第5話 始動:隣街ギルド長を撃退する


「はぁー」

 俺は池のほとりに座っていた。

 これで何度目のため息だろうか。


 思い描いていた転生生活とは全然違かった。

 地方都市だと思っていたら、10人規模の村。

 職業は転生前と同じプログラマー。

 武力は10歳の女の子に完敗。


「思い通りにいかないな」

というかこの辞令の左遷という言葉は何だよ。


 何かの間違いじゃないか?

 きっと間違いだ。

 いや絶対に間違いだ。


 そのまま倒れ込むように、草原に寝っ転がった。




◆◆◆

 いつの間にか眠ってしまったようだ。

 アカネちゃんがドタバタと走る音で目が覚めた。


「どうしたの?」

「コバエ長がまた来たの」


 コバエ長って、隣街のギルド長のことか。

 俺は、飛び起きて宿に向かった。


 宿につくと、痩せた小男がハルさんに向かって、金切り声で叫んでいた。

 数人で、ハルさんを取り囲んでいる。


「だから、出ていけと言ってんだろ」

「そうは言いましても……」

「どうしたんですか?」


 俺は小男とハルさんの間に強引に割り込んだ。


「なんだお前は、引っ込んでろ!!」

「彼らに、ここから出るように言われてて……」


 ハルさんが消え入りそうな声で俺にささやく。

 この怒鳴っている男が、隣街のギルド長っぽい。


 こんなやつがギルド長だって?

 品性のかけらもないじゃないか。

 信じられん。


「何で、出ていかないといけないのでしょうか?」

「黙って俺の言うことを聞け。この土地は俺のものだ。お前に、質問する権利などない」


 と言って俺の胸ぐらをつかんだ。

 手で払いのけようとしたが、びくともしない。


 小男なのに、力の差がこんなにあるなんて。

 喧嘩になったらとてもじゃないが、勝てそうもない。


「あなたの土地だという証明はあるのでしょうか?」

「兄ちゃん。女の子の前だからってカッコつけると、死ぬことになるぞ」


 その言葉をきっかけに、ゲラゲラと取り巻きから下品な笑い声があふれる。


「俺の質問に答えろよ」


 思わず語気を強めて怒鳴った。

 するとコバエ長の手に力が入った。

 その力の強さにたまらず片膝をついてしまった。


「おいおい、弱すぎるぞ、お前」


 一発、脇腹に蹴りをいれられた。

 それをきっかけに取り巻きからの蹴りが、次々と飛んでくる。


「カイさん、もういいですから。十分です」


 ハルさんは、涙ぐんでいる。

 くそ、許せない。

 今の話からすると、正当な理由はないのだろう。


 弱い立場のハルさんに、無理難題ふっかけやがって。

 俺に力があれば、ぶっ飛ばしてやるのに。


 考えている間も、取り巻きからのケリが続く。


「ギルド長、こいつ見せしめに痛めつけていいですか?」

「いっそのこと殺すか」

「さすがに、それはまずいんじゃないですか?」

「ここだったら、目が届かないからいいだろう。見せしめに殺そう」


 こいつら、人の命を何だと思っているんだ。

 このまま手も足も出ずに死ぬのか。

 何か逆転する方法を考えないと。


 奴に勝てるポイントは何だ?

 力は勝てない。

 人数でも勝てない。

 権力もダメ。


 いや、待てよ。

 さっき目が届かないといったぞ。

 つまり目が届くと困ることになるんだ。

 では、それは一体誰の目だ?

 誰の目を気にしているんだ?


 俺は、渾身の力をこめて立ち上がった。

 そして、コバエ長をじっと上から見据えた。


 コバエ長は少したじろいでいる。

 そりゃそうだ。


 殺されそうな俺が、反撃もせず、逃げもしないのだ。

 ただ威圧した態度で睨んで立っているだけなのだから。

 不気味に違いない。


「この俺を誰だと心得ている!!」


 俺は大きく、そして低く通る声で叫んだ。


「このサラヘイム村の新ギルド長のカイとは俺のことだ!!」


 コバエ長と取り巻きは、その勢いに押され一歩後退りをした。

 だが、それは長くは続かなかった。


「アハハハ。ここのギルド長だってよ。こんなしけた集落のギルド長なんて、怖くもなんともないよ」


取り巻きたちも笑いだす。


「お前、死刑けってーい。」

「これを見てもそんなこと言えるかな」


 俺は鞄から、重々しく辞令書を取り出した。


「これは、中央ギルドから、お前に向けた俺の辞令書だ」


 取り巻きたちが小声で、中央ギルドだってよ。大丈夫かよ。

 といっているのが聞こえる。


「これを見ろ!!」


 俺は中央ギルドの蝋の封を引きちぎると、辞令書を前に突き出した。


---


辞令 カイ殿


サラヘイム村のギルド長と

する


---


「この辞令書が何だって言うんだよ」

「これは、中央ギルドがお前に向けて連絡したものだ。この意味がわからないのか?」


 コバエ長は、取り巻きの顔を見回した。

 理由がわからないのか、誰も目を合わそうとしない。

 こいつらは頭の方は、ぜんぜん弱そうだ。


「俺がサラヘイム村のギルド長になるから、手を出すなっていう意味の知らせだよ」

「なーんだ、そんなことか。だったらここでお前を殺せばいいだけじゃないか。その紙を受取る前に、お前は死んでいた。そうすれば中央ギルドの目は届かない」


 コバエ長は、不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと歩いてくる。


「やれやれ。何でわかんないかね」


 俺は、大げさに両手を開いて、呆れた感じを表現した。


 コバエ長は、中央ギルドに頭があがらない。

 それさえわかればこっちのもんだ。


「お前が、俺を殺すと中央ギルドが予想してたから、その書状を書いたんだよ。俺からの連絡が途切れ次第、中央ギルドが動くぞ」


 コバエ長の体が止まった。

 あと一押しだ。

 ハッタリでも、強気にでて押し切ってやる。


「それ、お前の馬車だろ。それで今回の件はなしにしてやるよ」

「ふざけんな、調子に乗りやがって」

「その馬車で許してやると言ってるんだよ。聞こえなかったか?」

「お前……」


 掴みかかろうとするコバエ長を、取り巻きが抱きついて止めた。


「ここは、いったん仕切り直しましょう」


 コバエ長は、血管が太く浮き出て、顔が真っ赤だった。

 今にも顔が爆発しそうだ。

 フシュウ、フシュウと口から息が漏れている。


 コバエ長は俺をずっと睨みながら、村を立ち去っていった。


「カイさん、どうもありがとうごさいます。どんなに感謝しても感謝しきれません。ありがとう」


 ハルさんは、目を潤ませている。

 そして、俺に向かって一歩目踏み出したかと、俺に向かって走り込んできた。

 俺はそれを迎い入れるべく、両手を広げた。

 目をつぶって、抱きしめる準備をする。


 甘くいい香りが漂うと同時に、俺の胸に飛び込んできた。

 ハルさんを守るために体を張ったかいがあったというものだ。

 

 ハルさんは羽のように軽い。

 まるで、花の上を舞うチョウチョのようだ。


 いや、ちょっと待てよ。

 軽すぎないか?


 恐る恐る目を開けると、俺が包容していてのはアカネちゃんだった。


「カイ、かっこよがったー。『おら、ギルド長』って叫んで、ホントかっごよがったー」


 えっ、何やってるのアカネちゃん。

 俺とハルさんとのせっかくの素晴らしいシーンが台無しだよ。

 空気読んでよ、アカネちゃん。


「カイ大好きー。良がった。良がったよぉ」

と涙ぐみながら話すアカネちゃんを見て、これも悪くないなと思う俺であった。

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