第31話 探検:地下2階

「ジョルドさん、奥に進みましょうか」


 休憩が終わって話すセシリアの姿からは、迷いが消えたように見えた。


「この先は、2回しか行ったことがないです」


「わたしも、この先は1度しかいったことがないのよね。降りてしばらく行ったところにある広場は知っている?」


「薬草がいっぱい生えているところですよね。知っています。」


「では、そこで狩りしたあと薬草を摘んで帰りますか」


 広く開けた空間の先は、2人ぎりぎり通れるぐらいの広さの通路になっていた。細い通路を下っていく。


 後ろを振り返ると、セシリアさんが液体を撒いていた。


「火炎用の油ですか?」


「いえいえ、水ですよ。いざという時のためにトラップを用意しています」


 流石にこんなところに油をまいたら、危ないか。降りた先は、再び勾配のない平らの道になった。


 ジョルドさんは、一番太い道を進んでいく。ここの通路は、曲がりくねっていて、途中でいくつもの分岐点があった。


 この地図作成はやりがいがある。俺はは見える範囲で丁寧に、ラインスキルで道を描いていった。


「ここです」


 ジョルドさんが示した先は、半径20メートルはある半円球となっている場所だった。半分は壁となっており、もう半分には洞窟の穴が5つ繋がっている構造だ。

 広くひらけており、狩りしやすそうな場所である。


「ここにゴブリンを連れてきて狩りをしましょう」


「ゴブリンをここまで引っ張ってきます」


そう言うなりジョルドさんは音をたてずに、洞窟の暗闇に潜っていった。


「早く、来ないかなー」


 アカネちゃんは、目の上に手をかざして奥を見ている。


「はっけーん」

と言うなりアカネちゃんは、駆け出した。


「3匹いっくよ~」


 巡回中のゴブリンを見つけたらしい。アカネちゃんは俺達の近くまで、ゴブリンを引き付けて戦い始めた。あとは俺とセシリアさんで攻撃して一匹ずつ倒していけばいい。


 俺が矢を放つとその矢はゴブリンの頭に突き刺さった。


「やったぜ、会心の一撃」


 弓を天井に突き上げて喜んだ。


「カイさん、ターゲットされました」


 矢を頭に刺したゴブリンが血走った目をして、突進してきた。会心の一撃が仇となった。


 アカネちゃんに向かっていた1体が、俺に向かってきている。まずい、張り付かれたら俺とセシリアさんではどうにもならない。


 アカネちゃんは2体の対応で、こちらを助ける余裕がなさそうだ。


「セシリアさん頼む」


 そう言うと弓を投げ捨てた。突進に合わせて、ゴブリンに低い姿勢でタックルした。


 ぐお、これでも倒せないのか。殴られないように、必死で体を密着させる。


 ゴブリンは10歳ぐらいの体格だが、俺よりも力が強い。どんどん押し込まれる。体がきしみ、骨が悲鳴をあげている。


「3体、持っていきます。」


 ジョルドさんの声が遠くから聞こえた。最悪のタイミングだ。隊列が崩壊しているこの状態では耐えきれない。


「アイス」


 セシリアさんの呪文で足元が凍った。俺は踝まで凍った靴を脱ぎ捨てて、その場から離れた。


 俺と組み合っていたゴブリンは足が凍り、身動きが取れないでいる。


 事前の練習通りにうまくいった。


「助かった、セシリアさん。ジョルドさんは?」


「ジョルドさんは、ゴブリンを違う方に誘導していきました」


 ジョルドさんはこっちの状況に気がついたのか。グッジョブ。


 俺は弓を拾ってすぐに構えた。ゴブリンと組み合っていたのは、時間にして10秒足らずだった。だが、それだけでも全身が重い。


「ファンクショット」


 矢が氷で身動きのとれないゴブリンの胴体に突き刺さった。ファンクションのスキルは優秀だ。こんなに疲れていても、同じ動作が出来る。


「よし、この一体をまず倒そう。アカネちゃん、大丈夫か?」


「なんとか大丈夫」


 こんなの2匹相手に出来るアカネちゃんってどうなっているんだ。


 俺とセシリアさんは目の前の氷で動けないゴブリンを集中して倒した。


「カイさん、ジョルドさんが危険です。全力でアカネちゃんの2体倒します」


 洞窟奥で、ジョルドさんが幅いっぱいを使って、時間を稼いでいるのが見える。この狭い洞窟でこれ以上ゴブリンを誘導し続けるのは厳しそうだ。


 くそっ、1体倒すのが遅れただけで、こんなに苦戦するなんて。次の弓をひこうとした時に、ジョルドさんが洞窟のさらに奥へ続く通路に行こうとしているのが見えた。


 アイツ、なにやってるんだ。

 奥にいったら、死ぬぞ。


 ゴブリンを3匹引き連れている状態でこっちに来たら、俺たちもやばい。だからって、犠牲になって死ぬつもりか?


「ジョルド、かまわずこい」


 自分でも、そんな言葉が出たことに驚いた。何の勝算もないのに、いったい何を言っているんだ俺は。


「すみません、6体」


 3体増えている。逃げている間に、他の巡回に見つかってしまったのか。だから、奥に行って俺たちを助けようとしたのか。

 まったく、あいつはもう。


「アカネさん。出口方向に後退。カイさん刺激袋に火」


 セシリアさんは、指示をしながら刺激袋をジョルドさん側の通路に投げ入れる。


「ジョルドさん、数に合わせて飛び込んできて。10から。あとはカイさんお願い」


 何だ? こんな作戦なかったぞ。

 俺に何を期待しているんだ?


 セシリアさんに確認しようとしたが、すでに魔法の体制にはいっていた。セシリアさんは魔法の発動まで10秒かかる。


 その間、彼女は指示ができない。


 とりあえず、カウントダウンだ。


「10! 9! 8!」


 セシリアさんは、風の魔法の詠唱を始めている。

 何で今のタイミングで風の魔法なんだ?


 とりあえず、刺激袋だ。

 刺激袋を使うのには燃やさないと。


 燃やすには火矢か!!


 あの小さな刺激袋に矢をあてるのはかなり難しいぞ。


 ファンクショットで型は安定しているとはいえ、照準をあのレベルに合わせるのは俺の今の実力では無理だ。


「7! 6! 5!」


 まず一射して、次の一射に賭けるか。

 いや、だめだ。

 タイミングを逸する。

 何か矢の照準を合わせる方法があれば。


 レーザーで照準を合わせるのが、一番正確だ。レーザーさえあれば……。


 こんなこと、今考えてもしょうがない。

 もう射つしかない。


 いくぞ。


「4! 3!」


 そうだ、そうだった。あるじゃないか。

 俺にはレーザーが、それで照準を合わせられる。


「ライン」


 俺は、矢の先と刺激袋の間に線を描き出した。


 よし、この線を目印にして構えれば当たるはず。この3D描写のスキルと弓はすごく相性がいい。これならいけるぞ!!


「ゼロ!!」


 俺の声と同時に、ジョルドさんが通路から、俺たちの方に飛び込んできた。


 矢は、俺の描き出した光にそって駆け抜ける。


 このまま当たれ!!


 俺の願いを乗せるように、矢が見事に刺激袋に着弾した。


 たちまち、煙が巻き上がって、煙がジョルドさんが通り抜けてきた通路に充満し始めた。


 刺激袋は、転生前の世界でいうと催涙スプレーのようなものだ。あれほど強力ではないが、これで動きを止められるはずだ。


 よし、これで逃げれるぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る