第20話 弓修行:唐揚げを作る

「それで、提案って何だ」


 ドルハさんは、狩りの前に約束したこと覚えてくれてたんだ。


 俺とドルハさんは、今後の狩り場の対応について話し合いながら帰った。


 まず冒険者の狩りのルールを決めた。1人につき2日で1匹まで。成体以外の買い取りはしない。これによって、ターブの保全に努めることを決めた。


 また、俺が考えていた畜産のアイデアについて話した。


 ドルハさんは畜産に適した動物を見つけて、育てて数を増やすという話に興味をもったようだった。


 そもそも動物を飼うという発想がなかったらしい。

 『探せば近くにいるのになぜ手間暇をかけて飼うのか?』としきりに聞いてきた。


 今回の冒険者用の狩り場をさらに発展させたものと説明したら、ようやく納得してもらえた。


「今日はありがとうございました」


 ドルハさんの家についた俺は別れを告げた。


「何を言っているんだ。今日は合格祝いをするぞ」


 ドルハさんに手を引っ張られ、家の中にいれられてしまった。


 家では、ドルハさんの奥さんのセツナさんがたくさんの料理を用意してくれていた。


「合格しなかったらどうするつもりだったのですか?」


「そしたら、残念会にすればいいだけの話だろ。はっはっは」


 残念会じゃなくて良かった。合格前のお通夜みたいな雰囲気での食事会なんて想像もしたくない。


「カイくん。このお肉、都会っ子にはどうなの?」


 差し出されたのは、白い肉だった。赤みがかったターブの肉の色とは異なっていた。


「あっ、これニワトリですか?」


 さっぱりとした味は、鶏肉そのものだった。


「へぇ、ニワトリっていうんだ」


「ああその肉、新しい狩場で見つけたんだよ」


 ドルハさんの話によると、冒険者が狩りをしてくれるようになったお陰で、安定してターブの肉を調達できるようになった。


 そのため、新しい狩場を開拓している最中だということだ。


「でも味がさっぱりしすぎていて、人気ないのよ」


 この世界は体を動かす仕事の人ばかりだ。濃くて脂身が多い肉が好まれるのも納得がいく。


「唐揚げにすればいいんじゃないですか?」


「唐揚げ?」


 この世界では唐揚げがまだないのか。セツナさんにターブの脂身だけを集めてもらった。


「これいつも捨ててるけど、何に使うの?」

と不思議そうにしていたが、その油を使って唐揚げを作った。


「何これ? すごく美味しいわよ」


「うめぇ。ぜんぜん足りないぞ、もっと作れ」


 俺の作った唐揚げは大好評だった。


「このニワトリ捕まえられますか? 先程話した畜産にいいと思いますよ」


「何々、畜産って」


 興味を持ったセツナさんに、ドルハさんに話した内容を説明した。



「ところでカイくん。売上の配分はどうするの?」


「売上の配分ってなんのことですか?」


「冒険者の狩り代よ」


 ドルハさんは、ターブの保全のみを気にしていた。金銭面の交渉はしなくていいと安心していたのだが、ここにきて思わぬ伏兵が現れた。


「冒険者からの持ち込みが、毎日2匹。以前に比べて4倍になったと思います。その利益ということでいかがでしょうか?」


「肉の販売と権利の販売は別物よ。8割でどうかしら?」


 そういえばアカネちゃんが、お母さんから貴族を狙いで宿で働くように言われたと言っていたな。お金にうるさいのかもしれない。


「8割が私ということでしょうか?」


「いえ、カイくんが2割で私が8割。権利がないカイくんに2割というのは破格の提案だと思わない?」


 セツナさんは、商売人気質だ。ここは負けられない。


「アイディア料です。私のアイディアがなかったら、お金は入ってきてませんでしたよ」


「アイディア料なんて、面白いこと言うわね」


 そうだった。昔の時代は特許とかアイディア料なんて考え方はなかったに違いない。これは、通じないか?


「では、5割でどう? 畜産の話もそうだけど、カイ君は面白いわね。今後もよろしくという意味で」


「はい、それでは半々でお願いします」


 こうして値段交渉は終わった。収入が減ったのは辛い。月60万の定期収入が30万に減ってしまった。


 だけと30万あれば宿代が払えるので、まだ働かなくても大丈夫だ。


 セツナさんが、アカネちゃんに『カイくんは10点アップよ』と小声で言うのが耳に入った。


 こうして、俺はドルハさん一家とシズクさんに狩人として認められた。

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