第6話 始動:野望
コバエ長が立ち去った後、俺たちは食堂に移動した。
今後の対策のためにも、状況を確認しておく必要があったからだ。
「ハルさん。コバエ長の話のとおり、ここは隣町の管轄なのですか?」
「いえ、正式に許可を受けた独立した村です」
詳しく聞いたところ、何でも三首会議という国会みたいな機関があるらしい。
ハルさんは魔物侵攻で衰退して、人がいなくなったこの村の再建を申請した。
それが無事三首会議で承認され、3年前から移り住んだということだった。
「このあと大丈夫ですかね?」
「何がですか?」
「いえ、カイさんの左遷がバレて、また襲ってこないですかね?」
俺が左遷? 何を言っているんだハルさんは。
「俺は正式に中央ギルドから派遣されたギルド長ですから、大丈夫ですよ」
「あれ? 左遷という言葉が辞令書になかったでしたっけ?」
「いやいや、そんなことないですよ」
俺は辞令の紙を取り出した。
ハルさんとアカネちゃんは、その紙を覗き込む。
「あれ? ない。ああー、ほら『して左遷』という言葉を紙を折って隠しているじゃないですか」
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サラヘイム村のギルド長として左遷
する
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「ああ、これね。誰かが嫌がらせで書き込んでたから、折って元に戻しただけだよ」
「同じ筆跡のように見えますけど……」
「そんなことないから」
これが、できるエリート中央ギルド員の辛いどころだ。
日々、しもじもの人から嫌がらせを受ける。
これもその1つだ。
「そっ、そうですよね! 私の勘違いでした!」
「これ、同じ字だよー」
「アカネちゃん、もういいから。この件はこれでおしまい」
何故か、ハルさんは慌てている。
「でも、どう見ても同じ字だよ」
「この件にはもうふれないで、お願い」
「封筒は閉じてたのに、どうやって書くの?」
「これ以上追い詰めないでぇ、カイさんが壊れちゃう」
ハルさんはアカネちゃんの口を、必死になってふさごうとしている。
何を二人で小芝しているんだか。
だがコバエ長が再び襲ってくる可能性はある。
俺は、このままにしておくつもりはなかった。
「ハルさん。コバエ長は叩き潰しますので、安心して下さい」
「どうするのですか?」
「どうするかは、今はわかりません。ですが、5年、いや3年待って下さい。3年で必ずやり遂げます」
10人の村が1000人の街に対抗する。
無謀なように見えるが、俺には1つ確信があった。
なぜコバエ長はこんな辺鄙な村に何度も足を運んているのか?
それは、この村には何か秘密があるからだ。
それさえ掴めば躍進の起爆剤になるはずだ。
「はい、私はカイさんを信じます。隣街に打ち勝つ未来を」
「期待に答えるようにがんばります。今回のことで、俺決めました」
「何をですか?」
この村にきて1週間。
たった1週間だが、笑ったり、凹んだり、凹んだり、凹んだり……といっぱいあった。
凹んでばっかりだな、こう考えると。
だが、そのおかげで俺が本当にやりたいことが見つかったのだ。
「ギルド、そしてこの村を大きく豊かにします。そして、この世界で一番のギルドにします。そのために死ぬ気で努力します」
「それでいいの? のんびり優雅な生活が夢じゃなかったかしら。メモに書いてたでしょ」
そうだ。当初の目的と一見すると、今の目標は正反対だ。
だが、俺の中では繋がっているのだ。
「そうです、それが俺の目的です。でも、ハルさんやみんなが幸せにならないと、私も心の底からくつろげないじゃないですか」
ハルさんやアカネちゃんは、瞬きもせずに俺の目をじっと見ている。
真剣だ。
「俺がくつろげるように、みんなには幸せになってもらいます。これはハルさんやアカネちゃんだけでなく、世界中のみんなです。その後でおれはのんびり優雅な生活を満喫させてもらいます」
3人はお互いに手を握った。
こんな辺鄙な村で、何大きな夢を語っているのだろうか?
傍から見れば滑稽かもしれない。
だが、その決意と一歩が、この世界に大きな激動をもたらすのだった。
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