第14話 弓修行:スキル追加

 今日は月初め。ハルさんの提案で、毎月ステータスの鑑定をすることにした。


「おお、武力が、8から10に上がってる!」

「良かったじゃない」


 武力が上がったのは、狩りでターブを狩ったからだろうか? 数値は次のようになっていた。


 武力 : 8 → 10

 知力 :48 → 49

 コミュ力: 36 → 37


「カイさんは20歳ぐらいですよね? その年齡で月に2上がるってすごいわよ」


 そうなのか。俺は凄いのか。この調子で武力をあげて、アカネちゃんを見返してやる。


 こう見えても俺は執念深いのだ。武力8で笑われたことは、けして忘れない。


「スキルも増えてる。なになに、『ファンクション』?」


 そういえば俺ってジョブはプログラマーだった。ファンクションといえば、複数の命令を一つにまとめたコマンドを意味する。


 でも、使い方がわからない。いったい何の役に立つんだ?


「『ファンクション』ってスキル、どうやって使うかわかりますか?」


「う~ん。プログラマーというジョブを聞いたことがないのでわからないわ」


 そりゃそうだ。知らないジョブのスキルなんてわかるはずない。だが、プログラマーは俺だけのはずだ。スキルを使いこなせれば、かなりの強みになるに違いない。


 しかし、どのように使い方を探すかが問題だ。そもそもスキルを見たことがなかった。


「ハルさんは何の職業なんですか?」


「私の職業は鑑定師よ。人が長所を見極めて、活かすのが得意なのよ」


 おー。ハルさんらしい職業だ。狩りで俺が狩れなくて困っていたとき、ガルドさんが助けに来てくれた。それを頼んだのはハルさんと聞いた。


 ガルドさん以外だったら、サブスクも失敗していたことだろう。こういった人選に長けた人が鑑定師なんだなと、妙に納得した。


「鑑定師ってどんなスキルを使うのですか?」


「さっき、能力を鑑定したでしょ。あれは私のスキルね」


 ああー、だから今日鑑定するときハルさんがついていてくれたんだ。なるほどね。俺に興味を持ってくれているのかと思っていたよ。



◆◆◆

 ハルさんと別れたあと、自室でいろいろスキルを試した。


「ファンクション」

と言葉に出したが、何も起きない。呟いたり、瞑想したり、叫んでも駄目。


 もしかしたら、スキル名を叫ぶだけだとダメなのかもしれない。魔法使いが、『魔法』って叫んでいるようなものだからな。


 とは言っても、ファンクションのスキルで何ができるかがわからないから難しい。


 ブログラミングで簡単な例を考えてみるか。例えば、今日の日付を取得して月だけ返すとか考えられる。というと今月の取得と唱えれば、今月が頭に思い浮かぶとか、そんなことでいいのかな?


 しかし、地味すぎる。例えできたとしても、今月を間違わずに答えられるスキルなんてつまらなすぎる。


 そうだ、かっこいいポーズをつければそれらしくなるかも!! 考えてみたらファイアだって火をつけるだけじゃん。ライターで火をつけるのと変わらない。


 だが魔法陣や呪文を付け加えることでかっこよく見える。だったら、かっこよく見せるための練習も重要だ。


 そのあと、俺は仮面ライダーの変身ポーズを参考に、振り付けを考えることに熱中した。


「カイさん、夕食の時間ですよ」


 気がついたら、夕方になっていた。4時間もポーズ作りに、夢中になっていたのか。


 何てバカなことに時間を費やしてしまったんだろうと思いつつ、夕食に向かった。


「ガルドさんは、どのようにスキルを発動しているのですか?」


 俺は夕食中も、スキルについて冒険者から情報収集をしていた。少しでもコツを教えてもらい、きっかけを掴みたい。


「グッとすると、皮膚が硬くなり、ガッとすると力が強くなるんだよ」


 いったい、ガルドさんは何を言っているんだ? グッっとかガッとかだけだと何もわからない。


「スキルの話だったら、セシリアの方がいいな。彼女は四大魔道士だから」


 えっ、四大魔道士? いいなそれ、かっこいい響きだ。セシリアさんの顔を見ると、少し陰鬱な影がよぎったように見えた。


 だが、いつものすました冷静な雰囲気にすぐに戻り、答えてくれた。


 今のは何だったんた? 気のせいか?


「スキルの発動方法は、どのスキルも一緒よ。スキル発動後のイメージを強く持つの」


 人差し指を差し出し『ファイア』とささやくと蝋燭ぐらいの炎が現れた。すごい、初めて魔法をみた。


 ホントにそんなことできるんだ。


「『ファイア』という詠唱は何のために必要なのですか?」


「炎をイメージしやすくするためね。アイスでもいいけど、アイスと言って炎をイメージできないでしょ」


 セシリアさんは理論派なのか、説明がわかりやすい。グッとかガッとかいう誰かさんの説明とは大違いだ。


「やっぱり何ができるかわからないとスキルを使えないのかぁ・・・・・・」


「一般的にはそうね。でも何でも強くイメージできれば、スキルが発現するという学説も有力よ」


「ということは俺も魔法を使える可能性があるってことですか?」


 それだったら、俺の可能性が開ける。今まで何度賢者や剣聖を夢見てきたことか。都市ごと吹っ飛ばす魔法も俺の頭の中では完成している。


「自分の職業で可能な範囲に絞られるわよ。だから私はガルドさんみたいに、自分の強化スキルを使えないのよ」


 俺の儚い夢も、5秒で破れた。ため息をつきながら、テーブルの上に突っ伏した。


「まあまあ、今日から新しい月になったし、気持ちを入れ替えて頑張ろう」


 ガルドさんが、俺の顔をみて励ましてくれた。そうだな、気持ちを入れ替えて頑張るか。そういえば、この世界だと今は何月なんだろう?


 ん? なんだ。あれれ、俺は何でテーブルの上に立っているんだ? 体がかってに動くぞ??


 テーブルの上にたった俺にみんなが注目している。その中で、俺の右手が突然左上方に突き出すように伸びた。そして大きく円を描くようにゆっくりとまわる。


 俺の意志とは無関係に動く体。やめてくれーと思ったが、止まらなかった。


「へ~んしん。Hello World。2月!!」

という言葉が、ギルド内に響き渡った。


 真正面には、ハルさんとアカネちゃんが呆然と俺を見ている。


「かっこいいー。もう一度やって」


 アカネちゃんの目がキラキラしている。いったい俺はどうしてしまったのか? これは、どう考えても仮面ライダーの変身ポーズだ。


 アカネちゃんは、

「かっこいー、かっこいい!」

と言いつつ、俺の真似をしているつもりか、手をぐるぐる回している。


「どうしたんだ?」

「さぁ、体が勝手に動いてしまって」

と力なく答えた。


「それがスキルよ」

「え??」


 意味が分からない。仮面ライダーの変身ポーズがスキル?? 何の使い道もないじゃないか。スキルを使うつもりもなかったし。


「勘違いする人が多いんだけど、詠唱もスキルの一部なのよ」


「どういうことですか?」


「ファイアのスキルを発動させようと思ったら、『ファイア』という言葉も一緒にでてくるのよ」


「??」


 説明を聞いてもよくわからない。えーと、いったい何のスキルが発動したんだ?

そういえば『へーんしん』の言葉のあとに、俺は2月と叫んだよな。今月を言うスキルって、夕食前に考えてたスキルじゃないか!!


 そういうことか。『へーんしん』と言ったら、月を言うスキルが発動すると思っていた。でも実際はスキル発動しようと思ったら、『へーんしん』という言葉と月を言うスキルが発動するということか。


 こんなのわからないだろ。


「意味が伝わっていないようなので、もう少し説明しますと・・・・・・」


 ちょっと待って、わかったから。もう説明しなくていいから。


「カイさんがスキルをイメージするときに、変なタコ踊りをしながら、イメージしてたということです」


 みんなの見る目が、痛かった。なんとも言えない、微妙な空気だ。


「変じゃないもん」


 その空気を破ったのは、アカネちゃんだった。


「かっこよかったもん」


 そうだ、アカネちゃんよく言ってくれた。仮面ライダーの変身ポーズはかっこいいんだよ。


「お姉さんいい間違えちゃった。かっこよかったよね」


 セシリアさんはアカネちゃんの頭を撫でながら話した。


 何にせよ、俺はスキルを使えるようになった。これで一歩前進だ。

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