第34話 探検:反省会
宿につくと、反省会ということでセシリアさんから集合がかかった。
反省会か~。
いろいろ指摘されそうでやだなぁ。
行くのを渋ったが、『反省会をしない冒険は、いちごがのってないケーキと同じ』と、わかりそうでわからない微妙な例えで説得されて食堂にきた。
おおー。おいしそうな料理がテーブルから溢れんばかりにのっている。
「みなさん、お疲れ様です。みんな無事に帰って来てくれて、安心しました」
ハルさんが豪華な夕食を用意してくていた。
反省会の名の元の成功パーティーを開いてくれるようだ。
「イチゴがない・・・・・・騙された」
とアカネちゃんは呟いていたが、そこはスルーすることにした。
「それでは、お疲れ様でした」
セシリアさんの乾杯で、みんなで飲み物で祝杯した。
その後は、アカネちゃんの敵を受け止める安定感がすばらしかったとか、ジョルドさんのプルが芸術的だとかいう、褒め合い合戦になった。
あれっ?
おかしいぞ。
1時間もたっているのに、俺への褒め言葉が一つもない。
「みんな、なんか冒険の最大の功労者への賛美がないような気がしない?」
「みなさん頑張りましたけど、誰のことをお話ですか?」
そりゃみんな頑張ったけど、俺への褒め言葉が1つもないのは寂しいよ。
ゴホン、ゴホン。
大きめの咳をいれた。
「ああ、そうですね。カイさんの初めのタックル素晴らしかったですよ。下からぐいっと入るところが」
「ありがとうございます」
俺の気持ちを察してくれたのか、セシリアさんは優しくフォローしてくれた。
「あとはですね、2回目のタックルの突入角度が良かったですね。あの踏ん張りが効きにくい微妙な角度でのタックルが」
「いやいや」
「あとは良かったのは、タックルで・・・・・・」
「セシリアさん。いったんタックルから離れましょうか」
俺は弓の役割でパーティにはいったんだよね。
何で、セシリアさんの褒め言葉はタックルしかないのだろうか?
ナゾすぎる。
「アカネもカイは凄いと思ったよ」
おっ、そうでしょ。後半は矢をほとんど外してないし。
「亀の防御。どうやってやるの? 教えて、教えて」
「いや、それは・・・・・・」
二度目のタックルで時間を稼いたときの話か。痛かったから体を丸めただけなんだが。
アカネちゃんはどうして心をえぐるようなことを、無邪気に言えるのだろうか?
「私も凄いと思いましたよ」
我がパーティの良心。ジョルドさん。
俺のことを理解してくれるのはジョルドさんだけだよ。
「アカネに脚を踏まれたところ。あらかじめ靴を脱いて準備してんですよね? いつから計算してたんですか? 勉強になります」
何か期待していた褒め言葉と違うんですけど。
いったん俺の褒め言葉の件から、話題をずらそう。なんか、とっても疲れた。
「セシリアさん。最後のポーションには助かりました。おかげで、逃げ切れましたよ」
「そうね。どういたしまして」
セシリアさんの反応は淡白だな。あれがなかったら、俺は逃げ遅れて死んでいた。
こんな言葉だけでは表せられないぐらい感謝しているのに。
「鉛のような足が、スキッとした爽やかなポーションが口に入ったとたん、足が羽のように軽くなりましたよ。あのポーションの効果はすごいですね。あのタイミングでくれるなんて、さすがセシリアさんですよ」
「ポーションって甘くなかったっけ?」
アカネちゃんが口を挟んだ。
「スキッとした爽やかな味って、魔法ポーションではないですか?」
魔法ポーション?
セシリアさんの方を見たら、視線を横にそらした。
「セシリアさん。魔法ポーションっていったい・・・・・・」
「回復ポーションが切れてたからね。カイさんだったらいけるかなと思って」
あ、あれか。
プラセボ効果というやつか。
偽薬でも信じると効果が出るという現象のことだ。
めちゃくちゃくちゃ恥ずかしい。ありもしない効果を堂々と話しちゃったじゃないか。
「ちょっと風を浴びてきます」
宿の外にでて、いったん空気のリセットだ。
外の風には少し暖かさが混じっていた。
ここに来た当初は、冷たい風が吹いていた。季節の移り変わりは早い。
初めは獣を1匹も狩れなかった。でも、鉱山に行って魔物を狩れるようまで成長した。
初月は宿代を払えなくて、もう終わりだと思った。今はどうだ。大金を稼げるようにまでなれている。
何もないと思っていたこの村。だけど、人と触れることで、暖かさ、厳しさ、ぬくもりと様々なもので溢れていることに気がついた。
誰かが近づいてきて、俺の隣に並んだ。スイセンのような透明感がある香りがただよった。
「カイさんありがとう。セシリアさんを見てもらって」
「とんでもない。セシリアさんには助けてもらってばかりでしたよ」
謙遜ではない。
実際にそうだった。
「セシリアさんの顔を見たら分かるわ。何か吹っ切れたみたい。これもカイさんのおかげよ」
「俺は何もできなかったですよ」
「そうね。カイさんはほんと何もできないわよね。ここに来てからトラブルばかり起こすし」
ひどい、言いようだ。
言い返そうと思って、ハルさんの横顔を見たら、柔らかな表情で何もない空を眺めていた。
「カイさんは小さな歯車。自分だけでは何もできないけど、みんなのスキマに入り込む」
ハルさんのしなやかに動く唇に見とれてしまった。
「それがきっかけで、この村の空回りしていた歯車が噛み合い、ゆっくりだけど大きく動き始めたわ」
ハルさんが俺の方を向き、俺の右手をとった。
「ありがとう、カイさん。この村に来てくれて」
◆◆◆ 第一部完 ◆◆◆
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