三首争奪戦
第37話 作戦:対策会議
3月に入り、風が暖かくなってきた。
俺がこの村についたのが1月。
もう2ヶ月たったのか。
感傷に浸りながら歩いていると、目的地についた。
「ドルハは出かけてて、しばらく帰ってこないよ」
そう答えたのはドルハさんの奥さんのセツナさんだった。
ハルさんからの言付けで、ドルハさん宅に来ていた。何でも三首争奪戦に向けて、参加者で作戦会議をしたいらしい。
テーブルの影からドルハさんの髪の毛が飛び出ているのが見える。あんな大きな体で、あのテーブルに隠れられると思っているのだろうか?
ポーロさん宅でも居留守を使われたんだよなぁ。
俺の視線に気がついたセツナさんは、軽くため息をついた。
「もうこの時期になったんだね。三首争奪戦さえなければ、あの娘もいいお嬢さんなのに」
三首争奪戦は16町村が参加する、いわば世界大会のようなものだ。
毎年春の訪れを記念して4月に開催されている。内容は得点を争う戦争ゲームみたいな競技だ。
上位3町村は、三首領地として全地域の運営権を持つ。そのため政治的にも重要な位置づけとなっている。
セツナさんの話によると、去年はサラヘイム村の代表としてドルハさんとポーロさんが出場したということだ。
不甲斐ない成績だった2人はそうとうハルさんから詰められたらしい。普段のハルさんからは想像もつかない。
ドルハさんとポーロさんが恐れるなんて、いったい、ハルさんは何をやったんだ?
「スポーツ大会みたいなものですよね?」
「ハルさんは、三首争奪戦のために、この村を興したのよ。甘く見てはだめよ」
それは初耳だ。困った人を助けたいとか、そんな理由じゃないかと勝手に想像していた。
「いい、期間中はお酒を飲ませたらだめよ。飲ませたらおしまいよ」
そう何度もセツナさんに言い聞かされて、宿に戻った。
◆◆◆
「しょうがないわね。二人で始めましょうか」
宿のテーブルにハルさんと向かい合って座った。
「それで、サラヘイム村は去年何位だったんですか?」
「16位のビリよ。だから、今年はビリを脱出したいの」
やっぱりビリですよね。村人が9人しかいなかったのだから、しかたないだろう。
「勝つために、三首争奪戦の対策本部を設置しましょう。略して、えーと、まあいいわ。略称なんて」
思いつかなかったんかい。
と心の中で突っ込む。
「本部長は私で、作戦隊長はカイさんね」
「はい、ベストを尽くします」
作戦隊長なんてかっこいい役職もらったぞ。これはテンションあがる。
「では、明日までに作戦考えて、プレゼンしてもらえるかしら?」
「明日ですか? 俺何も知らないですよ」
ルールも今朝セツナさんからちょっと聞いただけだ。流石に、何も知らない状態では作戦をたてられない。
「それもそうね。ちょと資料取ってくる」
と言ってハルさんは席をたった。
俺が聞いた三首争奪戦は次のとおりだ。
始まりは、200年前。10年にも及ぶ世界大戦で、どの領地も疲弊していた。そこで戦争を模した競技を持って、決着をつけるということになった。
この名残により、三首争奪戦の勝者には大きな権限が与えられる。いっぽう敗者は蔑まされやすいということだった。
勝負はポイント制。現状の世界を縮小した形のマップで戦う。参加可能人数は、納付金で決まる。
ルールとしてはシンプルな競技だ。
一番厄介なのは、納付金のルール。うちみたいな小さな村では、参加人数を増やせないので勝ち目が薄い。
考えているとハルさんが戻ってきた。
山程のノートを両手で抱えている。
何この量?
これ、ハルさんが書いたのか?
ノートをパラパラとめくるとぎっしりと文字が書かれていた。これ全部ハルさんの字だ。
参加者の名前やその人の特技、大会での活躍内容が書かれている。
すごい熱量だ。
「これ5年分の資料ね。では、去年の作戦と様子を説明するわね」
ハルさんは机の上に地図を広げた。
地図は島の形をしていて、南東にサラヘイム村と書いてあるのが見えた。
サラヘイム村は、西にアルガン街、北にドワーフ村と接している。中央への出口は、アルガン街に塞がれている形だ。
この位置関係は厳しいなぁ。中央に進出するには、アルガン街を倒すしかない。アルガン街は、人口1,000人はいる大きな街だ。去年の順位も5位と強い。
ハルさんは各村の位置に石と棒を置いた。石は拠点で、棒は人を表しているみたいだ。
ハルさんは、すぅーと大きく深呼吸をした。
なんだ? 何を始める気だ?
「さて、やってまいりました第212回三首争奪戦。右から入場しますのは、東南地域の隠れし狂犬。サラヘイム村!! 今年は密かに研いできた牙を……」
「ちょっ、ちょっと待って、ハルさん」
びっくりした~。突然実況アナウンサー口調で喋り始めるんだもん。
「え、何? せっかく調子に乗ってきたところなのに」
「心の準備ができてなかったので。はい、いいですよ」
説明を止めようと思ったが、ノリノリのハルさんのテンションを下げるのは忍びなかった。
いつもと違う姿のハルさんの姿を皆さんにお披露目するのは、気が引ける。ということで、ここは俺がまとめた要点で我慢してもらいます。
サラヘイム村の選手は2人。一方アルガン街は12人。開始直後アルガン街は4人でサラヘイム村の拠点を襲いにきた。
ドルハさんとポーロさんはよく守ったが、人数差を覆せず敗退ということだった。
「これでは、勝ち目がないんじゃないですか?」
「隣のドワーフ村も同じ条件なのよ。参加者2人で、アルガン街から4人で攻められたの」
ということは、ドワーフ村より長く生き残れば順位があがるのか。
「ドワーフ村は防具がすごいのよ。アルガン街の攻撃を防ぐこと防ぐこと。総攻撃もまた防いだー。ドワーフ村の殿下の宝刀、宝印の盾が本領発揮しています。青白く輝くそのオーラはいかなる攻撃も防ぐ、まさに鉄壁の盾」
「ハルさん。落ち着きましょう。口調がだんだん実況っぽくなってきています」
ハルさんは、握りしめた拳に気がついて、恥ずかしそうに座り直した。
「それで、ハルさんは何か勝つアイデアがあるのですか?」
「ちょっとした活動はしているんだけどね。決め手がないの」
勝つための活動として次のような事をしていたそうだ。
・ 冒険者と定期的に模擬戦
・ ドワーフ村の防具購入用の資金準備
・ 隣街の参加者の視察と欠点調査
3月からドルハさんとポーロさんに次の活動を追加したそうだ。
・腕立て、腹筋、スクワットを毎日100回
・10キロランニング
・勝つための心得10箇条を朝夕100回唱和
これがちょっとした活動だって?
これ以上の対策無理でしょ。
特に3月からのドルハさんとポーロさんのノルマはひどすぎる。
誘いに行ったら、隠れられるわけだ。
さすがに2人の負荷を下げてあげないと可哀想だ。
「それで、勝つためにカイさんの力を借りたいの。お願い」
ハルさんは上目遣いで頼んできた。
「はい、もちろん喜んで。死力を尽くします」
反射的に承諾してしまった。
ドルハさん、ポーロさんすみません。
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