第36話 付録:セシリア視点
「セシリアさん。お話いいですか?」
ギルドの受付をしているハルさんだ。人当たりがよく、芯のしっかりしている女性だ。
こんな女性になりたいと思う憧れの存在である。
「セシリアさんを見込んでのお願いなのですが」
ということは、魔法のお願いかな。魔法を頼られるのは、嬉しい反面、憂鬱な気分にもなる。
それは、魔法を使う度に、劣等感に苛まされるからだ。
4大魔術師ということで、将来を期待され英才教育をうけた。うちは裕福でないが、両親は私に多額の教育費用を払ってくれた。
だけど、魔法の威力、詠唱スビードが低すぎた。期待して近づいてきた人は、みな失望して私の元を去っていった。
「カイさん、アカネちゃん、ジョルドさんで鉱山冒険に行くので、そのリーダをお願いできない?」
「えっ?」
私がリーダー? リーダーなんて、したことがなかった。
私は、人の後を黙ってついていくタイプだ。リーダーとは正反対の性格だ。
「ありがたいですけど、私には難しいです」
ハルさんは何も言わずに、私の目をじっと見ている。気まずくなって、慌てて何か話そうとしたら、ハルさんがゆっくりと話しはじめた。
「セシリアさんにとって、リーダは難しいんですね」
「ええ、私は魔法しか勉強しなかったので。それよりも、みんなが魔法師としての大成を期待しているので、そっちを頑張らないと」
「そうですよね。みんなが魔法師として期待しているんですよね」
「ええ、立派な魔法師にならないといけないので」
「セシリアさんは立派な魔法師にならないといけないのですね」
そう言って、ハルさんはじっと私を見つめていた。お別れの挨拶をして、宿を後にした。
経験値を積むために、この村に思い切って来た。だけど他の冒険者と比べても、私の実力は劣っていることが思い知らされただけだった。
こんなことで、実家の期待に応えられるのだろうか? みんなが私の成果を期待しているし、立派な魔法師になって欲しいと願っている。
ハルさんも、そう言って私に期待していた。
いや、違う。ハルさんは私の言葉を繰り返していただけだった。あれは私自身の言葉だ。期待に答え、立派な魔道士にならなければならないと思っていたのは、すべて私の考えだ。
ハルさんの言葉は最初の一言だけだ。リーダーをお願いしたいという一言。私は再び宿に戻った。
「リーダーの件、引き受けます」
勝手に人の期待を自分の中に作り上げて、それに縛られる。そんなことやめて、一歩踏み出してみよう。
◆◆◆
「リーダーは、戦闘経験が多い私がします」
カイさん、アカネちゃん、ジョルドさんが集まった最初の会議で宣言した。このとき、胸がドキドキし、手は震えていた。
みんな受けいてれくれるのだろうか? そんな不安でつぶされそうだった。
ふとカイさんを見ると浮かない表情をしている。やっぱり、私がリーダーということに不満なんだ。そうだよね。考えてみたらカイさんの方がリーダとして適任だ。
リーダー変更を申し出ようとしたときだった。
「カイは、ずっこけリーダーね」
アカネちゃんが大きな声で話した。それを聞いたカイさんの顔が、すごく輝いていた。満面の笑みだ。これ以上ないぐらい幸せそうな顔をしている。
えっ? カイさんってずっこけリーダーやりたかったんだ。こんなこと言ってはいけないけど、カイさんの幸せちっちゃ!! ちっちゃすぎるよ。
これをきっかけに、気持ちがすっと楽になった。
それから実戦訓練に移った。その中でガルドさんから、カイさんと2人のときの近接戦闘時の対応を課題に出された。
はぁ、やっぱり近接戦闘が課題よね。カイさんには私の魔法のこと説明しておかないと。少し憂鬱だ。
「私、魔法の詠唱スピードと威力が弱いの。だから魔法の種類は多いけど、戦闘力は低いの」
「やっぱり、そうだったんですか」
この話をして何人もの冒険者から距離を置かれた。何か言われることは覚悟していた。だが、ここまでストレートに言われるとは思わなかった。
「判断が早すぎると思ってたんですよ」
んん?? この人私の話を聞いていたのかな? 私の魔法能力が低いこととぜんぜん文脈が繋がっていないんだけど。
「人は弱みが強みになるんですよ。セシリアさんの場合詠唱時間がかかるから、先を読む能力が鍛えられたんですよね」
確かに詠唱するときは敵の動きを読んで、事前に詠唱を始めている。これは、自分の遅さを挽回するためだ。このことを言っているのか。
「逆に。強みが弱みになるから注意しないとね。俺の場合女性関係での転落に気をつけないといけないなぁ。俺ってかっこいいでしょ。だから・・・・・・」
カイさんの言葉を遠くに感じながら、考えていた。『人は弱みが強みになる』
確かに詠唱スピードが早ければ、先読みしようとなんて考えなかっただろう。そういった観点で、自分を見直してみるか。
「セシリアさん。聞いてますか?」
やばっ、完全に自分の世界に入っていた。
「もちろんですよ」
「足元を凍らせて足止めする案はどうですか?」
「私の魔法、足元凍らせるほど強くないわ」
希望をもったばっかりだったが、すぐに崩れ落ちた。やっぱり、カイさんも標準レベルの力をあてにしている。
「足元に水をまいとけば、強化されないですか?」
「それでも詠唱が10秒かかるから間に合わないわよ」
「俺がタックルして時間稼ぎますから大丈夫ですよ」
タックルって何を言っているの? 武力8って前言ってたよね。自分の実力をわかっているのかしら。
「危なすぎます」
「大丈夫ですよ、信頼してますから」
「だから私は信頼できるほど強くないわよ」
「セシリアさんの判断力も含めて信頼しているんですよ」
私の信頼してタックルしてくれるのか。
タックルするのは私を信頼してくれてる証拠なのね。
「では、練習しましょうか」
そうして、カイさんと日が暮れるまで練習したのだった。
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