです」

「ありがとう」

 私達は小さなライブハウスでのパフォーマンスを終えて、ミニ握手会をしていた。

 いつのもファンの人たちの他に、少しずつだけどご新規さんもいる。

「テレビで、一生懸命罰ゲーム食らってるのみて、応援したくなっちゃって」

 と言ってる人もいるので、本当に爽香様々だ。

「動画見てきました。アカペラよかったです」

 そう言ってくる若い子もいた。

 動画を撮っているのは奈美穂だ。奈美穂も新規ファン獲得にすごく貢献してくれている。


 私は何もできてないな、とちょっと落ち込む。


「好葉、顔暗いよ」

 つん、と爽香にほっぺを突かれて、私はハッとした。

 やばいやばい。仕事中なのに。


「ほら、いつもの好葉のファン、来ましたよ」

 奈美穂に言われて、私は思わず顔を上げた。


 私の一番熱心なファン、本名は知らないけど、「トモさん」と呼ばれているのは知っている。

「今日も良かったです。あの、曲のラスト、好葉さんがウインクするところ、とても素敵でした」

 爽やかな笑顔でトモさんは私と握手をする。

「いつもありがとう。あ、前くれた靴もありがとうね。毎日履いてる。とってもピッタリだった」

「本当ですか?嬉しいな。僕が選んだのを好葉さんが身につけてくれるなんて」

 トモさんは、私の足をちらりと見て嬉しそうに言った。

「サイズが小さいの、苦労も多いと思いますが、僕は可愛いと思います。小さな足が力強いダンスをしてるの、本当にカッコいい」

「あ、ありがとう」

 感激でジーンとしてしまった。

 トモさんはいつも私の言われたい事を言ってくれる



「好葉ったら、うっとりしちゃってさ〜。ファンに恋愛感情持ったらだめなのよー」

 握手会終了後、爽香がほっぺを膨らませて私を咎めてくる。

「何のことよ。うっとりとかしてないし」

「ウソウソ。トモさんの言葉にとろ~んとした顔しちゃってさー」

「まあ、トモさん素敵なファンですもんね。しつこすぎず、離れずちょうどいい距離感で、それでいて熱心に応援してくれるし。ファンレターも分厚いしね。書きたいことありすぎてSNSのダイレクトメールじゃ文字数制限かかったから紙に書くことにしました、っていう面白いことも言うし」

 奈美穂もやってきて爽香に同調してくる。

「見た目もイケメンってわけじゃないけど、清潔感あって爽やかでなんか品があるしね。好葉、だからってファンに手を出すのは無しよ」

「だから、そんなんじゃないってば!」

 私は必死になって言った。


 本当に、トモさんはそんなんじゃない。ただの私の大事なファンだ。心の支えだ。

 まあ二人共わかってて茶化しているのだと言うことはわかっているけど。


「それにしても、もう少し売れたいよねー」

 爽香がふうとため息をついた。

「確かに、今回結構いい曲出来たと思うけどねー」

 私も爽香に同意した。

「結局、売れるには実力もいい歌も必要だけど、なんかいいきっかけっていうか運的な要素も大事なのよね」

 私達の会話に、マネージャーの赤坂さんが割り込んできた。

「あんた達、なんか知り合いにインフルエンサー的な子いないの?いたら宣伝させてもらってよ」

「マネージャーがそんな外部頼りでいいんですかー」

 奈美穂が茶化すように言うと、赤坂さんはため息をついた。

「そりゃ、できることなら私がなんとかしてあげたいけど。なんとも出来ないのよねぇ」

「諦めないでよー」

 爽香が嘆く。


 ――インフルエンサー的な人か……。人気のある女優の知り合いはいるけど、絶対にそういうことしてくれなさそうだな。

 私は雪名さんを思い浮かべながら思った。








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