第42話 調略:ドワーフ村との交渉
「こんにちは、私はサラヘイム村のハルと申します」
「おう、こんにちはハルさん」
「代表のサーシャさんですよね。去年の活躍拝見しました。あの鉄壁の防御素晴らしかったです」
この子供がドワーフ?
いや、俺知ってたから。
武器屋にドワーフって鉄板じゃん。
気が付かないフリをしていただけだから。
「カイ。この短剣、大事に使っているのがよくわかったよ。お詫びに俺が研いでやるよ」
「やだよ」
「はぁ? 俺様が研いでやると言っているんだよ」
話の感じからすると、サーシャさんに研いでもらえることは光栄なのだろう。ハルさんが、動揺しているのがわかる。
「お前、研ぎ方がめちゃくちゃって言ったよな」
「そうだよ。でも丁寧にやってることはわかったよ。言い過ぎて悪かった」
「そうじゃなくて、研ぎ方を教えてほしいんだよ」
サーシャの目が点になった。
その直後大笑いし始めた。
「そのうち教えてやるよ、今回は俺に任せろ」
「だから、ヤダって」
「強情だなあ。俺が研いだ短剣なんて値打ちもんだぞ」
「値打ちものだからだよ。もったいなくて使えなくなるだろ。これは、ドルハさんが俺が強くなるようにともらった短剣だ。その気持ちに応えられなくなる」
再びサーシャは大笑いした。
「そうか、才能はなさそうだけど、心がけがいい。面白いやつだ」
何を1人で納得しているんだろうか?
しかも才能がないとは何事だ。
「それで、剣を買いにきたんだったよな。カイだったら、その短剣で十分だろ」
「俺のではなくて、同じ村のドルハさんという剣士の剣だよ」
ハルさんが、俺の背中をツンツンしてきた。なにかと思って近づいたら耳元で囁かれた。
「敬語を使って。サーシャさんは、村長のお子さんです。あと若く見えますが40歳は越えてます」
うそ、子供かと思ってた。
「ドルハだったら、知ってるぞ。この剣がいいんじゃないか? 店主。これ買うぞ」
「すみません。申し上げにくいのですが、サラヘイム村の方には売れないのです」
「何故じゃ」
「ギルドからお達しです。敵対地域なので武器の販売は禁止となっています」
そんなの初耳だ。
アルガン街と敵対しているつもりはないぞ。
「はぁ。この街はどうなっているんだか」
「サーシャさん、お話があるのですが、お昼でも一緒にどうですか?」
「いいぞ、ここはうまいのが多いからな」
そうして俺達が泊まっている宿屋の1階の食堂に移動した。ここのオムレツが美味しいのだ。
食事をしながら、三国同盟の打診をした。
「なるほど。サラヘイム村は、順位アップと村発展が目的か」
俺とハルさんは同時に頷く。
「アルガン街は3位に入って、三首会議入り」
「そうですね」
「でも、ドワーフ村は経済発展も順位アップも望んでないからな」
無欲か。
無欲の人を説得することは難しい。
「では、なんのために三首争奪戦に参加しているのですか?」
「宣伝じゃ。うちは技術談義が好きだからな。作った武器を極限まで酷使する達人や、志のある鍛冶屋とつながりを持ちたいんじゃ」
知的好奇心をかき立てる人とリ知り合いにないたいわけか。俺もドワーフと似たところがある。
転生してからの2ヶ月と少し、今までになく充実した人生だった。
それも、ハルさんから宿代稼げたの、三首争奪戦で勝てだの無理難題があったからだ。
それを克服するために、知恵を絞って行動すること。それが生活の充実につながっている。
ハルさんからの無茶な課題を出されることを、俺は心の奥底では望んでいたのだ。
サーシャさんもこの俺と同じなのだ。
「サーシャさんの望みの本質がわかりました」
サーシャさんとハルさんの視線が、俺の口元に集まる。
「サーシャさんはブタなのです。女王様に鞭でたたかれて喜ぶブタと同じなのです」
ハルさんに耳を引っ張られ、別室に引きずられた。
「あんた、いったい突然なんてこと言い出すのよ」
「本質をついた言葉だと思ったのですか」
「どういった思考回路をしたら、あんな言葉が出てくるのよ」
「そうですよね。血迷いました」
かっこいい名言を思いついたと思って、そのまま口に出してしまった。冷静に考えたらSMの概念はこの世界にない。女王様といったら、本物の女王様を意味してしまう。
別室から覗くとサーシャさんは、腕を組んて目をじっと閉じている。
「サーシャさん、先程の言葉はすみません」
「いや、いいたいことはわかった。剣士から無理難題を言われても、それを解決するのが喜びってことじゃろ」
何か自分で勝手に納得しているぞ。
サーシャさんは頭が良くて助かった。
「いい言葉だ。『我々ドワーフは女王様に叩かれて喜ぶ豚だ』を家訓にするぞ」
前言撤回。
サーシャさんは馬鹿だ。大馬鹿者だ。
「それで、ドワーフの望みの本質と同盟に関係はあるんか?」
「同盟したら、我々が鞭を与えます」
「例えば?」
「さっきの斬馬刀とか」
「あれは、荒唐無稽すぎて話にならん」
荒唐無稽とは聞き捨てならない。
だが今は説得に集中するか。
そうだ、武器屋で発注しようと考えていたことが一つあった。それを頼んでみよう。
「私が開発中の弓を見てもらえますか?」
俺は急いで部屋に戻って、弓を持ってきた。
「これは、弓なのか?」
「正確には孥と言います。弱い人でも弓の達人となれる武器です」
「ふむふむ。あらかじめ弦を引いて、セットしておくのか」
弓は金属ではないので関心あるか心配だったが、杞憂だった。
「どうやって、射つんじゃ」
「この木のレバーを引くことで発射できます」
「面白い形じゃな。機械仕掛けか」
「それで話というのは、このレバーです。強度が足りなくてすぐ壊れるのです。何か工夫できますか?」
孥を手に取ると、レバーの仕組みを観察していた。
「これは、カイが考えたのか?」
「そうです」
サーシャはゆっくりと孥を床に置いた。
「良いじゃろう。お前と一緒だと、人生楽しくなりそうだ。同盟の件善処する」
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