第30話 探検:地下1階

「ジョルドさん。中の様子はどうですか?」

「入り口付近には、もういないです」

「では、中に入りましょうか」


 ジョルドさんが5メートルぐらい先行し、俺達は光石を持って中に入った。


「中は、迷路のように複雑なので、離れないようにしてください」


「ジョルドさんは、覚えているの?」


「大きな通りは覚えています。父と何度か来ましたので」


 そっかー。この世界だと記録する文化がない。だから、伝聞で情報を伝えるしかないのか。


 地図があれば便利なのに。いや、待てよ。なければ俺が作ればいいんじゃないか? メモとペンは持ち歩いているし。


 リュックを肩からおろすと、メモを取り出した。


「カイさん、突然襲われることがあるので、メモは休憩時にお願いします」


 確かに。ただでさえ、攻撃準備に時間がかかる弓だ。メモを持っていたら緊急時に対応できない。


 それじゃぁ、頭の中にメモるしかないか。覚えきれるかな? 自慢じゃないが、俺は忘れっぽい。諦めるしかないか。


 まてよ、俺は頭の中にメモるスキルがあるじゃないか。


「ライン」


 3D描写スキルで、洞窟の穴にそって光の線を書いた。これで地図を記録していけばいい。


 この3D描写のスキルはいろいろ試して、発動条件を発見できたのだった。


 簡単にいうとプログラムで3次元の線を引くのと同じだ。例えば、地点Aと地点Bの座標を指定して、AからBの線と指定すると線を引ける。

 他にも3次元方程式を思い浮かべても線を引ける。


 発動方法見つけることはできていたのだが、活用方法がわからなかった。

 今回地図として使えるのことがわかったのは大発見だ。


 さてと、「ライン」のスキルで線を引けた。だけど、穴にそって一本の細い線じゃ味気ないな。そうだ、壁にそって線を引きまくろう。


 そうすれば、洞窟を立体的に描ける。ライン、ライン・・・・・・。うむうむ。いいな、うまく描けている。


 線を引きまくって、3次元の地図を書いていた瞬間だった。


「ズキン」


 頭に、激痛が走った。


「コマンド数が限界容量の100を超えました」

と頭の中に警告音声が響く。


 なんだこれは? 限界容量って、線を書きまくったのが原因か?


 頭の中で、線をはじめの一本に戻すと、頭痛が消えた。


 どうも空間を描くための、コマンドの数には限度があるらしい。コマンド数を少なくして、洞窟らしい線を引く方法はないだろうか。


 そうだ、線の太さを変えればいいんだ。糸のような線を引いているが、これを半径2メートルの太さにすれば、立体的に空間をかける。


「ライン」


 線の太さをイメージしながらスキルを使うと、洞窟の空間にそった、太い線を描くことができた。

 さっきよりも簡単に線を引けていいな。


「カイさん。遅れないでついてきてください」


 気がついたら、みんなから遅れていた。慌てて走って追いついた。


 しばら歩くと高低差のある細長い広場に来た。高さが20,30メートルはあるほど広く開けた場所。水が流れる音が聞こえ、神秘的な雰囲気を醸し出している。


「ここで狩りをしましょう」


 セシリアさんは、念入りに位置取りを確認し始めた。


「アカネちゃんは、この通路を塞ぐ形で。私達は、あの上から狙撃します」


 アカネちゃんは、人が1人ギリギリ通れるぐらいの場所に陣取った。


 あそこなら、敵に囲まれる心配はない。


 俺は岩をよじ登ると、あたりを見回した。


 見通しがよく、全体が目える。この場所なら、矢の当て放題だ。


 おやっ、遠くで影が動いたような気がした。目を凝らすと、ゴブリンが歩いている。


「ゴブリンだ!!」


 俺は下にいるアカネちゃんとジョルドさんに大声で伝えた。その声に気が付いたゴブリンがこちらを見る。と同時に走ってきた。3匹だ。


 しまった、俺の声が大きすぎた。


「前から3匹。安心して、道が狭いから一体ずつしかこれないから」


 セルシアさんから落ち着いた指示がでる


「ジョルドさんは、早めにアカネちゃんとスイッチ。目安は1体」


「はい」


 カイはスイッチって何だ? と思いつつも、すぐそこまで近づいてきたコボルドに狙いをつけた。


 コボルドは岩で狭まった通路で渋滞している。俺とセルシアさんは、最後方のコボルドに狙いを定めて、次々と攻撃を撃ち込んでやっつけた。


 敵は残り2体。


「スイッチ」


 というジョルドさんの言葉とともに、アカネちゃんとジョルドさんは位置を入れ替えた。


 なるほど、体力が尽きないように先頭を変えるのがスイッチか。


 しかし、残り2体だと味方に近すぎて、矢を撃ちにくい。


「退却陣形」


 セルシアさんの指示が飛ぶ。この段階で、退却? なんでだ?


 退却陣形は、アカネちゃんとジョルドさんが逃げるまで、援護するのが俺の役割だ。


 ジョルドさんがゴブリンの足を素早く斬りつけると、逃げ出した。ゴブリンと二人の間が開く。距離が離れた今なら、弓を撃てる。


 足を切られて、走るのが遅くなったゴブリンに狙いをつけて、俺とセシリアさんで撃退した。

 アカネちゃんとジョルドさんも、その間に残り1体を撃退していた。


「予定よりも、ずいぶん順調です」


「セルシアさん、1つ試したい戦法があるのですが、いいですか?」


「そうね、余裕があるからいいですよ」


 この俺達がいる場所は天然の城みたいとなっている。右からくる敵は、必ずこの岩を登らないといけない。


「では、みんなこの上で待ち構えて下さい。アカネちゃんとジョルドさんは、登ってきた敵を蹴落とすことに専念」


 俺は話しながら、岩の上から油をまいた。


「では、あの3匹行きますよ。おーい」


 ゴブリンたちは、その場で見渡していたが、俺に気がつくと走り寄ってきた。岩の下にたどり着いたゴブリンは、必死に岩をよじ登ろうとしている。


 だが油で滑り、なかなか登れない。


「そろそろいきますよ」


「やっぱり、そういうことね」


 俺とセルシアさんは火矢とファイアを放った。


「この作戦よくないですか?」


 3体の炎上したコボルドを眺めながら話した。油で登りにくいのと、登る間に油まみれになって燃えやすくなる。いわばハメ技みたいなものだ。


「まあ、効率的にはいいですけど」


 セシリアさんは、なんとも言えない顔をしていた。


「少し休憩を入れましょう」


 やらかしてしまったか。セシリアさんはこのようなファイアの使い方は抵抗があると話していたからな。


 でも、これだったらゴブリン倒し放題じゃない?


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