第44話 調略:冒険者ギルド

「次が、冒険者ギルドとの交渉。本番ね」


 貴族協会、商業ギルド、ドワーフ村への根回しが終わった。残りは冒険者ギルドだけだ。


「リスリー候と商業ギルド長の件は大丈夫ですか?」


「ええ、いつでも集まれるようになっているわ」


 コバエ長との会見は、アルガン街の主要人物に公開中継する予定だ。三国同盟の案が却下されても、『冒険者ギルドが個人的な怨恨を街の利益より優先した』と印象付けるためだ。


 この時代も便利なもので、テレビのような仕組みが確立されていた。もちろん、テレビカメラやスマホみたいなものはない。ネクロマンサーの魔法を使用するのだ。


 ネクロマンサーは使役したアンデットの視界や聴覚を共有できる。その特性を使用して、中継する仕組みが確立されていた。


 この作成を実行するため、俺たちは昨日ネクロマンサーを探した。三首争奪戦のため中央に招集されていたので探すのに苦労したが、なんとか1人確保できたのだった。


「カイさん、本当に1人で行くつもり?」


「はい、任してください」


「もう外堀は埋まったんだから、これ以上無理しなくてもいいのよ」


「今後のためにも、次の1手は重要です。行きます」


 当初の計画は、ハルさんと一緒にコバエ長と会議を持つ予定だった。だが、商業ギルドと打ち合わせをして考えが変わった。


 商業ギルドでは、冒険者ギルドに対抗するのに力不足だ。これを打破する手を打つ必要がある。


 俺は、アンデットに服を着せ冒険者風にカモフラージュした。そして、冒険者ギルドに一緒に入っていった。


「すみません、ギルド長に会談の申し込みをしたいのですが」


 受付の人に話しかけたときだった。後ろから、肩をぐいっと掴まれ後ろに引きずり倒された。


「おいおい、俺が並んでいただろ。割り込むな」


 3人組のいかつい冒険者が、上から見下ろしていた。


 言いがかりだ。俺が来たときは誰も並んでいなかった。


 俺は立ち上がり、服についたホコリを払った。


「すみません。どうぞお先に」


「どうぞじゃないだろ、割り込んできて」

といって、殴りかかってきた。


 たぶん雑魚冒険者なのだが、それでもバンチが重い。


「待て。これはサラヘイム村のギルド長としての訪問だ。この攻撃は、アルガン街のギルドとしての対応と考えていいんだな?」


「知らんよ、そんなこと」

と言って手を止めずに、攻撃が続く。


「そもそも、そのギルド長の指示だしな」

「お前、それ以上喋るな」


 小声で仲間の1人が注意している。


「暴力はやめろ」


 その声に振り返ると奥からコバエ長が、ゆっくりとした足取りでてきた。


「カイ、すまないな。冒険者は気が荒いもんで。俺が来なかったら危ないところだったな」


 何を白々しいことを言っているんだこのコバエ長は。さっき殴ってきた冒険者だって、コバエ長の指示と言っていた。


「それで、対談を希望ということだったよな」


「ああ、三首争奪戦の対談をしたい」


「まあ、いいだろう。その前にその横の冒険者は出ていってもらうかな」


 俺が連れてきたアンデットを名指しした。


「何のことだ」

「そういう茶番は、いいから」


 中継のことはバレていたようだ。先程絡んできた冒険者が、アンデットを外に連れ出した。


「しかたがない。それでは、ここで話し合いということでいいかな」


 俺は、ギルド会館内の真ん中の席に座った。コバエ長も俺に続く。


 よし、罠にかかった。


 初めから一緒にギルドに入ったアンデットがバレるのは想定済みだった。それを見込んで別の策を仕掛けていたのだ。


 コバエ長は俺の前の席に座らなかった。立ち止まらずに、そのままギルドの隅まで進んだ。


「ふはははは。お前も愚かだな。こんな手にのると思っているのか。この冒険者もつまみ出せ」


 隅で食事中の冒険者を名指しした。


「お前が来る前に、中継者を冒険者ギルドに潜入させていただろ。見え見えだよ」


 俺はつまみ出されるアンデットの姿を、呆然と見ているしかなかった。


「これで、誰の目もなくなった。話は聞いてやるが、その前に殴らせてもらっていいかな」




◆◆◆


 どれだけ時間がたっただろうか。

 もう意識も絶え絶えだ。


 その時だった。

 ギルドのドアが開いた。


「おい、ここは今閉鎖中だ。誰だ」

「俺だよ俺」


 入ってきたのは、引き締まった体をした、体に複数の傷を持つ男だった。体にオーラをまとっているような、威厳がある。


「何だ。ゴバイか」


 この人がゴバイか。ゴバイはアルガン街のA級ランクの冒険者。去年の争奪戦では、個人5位となった猛者だ。


「こいつが、言っていたカイか」


「ああ、生意気なやつだ。まだまだこんなんじゃ物足りない。もっと痛めつけてやる」


「あとは俺がやっておく。それより、貴族のリスリーの動きが慌ただしいぞ」


「リスリーか。ホントにめんどくさいな、いいとこなのに。次はあいつがターゲットだ」

と言って、コバエ長は外にでていった。


 そのまま俺は気を失ってしまった。




◆◆◆


「カイさん、カイさん、大丈夫?」


 気がつくと宿のベットに横わたっていた。体中が痛い。


「ごめんなさい。リスリーさんからの救援が遅れて」

「いや、助かったよ。こうして生きているし」


 ハルさんは、俺の右手を祈るような姿で包み込むように握っていた。


「それで、ハルさんの方だどうでした?」

「成功よ。説得できたわよ」

「さすが、ハルさんです」


 今回の交渉は、ハルさんが主役だった。ハルさんは、三国同盟設立の鍵となる人物の説得をしにいっていたのだった。


 冒険者ギルドが俺たちを監視していることは、街に入った時点から気がついていた。俺は監視の目をかい潜るための囮として、コバエ長に会いに行っていたのだ。


 ネクロマンサーのアンデットも、俺が連れて行った2体は両方ともダミー。中継用のアンデットはハルさんが連れて、交渉会場に行った。


 リスリー候と商業ギルト長は、俺の中継を見るために集まったのでなく、ハルさんの交渉を見るために集まったのだった。


「では、これから逆襲といきますか」


 優れた人物鑑定のスキルを持ち、人心掌握に優れたハルさん。


 戦略レベルの大きな視点で構想を練れる俺。


 この2人のコンビにとって、コバエ長なんて、はなから敵じゃないんだよ。これで準備が整った。いくぜ、これから怒涛の快進撃を見せてやる。

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