第23話 豪邸:資産が全滅

 セリナさんとの交渉で、狩りのサブスクの収入が60万から30万に減ってしまった。ポーロさんには悪いけど、家を建てるのは断るしかない。


 俺はポーロさんが掃除してくれた仮住まいの家を案内されながら、どう断るか考えていた。


 しかし、改めて見るとこの豪邸はすごい。調度品も一流で、各部屋も広い。俺の今住んでいる部屋は、この家だと玄関ぐらいの大きさだ。


「ポーロさん。悪いんだけど…」

「ほら、ここ見てください。」


 話すタイミングが悪かった。ポーロさんと言葉が被ってしまった。


「この絵画すごいでしょう。妻がカイさんから仕事をもらった件で、そりゃもう喜んで。調度品をいっぱい買い込んできたんですよ」


 ええー。

 そんなの聞いたら。

 断りにくいじゃん。


「立派ですね」


「そうですね。妻がさっそく隣街で100万ぐらい買い込んできましたから」


 はっ? 何と言った?

 ポーロさん、お金ないんじゃなかったの?


「仮住まいだから、そこまでしなくても……」


「実は、前々から妻が洗練した部屋を作りたいと構想を練ってたらしいんですよ。いい機会だと張り切っちゃって」


「はぁ」


 完全に奥さんの趣味じゃん。

 どう見ても、俺とこの部屋の豪華さは不釣り合いだ。


「いやー、カイさんには感謝しています。カイさんからの発注がなければ、借金を返せないところでした。一家心中ですよ。アハハハ」


 笑い事じゃないから。

 重すぎる。


 これじゃあ、断れないよ。

 何とか、稼ぐ方法を探すかないか。


 ボーロさんと別れた後、ドルハさんの家に向かった。新しい狩り場を教えてもらうためだ。


 今の俺の弓の実力だったら、1日1匹は狩れるだろう。それだったら、月30万は余裕で稼げる。


「……という事情で、新しい狩場を教えてもらえないでしょうか?」


「はぁ? 昨日、それで怒ったばかりだろ」


 あれ? それで怒られた記憶がないのだが。


「すみません。理由をもう一度教えてください」


「しかたないなぁ」


 ドルハさんの説明は次のようなものだった。


 現在の冒険者の狩りは高回転すぎる。そのため、狩り場のターブが絶滅しかねない。そこで、ドルハさんが知っている狩り場3つを巡回させて、維持しようと考えている。


 怒ったのは、ターブのことを考えてないのが理由だった。だから、俺に紹介できる狩り場がないそうだ。


 昨日はお金や権利の面で怒っていたのかと思っていたが、ターブが絶滅しそうになってたから怒っていたのか。


 ドルハさんは恐いが、動物想いの優しい人だ。


 だが、収入源の1つがなくなったのは事実だ。宿に戻ったあと、夕食を取りながら次の手を考えていた。


 まずは、今の資産を整理するか。

① 狩りのサブスク収入

➁ 弓の腕前

➂ 新しい住居(建築予定)

④ 豪邸に住む権利


とメモに書き出した。


 新しい狩り場がないから、➁はバツ。


 そういえば、転生前に車や住居は資産じゃなく負債と考えろと聞いたことがあるな。


 お金が入ってくる基盤が資産。

 反対にお金がでていく基盤が負債。


 そう考えると➂と④は資産じゃなくて、むしろ負債だ。となると俺の資産は①の狩りのサブスクの権利だけか。


「しけた顔してるな」


 隣に立ったのは冒険者のガルドさんだった。


「明日宿を出るってきいたぞ。最後ぐらい楽しんでいけ」


「そうですね。楽しくやりましょう」


 俺は持っていたグラスを掲げて、ガルドさんと杯をあわせた、


「俺達も、ちょうど半分。あと1ヶ月半、楽しんでいくぞ」


「ぶっっ」


 飲んでたビールを吐き出してしまった。あと1ヶ月半しかいないの?


 てことは、狩りのサブスクの収入もすぐになくなってしまうじゃないか。さっき整理した俺の資産は全滅だ。


「みんな帰ってしまうのですか?」


「正確に言うと、あの貴族の坊っちゃんは違うぞ」


 ガルドさんの視線の先には、二人の冒険者がいた。俺より少し年上の青年。


 この人は貴族だろう。いつも身なりがしっかりしていて、武器と防具に汚れ一つない。


 もうひとりは40ぐらいの女性だ。護衛と身の回りの世話を兼ねているようであった。武器や防具は年季が入っており、歴戦の戦士と行った雰囲気をまとっている。


 でも、あの二人は狩りのサブスクに入っていないんだよな。だから、残ってもらっても、俺の収入にはならないんだよ。




◆◆◆


 自分の部屋に戻ると、どのように稼ぐか改めて考えた。でも、何も浮かばない。


 とりあえず、さっき書いた負債を整理することを考えるか。


まずは、これ。


➂ 新しい住居(購入予定)


 自分が住んだらお金が入ってこない。どうやって、住居を使ってお金を稼ぐかだ。


 冒険者に貸し出すそうか? これだと、宿と被るから現実的でない。


 この村には人がいない。いるのは、動物や魔物ばかりだ。貸し出す相手がいなければ、どうにもならない。


 いっそ、動物に貸し出すか。


『家に泊めてくれてありがとう。お礼に美しい羽根から作った布をあげましょう』

ってなるかもしれない。


 そんなバカな。

 俺も末期だ。こんなこと考えるなんて。

 そんなことあり得ない。


 あり得ない……

 あり得ないか?


 そうだ昨日ニワトリを飼う話をドルハさんとしたのだった。家をニワトリに貸せばいいんだよ。そしたら卵などをお礼に返してくれる。


 幸い、家はこれから作る。ニワトリ小屋の作成をポーロさんには発注しよう。


 いけるぞこれ。

 そうすれば、お金を稼げる基盤となる。


 道が開けてきたぞ!!

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