第28話 探検:鉱山探索の準備

「また、ターブ狩れたんですね」


 買い取りにターブを持っていくと、ハルさんは驚いていた。


 俺はシズク師匠から教わった森を走る訓練を毎日続けている。その時にターブを見つけたら狩りをしているのだ。


 一週間に2、3回はシズク師匠の元に行き、弓や矢の作り方や狩りの訓練も欠かさずしている。


「弓の腕が上がったからね」

「だったら、今度魔物狩りに行ってみたら?」

「冒険者が行ってる場所ですか?」

「ええ、初心者向けの場所があるから」


 魔物狩りって言葉の響きがいいな。

 初めての異世界っぽい体験かもしれない。

 一度行ってみたかったんだよ。


「では、セシリアさんに頼んでみるわ」

「セシリアさん?」

「セシリアさんは、こういうの得意だから」


 セシリアさんは4大魔術師の冒険者だ。魔法での狩りは見たことがないので、楽しみだ。


「アカネも行く」

「もちろん。アカネちゃんもよ」

「よし、みんなで経験値を稼ごう!」


 俺は元気よく、拳を挙げた。純粋に楽しみだ。


「カイさんは儲けてるから金持ちでしょ」


 このハルさんの発言は、絶対なにかの前フリだ。嫌な予感がする。


「ええ、それなりに儲けてるけど……」


「それでは、みんなの回復薬を買ってくれない?」


 良かった。そんなことか。宿代を倍にするとかかと思った。


「ああ、もちろん。メンバー分は俺が用意するよ」

「はい、4つ。1つ10万よ」

「えっ、そんなにするの?」


 回復薬って、ゲームだと最安値で売っているようなアイテムだよね。それが10万?


「回復薬1本作るのに薬草100本使うのよ。だからどうしても、高くなるの」


 俺の懐事情に応じて、毎月ハルさんからお金を巻き上げられているような気がするのだが、気のせいだろうか?




◆◆◆


 翌日、ギルドにいくと全員揃っていた。端の方に、ジョルドさんもひっそりと座っていた。


「久しぶり、どうしたの?」


「父のドルハから、私もついて行くように指示があったので」


「ジョルドさんまで来てくれるなんて、頼もしいな」


 ジョルドさんには、初めての狩りのときにお世話になった。華奢な体つきだが、俺よりもはるかに強い。


「ジョルドさんは、ピックとアタッカーができるから、理想敵なパーティね」


「ハルさん、ピックって何?」


「その答えでしたら、私よりセシリアさんからしてもらった方がいいわね」


 ハルさんは、セシリアさんに視線を投げたた。


「それでみなさん、今度の冒険について、話しましょうか」


 俺、ジョルドさん、アカネちゃんがテーブルについた。


 ハルさんは、『またね』と小さな声で別れを告げて、仕事に戻っていった。


「最初に、役割分担を決めましょう」


 セシリアさんは、みんなの前に歩み出ると話した。


「リーダーは、戦闘経験が多い私がします」


「そうだね、よろしく頼みます」


 俺は相槌をうった。セシリアさんは、理論派っぽいから動きやすい。


「副リーダはジョルドさん」


「はい、わかりました。頑張ります」


 これも納得のいく人選だ。あのドルハさんに鍛えられているから信頼できる。


「アカネもリーダーになりたい」


「そうね、アカネチャンには、戦闘リーダーをお願いできるかしら。敵を引き付ける役。戦いでは一番重要ですよ」


「わーい、戦闘リーダーだー」


「先程出たピックの話に戻りますと、あれっ、カイさん大丈夫ですか?」


 大丈夫ですかって何のことだ? 俺は普通に話を聞いているだけなのに。


「大丈夫ですよ。何も気にしてないですよ」


「気にしてない?」


 セシリアさんは、目を白黒させていた。セシリアさんは、何をそんなに動揺しているんだろうか。


「カイは、ずっこけリーダーね」


 アカネちゃんが、突然話にわりこんてきた。


「ずっこけって、何のリーダーだよ」


 言葉とは裏腹に、俺は自分の声が少し弾んているのを感じた。


「じゃあ、お笑いリーダー」


 いったい何をいっているんだか、アカネちゃんは。こんな真面目で優等生の俺を捕まえて。


(カイさんも何かのリーダーになりたかったんだ……。とセシリアさんは理解した)


「カイさんは、盛り上げ役として適任ですね。パーティの雰囲気は、すべてにいい影響をもたらします。そのリーダーをお願いします」


「そんなこと、言われたことないなぁ」


 頭をかきながら答えた。この俺の力がそんなに必要か。しょうがないなぁ。いっちょ協力するか。


「では、ピックの話に戻りますね。ピックは敵を誘導してくる役。ピック役の実力で、冒険の安全度が大きく左右します」


「頑張ります」


 ジョルドさんは、背筋をピンと伸ばして答えた。実にジョルドさんらしい。


「私とカイさんは、遠距離攻撃を担当します」


「任せて、特訓してうまくなったから」


「次に、荷物を確認しましょうか」


 みんなの消耗品を確認した。


 回復薬ポーション 4つ

 魔力回復ポーション 1つ

 火薬袋 4つ

 刺激袋 2つ

 矢 24本

 光石 3つ

 光薬 1つ


「あっ、この光っている石って!」

「これは、光石ですね。洞窟を照らすために使います」


 やっぱり。アカネちゃん、この前の鉱山探検で用意し忘れたな。俺はアカネちゃんをギロって睨んだ。


 俺の視線にアカネちゃんは気がついたようだ。


「この前、カイは鉱山の暗闇でボコボコにされてたよ」


「えっ、光石なしで鉱山に行ったのですか? 危険ですよ」


 俺をボコボコにしたのは、アカネちゃんでしょ。


「みんなで、カイの仇を討とう!! カイも草葉の陰から、見守ってくれるから」


 アカネちゃんは、よく「草葉の陰」なんて難しい言葉知っているなぁ。

 ……じゃないよ。


「ちょっと待って、アカネちゃん、俺は生きてるって。まるで死んでるかのような言い方やめて」


「なるほど、カイさんは命がけでお笑いリーダーやっているわけですね。勉強になります」


「いやいやジョルドさん。真面目な顔してそんな事言わないでくださいよ」


 その後は、ひとしきりみんなで笑いあった。俺にとっては笑い事ではなかったのだが。


「この光薬ってなんですか?」


「これを飲むと、夜目が利くようになります。ピック役のジョルトさんが飲みます」


 そういうことだったのね。アカネちゃんは洞窟の中は明るいと言ってたのは、光薬を飲んでいたからなのか。


「あとは、この刺激袋って何?」


 俺は見たことない袋について尋ねた。


「これを炙ると、魔物や獣が嫌がってよってこないんです。逃げる時とか戦闘を避けたいときに使います」


「そんなのがあるんだ」


「あとカイさんは、短剣も持ってください」


「ええ? 狩りでも短剣が当たったためしないよ」


 短剣はいつも持ち歩いていたが、獣を狩ったあとの血抜き用がメインだった。


「アカネチャンが敵を固定してくれるから大丈夫ですよ。あと接近戦になったら、弓は使えないですから」


 その後、外でフォーメーションの確認をした。


 夕方になったら、冒険から帰ってきたガルドさんたちが、魔物役をしてくれた。


「ガルドさん、俺たちの動きはどうですか?」


「あと3日は、連携確認したほうがいいな」


「ええ? そうなんですか?」


 すぐに冒険に行けると思っていた俺は、思わず声をだした。


「鉱山はカイとセシリアには不利だからな。二人だけで、近接戦闘になった時の対応策を考えておけよ」


 確かに狭い鉱山では、距離を取れない。何か考えておかないと。


 冒険者は脳筋かと思っていたが、慎重だということがわかった1日だった。

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