第43話 調略:商業ギルドとの交渉

「最終議案は、領地対抗戦の三国同盟について」


「では、サラヘイム村のハルさん、お願いします」


 ここは商業ギルドの定例会議の会場。俺達はここで同盟の説明をできることになっていた。


「私達の提案は三首争奪戦での三国同盟です。対象はアルガン街、ドワーフ村、サラヘイム村です。その理由として……」


「議長、話の前に質問いいかな」


 手を上げたのは商業ギルド長だった。


「三首争奪戦は冒険者ギルドの管轄だ。商業ギルドでは、仮に合意したとしても何の効力もない。それで大丈夫か?」


「はい、冒険者ギルドとは、あとで直接交渉します。今回は、様々な方に提案内容をご理解していただくのが目的です」


「それでは続けて」


 商業ギルド長は、説明を促した。商業ギルドは、今は冒険者ギルドに牛耳られている。そのため冒険者ギルドには逆らえないのだ。


「この同盟の目的は、環状道路の敷設を推進するためです」


「環状道路って何だね?」


「周辺主要都市を通る円形の道路です。今は中央の原始中央領から放射線状に伸びている道路しかないためです」


 出席者は口をあけてポカンとしている。理由を説明ないとダメか。商人だったらすぐ理解してくれると期待していたのだが。


「原始中央領は長年2位の順位を維持しています。その理由は交易利益の独占です。南西にあるラキモン領と取引しようとした場合どうしますか、商業ギルド長?」


「直接取引はないね。原始中央領に販売するよ」


「そうです。我々は原始中央領に売って、原始中央領がラキモン領に販売しています。そのため、原始中央領が利益を独占できる構造になっています」


「なるほど」


 言葉をもらったが、反応が薄い。参加者の表情がゆるく、気が抜けている。本当にわかっているのかな? 


 他の街に売る経路がないから市場原理が働かないのだ。それを環状道路で覆せば、アルガン街でも利益を上げやすい構造になる。


 長期期な政策だが、それを克服しないことには構造上原始中央領の支配から抜け出せない。それが伝わっていないようだ。


 商業ギルドは、こういった話に興味を持つともったのだが失敗だった。アピールポイントを間違えた。


「三首となった領からは、大師が多く選ばれるようになります」


 ハルさんが助け舟をだしてくれた。大師というのは、原始教の高い身分の称号だ。原始中央領は名前からもわかるように、原始教の総本山でもある。


「「「おおー」」」


 低いどよめきがおこった。明らかにハルさんの提案の方に興味を惹かれている。そっか、原始教の信者が多いんだ。だから、原始教に対抗する提案に対しては関心が低いのか。


 例えて言うと『トヨタを倒そう』というのが俺の提案だとすると、『トヨタに入社しよう』というのがハルさんの話だ。


「それで、同盟したら3位になれるのでしょうか? アルガン街としては、両方の村を倒して、確実にポイントを獲得したほうが、確実だと思うが」


 商業ギルド長からの質問だ


「みなさん、ドワール軍の防御の高さはご存知かと思います。同盟することで、その戦力をアルガン街の防衛に使えます」


 参加者が頷いているのが確認できる。


「サラヘイム拠点とドワーフ拠点に行くには、地理上アルガンの拠点を通らないといけません」


 俺は地図を描いて説明した。


「そのため、ドワーフ軍2人をアルガンに配置さえしていれば、3国の強力な防衛ラインになります。後は人数差を利用して、各個撃破してば勝てます」


「実に理に叶った提案だ。ありがとう。ハルさんとカイさん。この件に限らず今後ともよろしく頼むよ」


「はい、このような機会をいただきありがとうございます」


 こうして商業ギルドとの会議は終わった。


 ただ一つ懸念点があった。商業ギルド長の野心が低いことだ。コバエ長を引きずり下ろして、擁立する候補としては弱い。


 何はともあれ、これでアルガン街で目標としていた根回しはすべて終わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る