第11話 狩り:サブスク体験会

「それで、サブスクとかいう料金はいくらなんだ?」

「お値段は、月15万になります」


 静寂がそのテーブルに流れた。


「やっぱり、買うの取り消していいか?」


 ガルドさんは、おずおずと切り出した。


「15万はキツイや」


 うーん。値段を言うのは、早すぎたか。

 もっとゆっくり、メリットを話してから切り出せば良かった。

 明日から時間をかけて説得していくか。


「ハルさーん。パンのおかわりもらえるかな?」

「はーい、今すぐ持っていきます」


 ガルドさんは、話題を切り替えるためか、パンのお替りを頼んだ。


「みなさん、一つずつ追加で、いいですか?」


 ハルさんは、テーブルの状況を見て話しかけた。


「みんな、もらうよな。一つずつ追加でよろしく」

「カイさんも、いりますか?」


 ハルさんは優しく話しかけた。


「いえ、俺はいいです」

と言って、席を立ちかけた。


 狩りの権利を売る話が失敗した以上、同じテーブルにいても仕方がない


「カイさんは食べないとだめですよ。痩せているから、もっと太らないと」

と言いながら、カイの前にパンを2つ置いた。


「それでは、またおかわりが欲しくなったら呼んでください」

と言って戻っていった。


 俺はパンをじっと見て固まっていた。

 もっと太てって……

 これって、俺からより多くの肉を取るためか?


 残りは2日しかない。

 明日から何て悠長なことを言っている場合じゃない。

 意を決してガルドさんに話しかけた。


「どうしても、契約してほしんです。お願いします」


 俺は頭をさげた。


「そうはいってもなぁ」

「宿代がはらえなくて、契約がないと困ってしまうんです」


 必死に食い下がった。


「事情はわかったけど、こっちも出せないものは、出せないからな」


「ガルドさん、お金の件は大丈夫ですよ。この契約することで、ガルトさんは15万払っても、月30万儲けられる計算です」

「本当かよ。信じられん」


 ガルドさんは疑っているようだった。


「何とかお願いします」

と頭を深く下げる、ポケットからメモが落ちた。


「しつこいよ。もう話しかけるな」


 ガルドさんは、怒って席をたってしまった。

 だめかー。 強引にいきすぎた。


 重い体を引きずって、落としたメモを拾い上げた。

 メモ帳は、「目標」と書いてあるベージが開いていた。

 よくこのベージをみていたから、癖になって開きやすくなっていたのだろう。


「のんびり優雅な転生生活」


 その文の後に、「みんなが」という言葉が新しく追記されているページだった。

 みんながのんびり暮らせるように努力するって、誓ったときに付け足したものだ。


 たった数日前に決意したばっかりじゃないか。

 自分の儲けに目が眩み、そんな大切な事を忘れていた。


「みなさん、お金の件はもういいので、明日の冒険後、狩りに行きませんか?」

「でも、ガルドさんも部屋に帰ってしまいましたし……」


 冒険者の3人はお互いに顔を見合わせただけだった。

 食事はそのままお開きになった。


 結局、明日の狩り会に来てくれるかどうかは、はっきりとしなかった。

 リーダ格のガルドさんが来てくれない時点で、もう半分答えは出ているようなものだった。

 でもまだ来ないと決まったわけではない。


 少しでも冒険者が気持ちよく過ごせるように、準備を頑張ろう。



◆◆◆

 翌日夕方宿で待っていると、4人の冒険者が集まってきた。

 よかったー。誰も来ないんじゃないかと不安だった。

 

 あれ? 昨日怒っていたガルドさんもいるぞ。

 セシリアさんたちに説得されて、渋々ついてきたのだろうか?


「ガルドさんも来ていただいたのですね。ありがとうございます」

「仲間がお前に騙されないようにな」


 まだ怒っているようだ。

 でも参加してくれるだけありがたい。


「それでは出発しましょう」


 俺は台車を引っ張って歩き始めた。

 昨日は、獲物を担いで帰ったため重くて疲れた。

 それに血が服について、服を洗うのが大変だった。

 その2つを解決するために、台車を用意したのだった。


「それでは、この狩り場の案内をしますね」


 狩り場に着くと、俺はメモの地図を元に説明を始めた。

 ターブがよくいる場所や、ターブの逃げ道など知っている限りの事を説明した。

 冒険者達は、感心しながら聞いてくれている。


「それでは、狩りをしましょうか。私が追い込むので、ここで待っていて下さい」

「今日は、俺がやる」


 ガルドさんだった。

 確かに今後は冒険者だけで狩りをしてもらうことになるので、ガルドさんに任せた方がいいだろう。


「ありがとうございます、ではガルトさんお願いします」


 ガルドさんは、さすが冒険者で、1度目は失敗したが、2度目はターブを二匹追い込んだ。

 待ち受けた3人の冒険者も難なく二匹を討ち取った。


 狩りの時間は30分ぐらいしかかかってない。

 すごいな冒険者って。


 その後ターブの血抜が抜けるのを待ちながら、雑談した。

 冒険者は、自分の武器を手入れしながら話している。


「みなさん、狩りがうまいですね。私なんて3日間で一匹も狩れなかったのに」

「私たちもカイさんの方法を見て、勉強になりました」


 話したのは女性冒険者のセシリアさんだった。

 俺って今日狩りで何かしたっけ?

 たぶん、お世辞だろう。


「こいつは、今日大したことしてないだろ」


 ちゃちゃを入れてきたのはガルドさんだった。


「いえ、ガルドさんが追い込んだとき、逃げ道の1つの通路を塞いでくれてましたよ。また、この血抜きの場所よくできているじゃないですか」

「確かに、昨日はこんなのなかったが、褒めるほどのことじゃないだろ」


 血抜きの作業場所は、今朝から俺が作ったものだった。

 川の近くに板を斜めに設置して、ターブをぶら下げられるようにした

 また血を洗い流しやすいようにバケツとか水槽を用意したのだった。


 素人作業なので完成度は低いが、1日作業したお陰でなんとか形にできた。


「女性の冒険者にとって清潔さを保てるのは、何よりの宝ですよ」

「まあ、セシリアが満足しているなら、それでいいよ」

と言ってガルドさんはそっぽを向いた。


 俺もセシリアさんに満足してもらえたなら、今日作業したかいがあったというものだ。

 今日の狩りにかかった時間は、計1時間ぐらいだ。

 それで、冒険者1人あたり1.5万の稼ぎなので上々のできだ。


 なんでだろう、冒険者が喜んでいる姿を見て、気分が良くなった。

 明日もみんなに喜んでもらえるように頑張ろう。



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残り      1日

今月の目標  20万

本日の成果  0万

残り   12万

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