第22話 豪邸:家を発注する

「カイさん、こんにちは」

「こんにちは、ポーロさん」


 ポーロさんは、同じ丘に住んでいる大工だ。夫妻で住んでいる。体が熊のように大きく、のんびりとした話し方をする男性だった。


 ちなみに村人は、今まで出てきた10人で全員だ。


 宿に住んでいる俺とハルさん。

 ご近所のポーロ夫妻。

 森には狩人のドルハさん、アカネちゃん一家の4人。

 更に奥の森には魔獣ハンターのシズク夫妻だ。


「借家の準備はだいたい終わりましたよ。では、新しい家造りにとりかかりましょうか」


 あっ、やべ。ポーロさんに家を発注する約束していたんだ。忘れてた。


 昨日、セツナさんに詰められて、俺の定期収入が30万に減ってしまった。


 払うお金がない。これは困った。どうしようか。


 ポーロさんとの一週間前のやり取りは以下のようなものだった。




◆◆◆


「カイさん、家を建てる気ない?」

「ハルさんとの?」


 突然のハルさんからの、積極的なアプローチにドギマギした。


「カイさんも、面白いですね」


 ええ、わかってましたよ。

 ハルさんとの愛居じゃないぐらい。


「これから本格的に活動していくとなると、拠点は大事ですよ。建てるのに時間かかりますし」


「建てるにはどうすればいいのですか?」


「ポーロさんに頼むのがいいですね。ちょうど手が空いているって話してましたから、聞いてみてはどうですか?」


 自分の家を手軽に作れるのだったら、それもいいかもしれない。話だけでも聞いてみるか。


「ポーロさーん」


 宿を出ると、家の横で畑仕事をしているポーロさんを見つけた。


「カイさん、こんにちは。もしかして、仕事の件ですか?」


「なんで、わかったんですか?」


「この前ハルさんに、仕事がないって泣きついたんですよ」


 なるほど、そういった事情だったのね。


 ハルさんは、依頼人と引受人の両方のメリットをいつも考えてくれている。


 今回も、俺にもメリットあると思って紹介してくれたんだろう。


「俺も家かギルドを建てたかったから、いい機会だったよ」


「ハルさんの言うとおりですね」


「何がですか?」


 もしかして、ギルド長として貫禄がでてきたから、俺のステータスに見合ったギルド会館が必要とか、そんな話か?


「カイさんは小金持ちになったから、気前よく家を建ててくれるだろうって」


「あははは、」


 俺は乾いた笑い声をあげた。

 まあ、これは冗談だろう。

 冗談だよな・・・・・・。


「家を建てるにはどのように進めればいいんですか?」


「まずは建物の目的と場所ですかね。あとは話し合いながら進めましょう」


 欲しいのはギルド会館だ。でも、今は冒険者は6人しかいない。時期尚早だろう。まずは、自分の家を建てるか。


「では、私の家を建てます。場所は宿の近くがいいですね」


「わかりました。私の作業代が600万かかりますが、いいですか?」


「えっ!! そんなにするの?」


「材料費と作業に3ヶ月はかかるので、これでも安いぐらいですよ」


 ちょっと待てよ。お金足りるか? 今の収入を整理してみるか。


 手持ちは30万。

 月の収入が60万で宿代が30万だから、使えるのは月30万か。


「月30万で、20ヶ月で作ってもらうことできます?」


「う~ん。建て始めたらいっきに作らないと、雨が心配だなぁ」


 やっぱりそうだよね。20ヶ月は、俺にとっても長すぎる。


「今回は、残念だけどなかったことにしてもらえるかな」


「そんなこと言わないで、助けてくださいよ」


「宿代もあるから、お金が足りないんだよ」


「それでしたら、私の隣の家に住んではどうですか? 新しい家ができるまで、そこに住めばいいですよ」


 隣の空き家は、誰も住んでいないらしい。ポーロさんに泣きつかれて、月60万払うことで、家を作ることになった。


「この家凄く立派ですね。」


 家の中に入るとホコリが積もっていて、カビた匂いがした。しかし、調度品は立派だった。


「そうでしょ。妻はここに住みたいと言ってたんですよ。でも、実用的じゃないから、隣に住むことにしたんです」


 構造からして、この建物がメインで、ポーロさんが住んでいるのはメイドさん用の建物だな。


「この家に住めば、新しい家必要ないですよね」


 となりのポーロさんを見ると泣きそうな顔をしていた。やっぱり家は建てないとダメか。


「この家の修繕と掃除をするので、一週間ほど待ってもらえますか?」


「それでは、よろしく」


 俺はポーロさんと固く握手してわかれた。


 これが一週間前のやり取りだった。

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