第29話 探検:優秀なピック
「あの尖った山の麓に鉱山の入口があります」
ジョルドさんの案内で鉱山の入口までついた。
嫌な思い出のある場所だ。
俺か中に入ろうとすると、セシリアさんが俺の肩を強くつかんだ。
「戦闘は、鉱山の外で行います」
「鉱山の外にも魔物がいるんですか?」
「いえ、中から連れてきます。ここの方が安定して戦えますので」
確かに、鉱山の入口前は木もなく、ひらけている。戦いやすそうな場所だった。
「ではジョルドさん、ここまで魔物をピックしてくれますか?」
「はい、喜んで」
ジョルドさんが中に入ると、アカネちゃんは正面入口から少し離れた場所に陣取った。
俺ととセシリアさんは、さらに後ろ斜め45度の10メートルぐらい離れた位置で距離をとる。
この陣形は、ここ3日さんざん訓練したものだった。弓に、矢をつがえる。どんな魔物がくるのか、緊張する。
「ゴブリン、1体」
ジョルドさんの反響した声が届く。
「通常体制」
すかさず、セシリアさんからの指示がでる。俺はいつでも矢を、射れる体制をとった。
獣狩りとは違う緊張感がある。獣狩は失敗しても死ぬことはないが、魔物狩りは死と隣り合わせだ。
矢を持つ指先がじんわりと汗で濡れてくる。
ジョルドさんが、入口から飛び出てきた。後ろには、アカネちゃんぐらいの背丈をした緑のゴブリンが追っかけてきている。
「ファンクショット」
ゴブリンが見えたと同時に慌てて矢を射った。俺が放った矢は、ゴブリンには当たらず、地面を滑っていった。
射つのが早すぎた。焦りすぎた。
「どらー」
ゴブリンを受け止めに、アカネちゃんが前にでる。と同時に、ゴブリンの胸に氷が突き刺ささった。
セシリアさんのアイスの魔法だ。ゴブリンはよろけたが倒れない。こちらの方を睨んできたが、すぐにアカネちゃんが殴りかかり、ゴブリンはターゲットはアカネちゃんに戻った。
アカネちゃんは、ゴブリンの攻撃を避けながら、的確にパンチを入れている。
「よっしー、大丈夫」
その声をきっかけに、ジョルドさんは後ろから切りかかった。ゴブリンの背中がスパッと裂けるのが見える。その一撃で、ゴブリンは倒れた。
ゴブリンは崩れ落ちるように倒れると、黒い灰になって消えた。
「よっしー、初めての討伐完了」
アカネちゃんが、全身で跳ねながら叫んだ。
「全員で取り囲んで、ちょっと可哀想でしたかね」
ジョルドさんらしい、紳士的な言葉だ。
「みんな、よくできたわ。1回目の戦闘としては、上々ですね」
「でも、矢をはずしちゃったよ」
「気にしないでください。半分当たれば、いいぐらいの気持ちでいいですよ」
セシリアさんの優しい言葉に俺はほっと一息をついた。
「でも、射ったあと、短剣に切り替えるの忘れないようにしてね」
確かに。すっかり忘れてた。あんなに練習したのに。
「あと、アカネちゃんは敵を迎えに行かずに、後ろで受け止めてください」
「えー、何で」
「入り口に近いと、追加で敵がきていた場合、対応が遅れてしまうので」
「はぁ~い」
アカネちゃんは少し不貞腐れた。
「悠然と待ち受ける女の子は、かっこいいよ」
俺は声をかけた。
「なになに、悠然って何?」
「落ち着いてどんと構えて、物事に動じないことを指す言葉だよ」
「アカネは、悠然とした女子になるー。悠然女子」
機嫌が直ったようだ。ホントにアカネちゃんは、カッコイイ言葉が好きだ。
俺はズッコケリーダーじゃなかった、盛り上げリーダーとして期待されているからな。こういったことで、パーティに貢献できる男なんだよ。
「魔物は死ぬと灰になるんですか?」
黒い灰だけが薄くうっすら積もった地面を見て、俺は呟いた。
「ええ、魔獣は召喚生物ですからね」
「召喚生物? 誰が召喚しているのですか?」
「そのあたりは、よくわかってないの。召喚士がこの灰を使って、召喚できることから、そう言われています」
俺はしゃがんでじっとその灰を見つめた。特に何の変哲もない灰だ。
「魔物の角とかを持ち帰ることはできないのですか?」
「ギルドでよくある依頼のことですか?」
「はい」
魔物のドロップ品をギルドの収入源にしようと考えていた。だから、灰になってしまうのは痛手だ。
「魔物の力が集中する特性部分の部位は残るので大丈夫ですよ。あと体内に取り込んだものも残ります」
体内に取り込んだものって、魔物が食べた獣の肉のこと? そんなの残ってもなぁ。
「有名なのはゴーレムね。この鉱山の奥にもいるわよ。食べた鉱石が高結晶となって残るのよ」
そういう意味か。これはいいこと聞いた。お金儲けに繋がりそうだ。
その後、撤退する時の「退却隊形」を試したりと、連携を確認しながらゴブリンを3体やっつけた。
「ジョルドさんは、ピックがうまいですね」
ジョルドさんは、恥ずかしそうにうつむいている。
「そんなに上手い?」
もちろんジョルドさんが狩りがうまいのは知っている。だが、洞窟を歩いているゴブリンの注意を引いて戻ってくる。その仕事の難しさが俺には理解できなかったからだ。
「ここのゴブリンは3体一組で、巡回しているのよ」
なるほど、そういうことか。今まですべて1体だけピックしてきた。他の2体に気が付かれずに、ピックするなんて、どうやるのか想像つかない。
「ジョルドさん、次は2体連れてきてもらえますか?」
「はい、喜んで」
「次は2体かー。どんとこい!」
アカネちゃんは気合い満々だ。
「ゴブリン2体」
ジョルドさんの声がした。
「炎陣」
セシリアさんの隊形の指示が飛ぶ。
ジョルドさんは敵を引き連れ、アカネちゃんの脇を駆け抜ける。
アカネちゃんは、2体のうちの1体に強烈な足蹴りを食らわせた。そして、袋から油袋を取りだしゴブリンに叩きつける。
「ナイス、アカネちゃん」
コボルドは油に濡れた状態で、アカネちゃんに襲いかかった。アカネちゃんは、ゴブリンに背を向けると俺達の方に逃げてきた。
この形が練習していた炎陣だ。
待ち構えていた俺の火矢とセシリアさんのファイアが、ゴブリンに飛んでいった。
着弾と同時に、コボルドは激しく燃え盛って、崩れ落ちた。
思ったとおりだ。俺とセシリアさんでは、敵を一撃で倒すのは難しい。だが、油を補助に使えば威力を劇的に強められる。
「通常隊形」
というセシリアさんの言葉とともに、アカネちゃんは、ジョルドさんを追いかけていたもう1体に殴りかかった。
こうして、ゴブリン2体も簡単に討伐できた。
よし、やったぞ。しかも炎陣を使って倒せた。この炎陣は俺のアイディアだ。自分のアイデアで倒せたことがうれしかった。
「炎陣だと一撃ですね」
セシリアさんは、煙をあげている黒い灰を見ながら呟いた。セシリアさんは、この炎陣にずいぶん反対していた。
それを説得して、陣形の1つとして受け入れてもらったのだ。
「私の魔法は威力が弱いから助かります」
自分に言い聞かせるように話している。セシリアさんの話では、魔法の流用に強い抵抗を感じるということだった。
例えばファイアを使って、焚き木に火をつけるなどの行為だ。
これは俺に例えると、箸で食べ物を受け渡す、箸渡しの感覚のようなものらしい。
理屈では問題ないとわかっているが、嫌悪感を抱いてしまうということだった。
原始教という宗教の考え方が染み付いているから、この世界の人はみなそんな感覚らしい。
「アカネも活躍したかったよー」
「十分活躍しているよ。俺たちが安心して攻撃できるのは、アカネちゃんのおかげだよ」
「へへへ」
しかし、こんなに狩りが楽になるなんて思いもしなかった。アカネちゃんと2人で来たときとはえらい違いだ。
今日は経験値を稼ぎまくるぞ。
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