第19話 弓修行:ゴブリンとの戦い

「俺も馬鹿だ」


 先程から数分後、俺はゴブリンに追われていた。何を血迷ったか、おれはゴブリンの方を追いかけてしまったのだ。


 ターブは時々立ち止まりながら、ゴブリンから逃げている。


 俺がゴブリンに狙いを定めて弓を射つと、ゴブリンはターゲットを俺に切り替えたのだった。


 獣道をひたすら走る。距離をとったら振り返り、矢を放つことを繰り返していた。


 だめだ、ぜんぜんあたらない。残りの矢は4本。

 

 再びダッシュをして、後ろを振り返る。くそ、手が震えて射てない。もし外したら、矢が足りなくなる。それを考えると体が勝手に震えてくる。


 命中精度以前に、俺の矢を見て避けられてしまう。だから、一対一の状態では、矢を当てるのは絶望的だ。


 走り疲れて、頭がぼーとしてくた。考えたら30分近く、全力で走りっぱなしだ。


『右前方の大樹!!』シズクさんの声が聞こえた気がした。


 気がついたら獣道から外れて、茂みを駆け登っていた。


 しまった!! 疲れすぎて、無意識に動いてしまった。


 たどり着いた先から振り返ると、絶好の位置にゴブリンが駆け込んできていた。運がいい。


 すかさず矢を射つとゴブリンの足元に矢が突き刺さった。あと少し前で射てば、矢が当たるはずだ。


 ガサガサガサ


 移動したときに、音が出てしまった。


 ゴブリンが俺の方を見上げた。俺との目が合う。そのまま矢を放ったが、気づかれてしまったため、避けられてしまった。


 ゴブリンが茂みに入り込んで、近づいてくる。


 俺は獣道に向かって駆け下りる。先程外した矢を拾いながら駆け抜け、その勢いのまま反対側の斜面を登った。


 振り返るとゴブリンが獣道まで戻って来ており、キョロキョロと俺を探している。



 そうか、今頃になって気がついた。


 シズクさんの練習は、魔物と戦うための訓練だったのだ。


 逃げながら射撃ポイントの移動を繰り返す訓練だったんだ。


 まだゴブリンに見つかってない。落ち着いて狙撃すれば勝てる。


 音をたてないように構えて矢を射ると、体に命中した。まだ、ゴブリンはこちらの場所に気がついていない、もう一発だ。


「時間だ!!」


 声の先を見るとドルハさんがいた。

 ドルハさんは、ゴブリンに近づくとあっという間に首をはね飛ばした。


 忘れてた。ドルハさんは俺の後をつけていたんだ。


 だったら、助けてくれたってよかったのに。喧嘩状態だからってひどすぎるでしょ。


「勝負は終わりだ」


 勝負? そうだった。ジョルドさんと狩りの勝負をしていたのだった。結果は確認するまでもない、俺の負けだ。


 山を下り、ジョルドさんとシズクさんとの合流地点に向かった。


 ドルハさんは一言も話さない。

 空気が重い。


「どうだ?」

「まあ、合格でいいだろう」


 シズクさんの問いかけに、ドルハさんが答えた。


「おめでとうございます。カイさん」


「えっ、どういうこと? 俺は1匹も狩れなかったけど」


 ジョルドさんの言葉にとまどった。ジョルドさんに負けたたのになんで合格したんだ?


「今回は狩人としての資質の試験だ。討伐数とは誰も言ってない」


 戸惑っている俺の顔を見て、ドルハさんが説明してくれた。


「最初の狩りで、5匹の中からなぜあの個体を狙った?」


「大きくて……」

「そうだ」


『大きくて狙いやすかった』と言おうとしたら、ドルハさんが途中で割り込んできた。


「大きな成体をお前は狙った。逆方向を向いた無防備な子供じゃなくてだ」


 えっ、狩りのときは獲物の向きも気にしないといけなかったのか。


「狩りはいかなる時も、獲物が子孫を残せるように配慮しないといけない。おまえはそれができていた」


 なるほど、今度から気をつけよう。


「次に、ゴブリンのときだ。なぜ、ゴブリンを追った? 子供を狙えば勝てたのに」


「それは、」


「そうだ。俺達は外敵から、ターブを守らないといけない」


 えー、俺の話ぜんぜん聞くつもりないじゃん。自分が話をしたいだけじゃん。


 でも、『子供に逃げられたから母親ターブを追った』といったら、怒られそうだから黙っておくか。


「というわけで、カイ、合格だ」


 ジョルドさんとシズクさんの力強い拍手で向かい入れられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る