第3話 始動:ジョブが判明しました
夕飯を食べながら、ハルさんが働く姿をぼーと眺めていた。俺はここ3日、ハルさんの仕事姿を見て過ごしていた。
ハルさんは働き者だ。絶えず手を動かしている。だけど、人と話すときは手を止め、落ち着いた感じで話してくれる。忙しさを微塵にも感じさせない。
『手伝うよ』とハルさんに何度か手をかそうとした。
しかし『大丈夫。カイさんは自分の仕事を進めて』と、いつも話すのだった。
俺らしい仕事って何だろう? ギルド長だから、作業でなく指示とか管理かな。
とはいえ、ハルさんとアカネちゃんしかいない。そんな中で管理職って必要か?
考えていても始まらないからハルさんに聞いてみるか。
「ハルさん」
「なに、どうしたの?」
「俺って、何の仕事したらいいですか?」
ちょっと直球すぎたか?
でも分からないから仕方がない。
「ギルドの仕事がいんじゃないのかしら?」
「では、何か手伝いますよ」
「??」
ハルさんには、どうも俺の意図が伝わってないらしい。謎の空白の時間が数秒流れた。
「もしかして、カイさん何の説明もなく、ここに来たのですか?」
何も説明されてないといえば、されてない。
『地方ギルド長への栄転。のんびり優雅な転生生活』
の題名に惹かれて、スマホでタップするやいなやここに飛ばされたのだから。
「はい、ハルさんとのんびり優雅な生活としか聞いてないです」
「えっ、 私と何するって?」
しまった。つい願望を話してしまった。
「間違えました。ギルド長となるとしか聞いていないです」
「あぁ〜。そういうことだったのね。それですと、言いにくいんだけど……」
地方でのんびりと思ったら、田舎の集落地だったという他にもまだ何かあるのか?
俺もその先は、聞きたくない。俺のライフをこれ以上減らさないでくれ。
「ギルドはこの村に無いのよ。なのでゼロから作ってもらうことになるわ」
はい、まさかのワンオペギルド、いただきました。
1人だからギルド長というのは、確かに間違いではない。間違いじゃないけど、これは広告詐欺でしょ。
はぁ〜。
「私も、アカネちゃんも手伝うから。3人で頑張りましょう」
ハルさんは何て優しいんだ。
まるで女神だよ。
「はい、頑張りましょう」
「ギルドを作るにあたって、カイさんは何が得意なの? 何のスキルを持ってるの?」
「スキルって?」
「ジョブが魔法使いだっら、ファイアとアイスとかね」
これ、かなり重要な情報じゃないか。
転生時に何にも説明がなかったぞ。
「スキルはないんじゃなかったかな」
「みんな何かしらのスキルは持っているので大丈夫ですよ。明日の昼にゆっくりスキルの話しましょうか」
やっぱり異世界にはスキルがあるんだ。
そして俺もスキルを持っている。
いったい俺は何のスキルを持っているのだろうか。
自然と体があつくなるのを感じた。明日が待ち遠しい。
◆◆◆
「それでは、スキルの説明をするわね」
冒険者が出払った、ギルドの食堂。
そこで、ハルさんとアカネちゃんの3人でテーブルを囲んでいた。
「その前に、何でアカネちゃんがいるの?」
突然蹴りをいれるような女の子が隣にいるのは、落ち着かない。
「アカネちゃんも、これからスキルを身につけるからね。サラヘイム村では、10歳から働き始めるの」
「アカネはね。もう半年働いてるの。すごいでしょ」
誇らしげにアカネちゃんは話した。
背筋をピンと伸ばして、ちょっと自慢げだ。
10歳だったのか。その年齢であんな蹴りを繰り出してくるなんて、異世界は侮れん。
「早い子だと働いてから1年ぐらいで、スキルを身に着けるのよ。だから、ちょうどいいと思って。はいこれ」
と言って差し出したのは、真っ白いカードだった。名刺ぐらいの大きさだ。表と裏を丁寧に見たが何も書かれていない。
「何ですかこれは?」
「スキルが表示されるカードね。手に包んで、しばらく待ってみて」
カイはカードを、目を閉じ、祈るような形で手に包んだ。
『こいこいこいこい。剣聖や賢者の職業こい!!』
カードを持つ手に力が入った。
この結果に俺の人生がかかっている。
「もう、いいんじゃないかしら。でも、剣聖や賢者はレア中のレアだから難しいわよ」
思わず口に出てしまったようだ。
恥ずかしすぎる。
ハルさんはがカードに手をかざすと、カードに文字があらわれた。
武力 : 8
知力 :48
コミュ力:36
「カイさんの武力はいくつ?」
「はい、これ。」
俺はカードをハルさんに差し出した。ハルさんはそのカードをじっと眺めると、困惑した表情を浮かべた。
「スキルカードは自分のしか読めないのよ」
なるほど。でも何でカードを見てたんだろう? ゴミでもついてたか?
「武力は8だよ」
と言いながら、カードを戻した。
「ふっ、ぷぷ」
誰だ? 今、鼻で笑った声が聞こえたぞ!!
「アカネは、37だよ」
アカネちゃんはガードを右手に持って、自慢げに振りかざしている。
「10歳で、37は高いわね。アカネちゃんは戦闘系の素質があるわよ。」
「ふふーん。カイ、私が師匠になってあげる」
10歳の女の子に鼻で笑われたことにちょっとムカついた。ここは、大人の恐ろしさを見せなければ。
「ムキムキの女の子に、惚れる王子がいると思っているのか? だいたい…、ぐほっ」
言い終わらないうちに、アカネちゃんのパンチがみぞおちに入った。
これが武力37のパンチか。洒落にならない。息ができないじゃないか。
「悪かったよ。でも最初に師匠になってあげるとか挑発したのはアカネちゃんだよ。」
「2人ともけんかしないで。」
「べーだ」
「でもアカネちゃんが、カイさんの師匠になるのは悪くないかも。」
「どういうこと?」
「スキルは戦闘経験を積むと上がりやすいの。だから、武力が高いと有利なのよ」
アカネちゃんをちらりと見ると、腕組みして不敵な笑みを浮かべている。
ギルド長が、部下に弟子入するだとぉ。アカネちゃんを師匠にするなんて、絶対にあり得ない。
「あとは職業とスキルね。カイさん裏面見てくれる?」
カードを裏返すと
職業 : 深淵のプログラマー
スキル: 土俵際の魔術師
と書かれてあった。
プログラマーだって? プログラマーって転生前の職業だ。
これ絶対、おかしいでしょ。
『女神さ~ん。俺のジョブ、リセットし忘れてますよー』
パソコンないのにどうやってプログラミングするんだよ。
職業が元のままなんて、せっかくの異世界ライフが台無しじゃないか。
しかもスキルの『土俵際の魔術師』って、転生前のあだ名じゃん。
俺はプログラマーだったが、コードを書く仕事なんて殆どしてなかった。
炎上に次ぐ炎上のプロジェクトで、トラブル調整ばかりしていたのだった。
追い詰められてもぎりぎり切り抜けていたので、陰で『土俵際の魔術師』といわれていたのだ。
そんなのプログラマーのスキルでもないし、適当すぎる。
「カイさん、放心状態だけど、大丈夫?」
ハルさんは、腫れ物に触るように話しかけてきた。
「ええ、大丈夫ですよ」
「カイさんは何の職業でしたか?」
これは、プログラマーと言った方がいいのだろうか?
かといってごまかせるものじゃないし。言うしかない。
「プログラマーでした」
「いったい何ですかプログラマーって?」
「一体何なんでしょうか……」
パソコンを持っていないプログラマーなんて、剣を持っていない剣聖のようなものだ。
包丁を持っていない料理人。
御主人様がいないメイド。
……
……
印籠を持ってない水戸黄門。
ピカチュウに逃げられたサトシ。
フンドシを締めてない力士。
はぁ、どんどん例えが変な方向にずれてしまった。
「私プログラマーって聞いたの初めてですよ。剣聖や賢者よりもレア職業じゃないですか。おめでとうカイさん」
ハルさんはいい人だ。
俺の沈んだ顔をみて、励ましてくれる。
そうだよ、この世界で唯一の職業じゃないか。きっと俺は大成するぞ、大成して見せる!!
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