第15話 弓修行:ゆっくり休暇

 いやあ、定期収入があるってすばらしいな。これで働かなくても生きていけるよ。


 ということで、今月になってからの3日間はゆっくり過ごしていた。


 そこの君、俺が怠けてたって思ったでしょ。チッチッチ。違うんだなこれが。

 ハルさんの仕事ぶりを観察して、ハルさんの役に立てないか考えていたのだ。


 さすが、俺!! できる男は違うよ。ハルさんの一日はこんな感じだった。


6-8:冒険者用に朝食準備と片付け

8-10:自家菜園で野菜づくり

10-11:水くみ

11-13:洗濯、部屋の掃除

13-14 :休み時間

14-16:物の手配、薬草購入

16-18:夕食準備と片づけ


 うーん。今更ながら気がついたのだが、若い女性の行動を一日中観察して、メモにまとめているなんで、変態じゃないか? 


 他の人から見たら十分ストーカーだ。


「ストーカーって何?」

「うわっ、びっくりした」


 いつのまにか、アカネちゃんが後ろに立っていた。俺には独り言を言う癖があるようだ。気をつけないと。


「いつからいたの? 神出鬼没だね?」

「神出鬼没って何?」


 10歳の女の子には難しすぎる言葉だったようだ。


「神出鬼没っていうのは、神様や鬼神のように何の前触れなく現れたり、消えたりすることのことを言うんだよ」


「へぇー、かっこいい。神出鬼没ごっこしよー」


 よかった。ストーカーから関心が移ったようだ。


「ちょっとお仕事したいから、後でいいかな?」


「ストーカーのお仕事?」


「いやいや、違うよ」


「ハールーさーん!! カイがストーカーのお仕事があるからって、遊んでくれない!!」


「ちょっと、待った、待った」 


 慌てて、アカネちゃんを止めた。ストーカーの意味知ってて、わざとやっているんじゃないか? そうだ、いいこと考えた。


「よし、神出鬼没ごっこしようか」


「うん、いいよ」

とアカネちゃんは答えたまま、こちらを見ている。


 俺が遊び方を提案するのを期待しているのだろう。しかし俺はそれを無視して、ペンを持ち考えごとを始めた。


「ねぇねぇ、神出鬼没ごっこするんじゃないの?」


「神出鬼没って、いつのまにか消えてたりするんだよ。たとえば俺が、ふと仕事をして目を離したスキとかに」


 アカネちゃんは「はっ」とした顔をして、気がついたようだ。視線を外すと、どたばた音を立てながらドアの裏に隠れにいった。


「これで、やっとゆっくり考えごとができる」


 どうやったら、ハルさんの仕事減らせるかなあ。減らせたら、遊べる時間が増やせるのに。


 しかし、ハルさんは一日何時間働いているんだ。11時間!! しかも休日を取ったの見たことないぞ。転生前でいうと、残業180時間レベルじゃないか。完全にブラック企業だ。


 こんなの見たら、俺も休んでばかりいられない。ハルさんの仕事で、手伝えるのはないかな。


「うわっと」


 突然、足の力が抜けて尻もちをついた。


「いてててて」


 顔をあげるとアカネちゃんがたっていた。膝カックンをアカネちゃんにされたのだ。


「神出鬼没。ふっふっふ」


 すっかり忘れてた。あれから30分はたってるぞ。アカネちゃんはずっと隠れていたのか。


「降参、降参。これで、神出鬼没ごっこはおしまいね」


「ええー、でも楽しかった。また遊んでね」


 無邪気な言葉に、少し心が傷んだ。さすがに30分放置はかわいそうだった。なにか埋め合わせでもするか。


「これから、変身ごっこする?」


「あの、手を回すかっこいいポーズ」


「うん、教えて上げる」 


 宿の中だと恥ずかしいので、外でアカネちゃんに変身とは何かを教えた。


「いいかい、変身は何のためにするか知ってる?」


「求愛行動?」


 何でそんな言葉知ってるんだ? もしかしてこの前、俺がハルさんに求愛行動したと思っていたのだろうか。


「強い敵と戦う前にするんだよ」


「なんでなの」


「変身すると強くなるんだよ」


「すっごーい」


 素直に喜んでくれるアカネちゃんは、かわいい。


「では、行くよ。これが初代のポーズ」


「うわーかっこいい」


 転生してから話のレベルがあうのは、もしかしたらアカネちゃんかもしれない。このかっこよさがわかるなんてセンスの塊だ。


「強い敵に出会ったら、変身するんだよ」


「でも、変身中に敵に襲われたりしないの?」


 それを初見で気がつくなんて、なかなか見どころがある。


「アカネちゃんはセンスがいいね」


 アカネちゃんは、自慢げに鼻の下をこすった。


「戦いは、相手にも敬意を払うんだよ。だから、かっこいいことしていたら、待ってあげないといけないの」


「へえー、あっ、ハルさんが水くみから戻ってきた。ハルさーん」


 俺とアカネちゃんは、走って駆け寄っていった。ハルさんは笑顔で手を振ってくれている。


「水、持ちますよ。あと、今度から水くみ俺がします」


「いいわよ、自分のために時間使って」


 ハルさんだったら、そう言うと思ってたよ。でも、対応策はバッチリ考えてきた。


「筋力トレーニングのために、水くみしようと思って」


「ええー、ほんとー? やさしいのね、ありがとう」


「ハルさんが筋肉モリモリなのみて、気がついたんだって」


「何言ってるの、アカネちゃん!! 違うからハルさん」


 こうして、束の間の休日を楽しんだ。

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