第25話 豪邸:豪邸の貸出
宿に入ると、貴族の冒険者の元に向かった。
「少しお時間を頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
貴族の男性はレオノルドさんという。俺よりも年上で24歳ぐらいか。
もう一人のお付きの人はアルトさん。雰囲気からすると凄腕の騎士。観光が鋭い。
「どのようなお話でしょうか?」
「レオノルドさんに相応しい貴族用の建物を用意しました。ですので、一度見ていただきたいと思ってます」
レオノルドさんとアルトさんは顔を見合わせた。
「それでは一度拝見させてもらってよろしいかな」
答えたのはアルトさんだった。こうして二人の食事後、豪邸に向かった。
「何かこの村で、不足している点をとかはありますでしょうか?」
「特にない」
「この村にはどれくらい滞在する予定ですか?」
「わからない」
「この村にきた目的はなんでしょうか?」
「経験値稼ぎ」
アルトさんが問いかけに答えてくれた。だが、どの回答もそっけなくて、会話が続かない。
宿にいるときも、いつも2人だけで行動している。そのため、他の冒険者やハルさんもあまり話したことがないと言っていた。
話しの感じからしても、自分たちのことについて、あまり話したくないようだ。
「この建物です」
と言って、玄関のドアを両手で開いた。
「ほほー。なかなかだな」
レオノルドさんは中の様子を見て感心している。玄関にある調度品を手に取り、細かく観察を始めた。
アルトさんは収納を確認している。
「では次はダイニングホールを御覧ください」
扉を開けて、2人を招き入れた。
「すばらしい」
厳粛とした部屋の雰囲気にレオナルドさんは息を飲んでいる。
「カイさん。こちらは何でしょうか?」
アルトさんが指さしたのは、俺の夕食だった。
しまったー!!
雑草サラダを片付け忘れてた。
2人はまじまじと皿にのった雑草を観察している。こんな雰囲気で、俺の夕食だなんてとてもじゃないが言えない。
「えーとですね」
レオナルドさんなんて、しゃがみ込んで視線を雑草の高さに落として観察している。
「アルト。そんなことを聞くなんて野暮だぞ」
そうです、すみません。
雑草サラダには触れないで、そっとしておいてください。
「その切り取られた微妙な葉の断片は、自然の折り紙のように繊細に彫り込まれた美の証だ。その葉の縁は、優雅な筆致で描かれた曲線の舞踏であり、光に照らされて鮮やかな色彩のシンフォニーを奏でている。その美は一瞬の儚さと永遠の調和が絶妙に交じり合った、瞑想的な風景を私たちに贈っている。実にすばらしい」
何か突然流暢に語りだしたぞ!! もしかして、部屋に飾り付けた草花と勘違いした?
それ、単なる俺の夕食の雑草だから。美術品のように語るのやめて。
「なるほど。野生独自の腹踊り、泥沼に足を捕られたカブトムシがもがいているようですね」
「ああ、アルトも芸術を理解できるようになってきたか」
2人で俺の夕食を見て語り合っている。でもアルトさんの表現は何かおかしくないか? それでもいいのだろうか?
それよりも、話題を変えないと。
「このお屋敷は気に入りましたかでしょうか?」
「ああ、とても気に入った。ここに住ませてもらえるかな?」
「はい、もちろんです。明日からでもご用意できます」
「それは良かった。アルト、あとは頼んだぞ」
「はい。それではカイさん。3点ほど確認をさせてください」
ダメ元で依頼したのだが、想像以上にうまくいってる。今頃になって緊張してきたよ。
「食事はどのようになっていますか?」
「宿から料理をお届けします。後々はレオナルド様の方で、専用のシェフを雇っていただいても結構です」
シェフをどこから雇えばいいかとか、細かいところはわからない。だがここまで来たら、レオナルドさんの要望に応えられるように最大限に努力するだけだ。
「その他、ついているサービスはありますか?」
これは答えにくい。考えられるのは、掃除や洗濯。だが、高級さを売るのであればそれだけでは弱い。
「宿で行っているサービスに加えて、私がコンシェルジュとしてサポートします」
「コンシェルジュとは何ででしょうか?」
「案内人です。レオノルド様が困ったことがあれば、すべて私がサポートしたり手配します。レオノルド様の立場で考えて動く、使用人とお考え下さい」
具体性のない内容だ。だが富裕層ほど形のないものに価値を見出す。
この提案はレオノルドさんの心に刺さるだろうか?
「なるほど。立場を超えて、私のためになる事を考えて行動してくれるということかね。実に面白い。よろしく頼むよ」
気に入ってくれたようで何よりだ。これで2つの質問を乗り越えられた。
「では最後に、費用はどうなっていますか?」
きた。思った通り料金の質問だ。今は宿に2人で月60万だしているんだったよな。
となると月100万か?
いや、転生前のホテルのスィートルームの値段感覚からすると月100万だと1日3万だ。
それは安すぎる。
「1日10万で、月300万となります」
アルトさんがレオナルドさんに視線を送る。
「ああ、それでいいだろう」
そうですよね。月300万はふっかけすぎました。1年だったら3,600万だよ。高すぎた。
・・・・・・。あれ? もしかしてOKって言った?
「ありがとうございます。ホントによろしいでしょうか?」
「私達は、明日からこの屋敷に移動します。そのための手はずを整えてください」
よかった。契約成立だ。
こんなにすんなり物事が進むなんて、転生してから初めてだ。
「契約にあたって、こちらからも一つ条件があります」
「どのような条件ですか?」
「レオナルド様の本当の目的を教えていただけますでしょうか?」
ばかっ、俺の口。いったい、何を言い出しているんだ。
貴族様に向かって条件をつきつけるなんて。せっかく契約がまとまりそうだったのに。
「私達のことには干渉しないでもらえるかな」
「すみません。そういった訳にはいきません」
レオナルドさんの経験値稼ぎが目的といっていた。だが、レオナルドさんの武器と防具はいつもピカピカだ。使った形跡がない。
レオナルドさんは戦闘していないのだ。毎日でかけて、どこかで何かをしている。
「500万でどうかね?」
「どういうことですか?」
「この屋敷に月500万払う。だから私達のことには触れないで欲しい」
月500万だって? そんなにもらえたら、1年で6000万の稼ぎだ。
この村だったら一生、働かなくてのんびり暮らしていけるだろう。
「それにはお応えできません」
再びの俺のバカ。受け入れるべきだと頭の中ではわかっている。わかっているのだが、どうしても心が拒絶する。
「一介の村人ごときが、レオナルド様に何を言うんだ!!」
「私は一介の村人でもありますが、レオナルド様のコンシェルジュでもあります。レオナルド様にとって不利益となる提案はできません」
そうだ。これだ、俺の心の底で感じていたもやもやは。レオナルドさんは、2人のみで隠れて何かをしようとしている。
屋敷の提案にすんなり乗ったのは、人の目を盗んで2人で秘密裏に動けるメリットを感じてのことだろう。
繋がりを完全に切ってしまうと、何かあった時に手助けができない。それは2人のためにもならない。
「私達はある調査のためにここに来ている。これは他言無用で、今はそれ以上のことは言えない。それでいいか?」
「はい、時期がきたらおっしゃっていただければ結構です」
「アルト、剣を下ろせ」
剣を下ろせって、何のことを言っているんだ?
視線をアルトさんに戻すと、アルトさんの剣先が俺の喉の数ミリ先にあった。
えっ? いつ剣を抜いたんだ? 全く見えなかった。
アルトさんの剣は、俺の喉元を指したままだ。その剣先はピタリと微動だにしない。
それだけでも、アルトさんの卓越した強さがわかる。
「剣を突きつけられて、瞬きすらしないその勇気と進言。それに免じて今回は許す」
アルトさんは剣をおろした。
それは動きが速すぎて、まったく見えなかっただけなんですけど。
低い武力が今回だけは役にたった。
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