第18話 弓修行:狩り勝負

「もう一度」

 これで10回目だ。


 俺達は、日課の森を走る練習が終わり、居残りで弓を引いている。


 シズクさんは俺の弓を射つ姿に、衝撃を受けているようだ。


 さっきから、壊れた機械のように『もう一度』しか言っていない。


 普段冷静な顔を崩さないシズクさんでも、口がぽかんとあけている。


「何をした?」


 シズクさんが驚くのも無理はない。俺は、11回全く同じ動作で弓を引いたのだから。


 実はこれには理由があった。ファンクションのスキルを使ったのだ。


 スキルの発動方法を覚えた日の夜、俺は熟考して一つの結論に達した。ファンクションのスキルは、すべてのスキルの基盤なのではないのかと。


 ファイアの魔法も仮面ライダーのポーズも、イメージした動きを呼び出すという意味では同じだ。


 通常スキルはファイアとか特別な能力を使うために使用する。だけど、俺はそれで、普段の自分の動作を呼び出すように使ったのだ。


 弓を引く動作をファンクションで記録して、それを呼び出しているのだ。


「う~ん」


 シズクさんにそのことを説明したが、納得がいかないようだ。


「聞いたことないぞ」

と言ったまま、動かなくなった。『あり得ない』と小さく呟いているのが聞こえる。


「射ってみろ」


 シズクさんから弓を渡された。

 俺は10m先の木に、狙いを定めた。


「狙うな」


 矢を射つのに狙わないでどうするんだろうか? どこに飛ぶかわからないぞ。シズクさんの顔をみたが、案の定説明してくれそうもない。


 『なるようになれっ、もう知らんぞ』とやけくそになって、矢を放った。


 それみたことか、矢はぜんぜん違う方向に向かって飛んでいったじゃないか。


「ここに立て」


 言われた場所に立って、弓を射ると今度は30メートル先の木にあたった。


「続けろ」


 こんなことって、ありえるのだろうか? 10本の矢が拳の中ぐらいにすべて収まったのだった。


 シズクさんが一定の型と言い続けてた理由がやっとわかった。同じ形で射てば、同じところに飛ぶ。あたりまえのことだ。


「明日、試験だ」

との言葉で、今日の訓練は終わりになった。


 よし、やったぞ。シズクさんに認められた。何の試験かわからないが、合格すれば次に移れる。


 これで走りから開放されて、実践的な弓の特訓に移れるぞ。




◆◆◆


「どうもすみませんでした。ドルハさん」


 なんで、こんな事になったんだ? 試験と聞いたから来たのに。


 シズクさんから聞いた試験会場は、ターブの狩り場を教えてくれたドルハさんの家だった。


 俺は今、ドルハさん一家4人とシズクさんに囲まれて、縮こまって座っている。


「俺は、お前が困っていると聞いたから、狩場を教えたんだぞ。それを冒険者に売るとは何事だ」


 ごもっともなご意見です。言い訳のしようがなかった。


「すみません」

「で、こらからどうするかだ」

「1つその点については、ご提案がありまして」


「ちょっと待て。その話はジョルドと対決して勝ったら聞いてやる」


 ドルハさんの息子さんのジョルドさんとの対決? なんで、対決という言葉が出てくるんだ?


「どういうことでしょうか?」


「シズクは、お前はもう一人前の狩人だと言っている」


 チラリと横目でシズクさんを見たら、深くうなずいている。


「ジョルドに勝って、一人前の狩人だと証明したら、お前の話を対等な仲間として聞いてやる」


「わかりました。対決お願いします」


「では、外に出るぞ。勝負は1時間で、狩人としての勝負だ」


 外にでて着いた先は、いつもの狩り場ではなかった。山の奥に進んでいったところで、木がうっそうと茂っている場所だった。


「教えてもらった狩り場じゃないのですか?」


「公平に審査するために、二人とも知らない場所にした。では行くぞ、スタート」


 合図が出るなり、ジョルドさんは森に飛び込んでいった。その後にシズクさんが続いて走る。


「シズクはジョルドの監視だ。お前は俺が見てやる」


 俺はまわりを見渡した。視界が悪く、どこにターブがいるか想像できない。


 確かターブは水辺にたくさんいたな。耳を済まして川のせせらぎの音を探した。だが草木がざわめく音しかなかった。


 効率悪いが移動しながら見つけるしかないか。俺は山道を駆け出した。


 ターブがいる特徴の深いヤブや地面の掘り返しを探しながら走った。


 20分ほど走りまわっただろうか。でも、まだ1匹も見つからない。


「1匹!!」


 シズクさんの大きく叫ぶ声が聞こえた。ジョルドさんが1匹仕留めたのだろう。


 弓の勝負以前にターブが見つからないじゃないか。くそっ、このままだったら、俺の負けだ。


 焦る気持ちのまま、走るスピードをあげた。走ること20分ようやく、ターブのグループを見つけた。


 5匹のターブが川沿いの草むらにいる。


 音を立てないようにして、30メートルぐらいの位置まで近づいた。この距離感はシズクさんとの訓練で走っている距離。


 繰り返し走っていたので自然と身についた距離感覚だ。


 いつも一定の距離の場所に行くように指示するので、シズクさんに理由を聞いたことがある。


 その理由は、型を保つためだった。狙いを変えると型が崩れる。型にあわせた距離に位置取りをするのが基本とのことだった。


 はずむ息が落ち着くのを待った。大きく深呼吸をした直後に、矢を放った。狙い通りに一直線にターブに向かって矢が飛んでいく。


「よし、当たるぞ!!」


 矢の気配に、ターブが気がついたのだろうか。当たる直前のタイミングで顔をあげた。そして、矢が当たる寸前で飛び退いて避けられてしまった。


 しまった。失敗した。追いかけようとしたが、ターブの方が足が速い。とてもじゃないが追いつかない。


 あきらめて、空をみあげたときだった。


「2匹!!」


 シズクさんの声が山に響いた。ジョルドさんとの差が2匹に開いてしまった。


 勝つにはあと3匹狩らないといけない。かなり厳しい状況だ。


 逃げられたターブの方を落胆した気持ちで眺めていたときだった。右の方で草むらが動く音が聞こえた。


 音の大きさからいって、中/大型の動物だ。


 揺れているやぶに目を凝らすと、2匹の動物が対峙しているのが見えた。1匹はターブ。そしてもう1匹は、緑色の肌を持った小人。そうゴブリンだった。


 睨みあいのすえ、ターブがゴブリンに向かって体当たりをした。そのまま、逃げるターブをゴブリンが追いかけていく。


 何で体当をしたんだ? ターブの動きに不自然なものを感じた。ゴブリンよりターブの足のほうが断然速い。単に走れば逃げ切るれはずだ。


 これは、何かある。二匹が対峙していた場所にそっと近づいた。ターブのいた後ろの茂みをかき分けると、4匹の子供のターブが身を寄せ合っていた。


 思ったとおりだ。

 これで一発逆転だ。

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