第7話 狩り:宿代がない!!
「これで俺の所持金はゼロか」
20万の支払い期限は明日だった。
今8万払った事で、達成が絶望的になってしまった。
この世界は、転生前とほぼ同じ金銭感覚である。
20万といえば一ヶ月分の生活にあたる金額だった。
支払えない場合、俺は死ぬことになるかもしれない。
だが、俺の気分はそんな危機とは裏腹に、晴れやかだった。
どうしてこんな事になったのだろうか?
それは一週間前にさかのぼる。
◆◆◆
「カイさん、そろそろ何か活動したら?」
俺はコバエ長の襲撃による負傷から、3日間休んでいた。
実は翌日には完治していたのだが、治っていないふりをしていたのだ。
「まだ、右腕が上がらないんですよ」
こう言うと、ハルさんは右腕をさすってくれる。
これが仮病の目的の1つだったりする。
「アカネは、痛いの治す方法知ってるよ」
げっ、アカネちゃんがきた。
ハルさんとのせっかくのラブラブタイムを邪魔しにくるなんて。
タイミングが悪いよ。
「へぇ、どんな方法?」
そうはいっても俺は大人だ。
そんなことを微塵も感じさせないように振る舞えるぐらいの分別はある。
「こうするの」
というなり、アカネちゃんは左腕を殴ってきた。
「げっ、いたたた。ちょっとストップ」
再び殴りかかろうとするのを見て、俺は慌ててアカネちゃんの腕を取り押さえた。
「左腕の痛さで、右腕の痛さが飛んでくんだって。お父さんが教えてくれた」
「そんなことありえないから」
なんてひどい教えだ。アカネちゃん家は凶暴一家なのか?
「でも治ったよ」
アカネちゃんの視線は、俺の右腕に注がれていた。
しまった。慌てて、右腕を使って取り押さえてしまった。
「カイさんも、もう大丈夫そうね」
「・・・・・・ はい」
ハルさんの言葉に俺は頷くしかなかった。
「ギルドとして何の仕事をするか、あてはあるの?」
「うーん。村を豊かにするのが目的ですからね。となると、外貨を稼がないとですね」
「外貨って何かしら?」
「村の人以外からお金を稼ぐという意味です」
口にした後『しまった!』と思った。
ハルさんの仕事を手伝って、しばらくは生活する気でいたのだ。
こんな事を言ったら、手伝いをしにくくなる。
「それですと、私は外貨を稼いでいることになるんですね。私は冒険者から宿代もらっているから」
「アカネは、アカネは?」
「アカネちゃんも外貨になるのかしら」
アカネちゃんは、ハルさんの仕事を手伝っているんだったよな。
何で外貨なんだ?
「アカネちゃんは、違うんじゃない?」
「アカネちゃんは、冒険者から獲物を買い取っているのよ。だから私から給金はだしてないの」
詳細を聞くと、買い取った獲物はお母さんが燻製にして隣町で売っているということだった。
なるほど、だったら外貨とも言えるか。
「燻製の他に、隣町への売り物はあるのですか?」
「あとはポーションぐらいかな。そうだ、カイさん狩りしてみない? そうすれば宿代も稼げるわよ」
それは、いい案だ。
村の特産品の燻製作りに関わる仕事なので、あとできっと役に立つだろう。
でもなんかハルさんの言葉が引っかかった。
なんか気になる言葉をいったような……、そうだ宿代だ。
「ハルさん。宿代って、俺も払わないといけないの?」
「えっ? 何言ってるの。もちろんよ。食事込みで1日1万だよ。」
なんてこった。無料かと思っていた。
「月末払いで、今月は30万ね。でも今月は20万におまけしておいてあげる」
ちょいちょい、ちょっと待てよ。
お金なんて持ってないぞ。
月末って一週間後じゃないか。
一週間で20万稼ぐって、無茶じゃないか?
「払えなかったらどうなるの?」
「うーん、どうしようかな。その時に考えるわ」
ハルさんは、優しいから支払いが遅れても許してくれそうな気がする。
でも、迷惑はかけられない。
できる限りお金を稼ぐ方法を探すか。
「お母さんが来た。おかーさーん」
アカネちゃんは、お母さんを窓の外に見つけて飛び出していった。
「ハルさーん。お母さんが、獣の肉の買い取りの件で話があるって」
アカネちゃんが、ドカドカと宿の中に戻ってきた。
忙しい女の子だ。
「はーい、それでは今行きますね」
ハルさんは、アカネちゃんと入れ違いに外に出ていった。
アカネちゃんと二人きりになったが、10歳の女の子と何を話せばいいんだ?
「アカネちゃんは、何でここで働いてるの?」
確か半年前からここで働いていたんだよな。
「いい男を捕まえるためー」
予想外の要望丸出しの言葉が返ってきた。
ハルさんの働く姿に憧れてとか、人と触れ合うのが好きとかいう言葉を予想していたので驚いた。
「えーと、いい男は見つかった?もしかして俺とかいい男?」
「32てーん」
「何32点って?」
「点数だよ。カイさんは面白いけど、貧乏そうだから」
「そ、そうなんだ」
子供も話とは言え、低すぎる点数に落ち込んだ。
この前コバエ長から村を守ったのに、この点数低すぎないか?
「お母さんが、冒険者の中には貴族もいるから、それを狙えって」
なるほど。お母さんの影響か。
「それじゃ、お金持っていない冒険者は駄目なの?」
「うん。いらない」
アカネちゃんがこんなにダークとは、思っていなかった。
「そういえば、宿代払えない冒険者っていままでいた?」
月末に20万払えなかったらどうなるか、参考までに聞いてみた。
「うん、いたよ」
「それで、どうやってその冒険者はお金払ったの?」
「お肉を売ったの」
「えっ、肉!! 冒険者さんの肉?」
「うん、そうだよ」
「うそだよね」
「本当だよ。高く売れるんだよ」
自分の耳を疑った。
冒険者を殺して、その肉を売るってことか?
そんなことがあり得るのか?
どうせ、お父さんからおかしな話を吹き込まれたんだろう。
それじゃ、部屋に帰るかな。
と思い、ドアノブに手をかけると外の話し声が聞こえた。
ハルさんとアカネちゃんのお母さんだ。
「カイさん、あんなに細くて大丈夫なの?」
「なんとかなると思いますよ」
おっと俺の話をしている。
出ていきにくいから、ここで少し待つか。
「もっとガンガン食べさせないとだめよ」
「そうですね。食事の量を増やすようにします」
俺の健康を気にしてくれているのか。優しいなぁ。
ハルさんのためにますます頑張らないと。
「カイさんの肉、もう売る予定に入れてるから、ハルさんも協力してよね」
俺は気が付かれないように、静かにその場を立ち去った。
心臓がバクバクしている。
俺の肉を売る予定だと!!
アカネちゃんが言ってこと本当じゃないか。
コバエ長も簡単に俺を殺すって話していたのを思い出した。
この世界の人の命の扱いは、転生前よりずっと軽いのかもしれない。
あと一週間で、20万。本気でお金を稼がないと。
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残り 7日
今月の目標 20万
残り 20万
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