第2話 始動:中2病メモがばれる

 目を覚ますと木のベットの上だった。

 うーん、体が痛い。


 薄い毛布がかけてあっただけなので、板の上に寝ていたようなものだ。


 でも、昨日の疲れは残ってなかった。4時間は歩いたというのに、すごく調子がいい。


 自分の腕を見ると、張り裂けそうなほどピチピチしていてる。20歳ぐらいだろうか?


 ギルト長の募集だったから、40歳以上の体かと勝手に思っていた。


「カイさん、目を覚ましたんてすか? 昨日は突然気を失ったんでびっくりしましたよ」


 開いていたドアから覗き込んだのは、昨日の女性だった。雰囲気からするとここはギルドの建物の一室のようだ。


 何で俺の名前を知っているんだろうか?


「すみません迷惑かけて。かなり疲れていたので」


「新しくここのギルド長になる方ですよね? しばらくの間、この部屋を家として使ってください」


 これはありがたい申し出だ。

 何もかもわからない中、住む場所を確保できたのは助かる。


「ありがとうございます。ところで、えーとあなたは?」


「そういえば自己紹介がまだでしたね。私の名前はハル。これからよろしくお願いします」


 ハルさんの話によると、サラヘイムは東の最果て。この先は、獣や魔獣の住処だった。


 俺はハルさんの言葉に甘えて、その日は村の周りを散策して過ごした。


 この集落は小高い丘の上にあった。


 道の先は山道に続いているのが見える。この周りは草原で見通しがいいが、その先はうっそうとした森が続いていた。


 田舎も田舎。ここでは何のイベントも起きそうにない集落だった。


 何人ぐらい住んでいるのだろうか? 下手したら10人も住んでいないかもしれない。


 確かに田舎ののんびり生活に応募したよ。だけど、こんな人がいない場所なんてあんまりじゃないか。


 この先どうしようか

 ……

 ……


 なんて考えても仕方がないがない。せっかくの転生生活なんだから、楽しむか。


 この世界の食事ってどんなのがでるんだろう? と考えながらギルドに戻った。


「ハルさん、ただいま戻りました」


「おかえりなさい。今日は、ゆっくり休めましたか?」


「ええ、落ち着いたいい村ですね」


 ふと見るとハルさんの横には、可愛らしい女の子がちょこんと立っていた。年齢は小学校高学年ぐらいだろうか。


「お兄さんの名前はカイ。この村に住むことになったんだ。よろしくね」


 女の子は、なにか不満げな表情をして、眉間にシワをよせていた。


「違う」

「えっ、何?」

「だから、違う」


 何かまずいこと言ったか?

 好青年風に挨拶できたよな。

 

 と考えていると、ふくらはぎに突然の痛みを感じて、床に崩れ落ちた。


 女の子が突然蹴りをいれたのだ。

 しかもカーフキックだとー!!


 いてててて!。痛すぎる。一体何だっていうんだ。くそー、足がふらついて立ち上がれない。


 『カーフキックとは、ふくらはぎの筋肉が薄いところをねらったローキックで、……』


 いやいやこんな解説を考えている場合じゃない。


 何で蹴られたんだ?

 と気を持ち直したら、頭の上から声が響いた。


「挨拶が違う。『この私を誰だと心得ている。ギルド長のカイ』でしょ」


 この女の子は突然何をいいだすのか?

 誰だと心得ているって……


 えっ待てよ。それって俺が昨日メモに書いていたセリフじゃん。


 も、もしかしてメモを見たの?

 俺のギルド長になったらやりたいことリストのメモを。


「だめじゃない、アカネちゃん」


「だって、挨拶が普通でつまんない。楽しみにしてたのに」


「カイさんごめんなさい。この子の名前は、アカネね。宿のお手伝いをしてもらってるの」


 混乱する頭で、どうするか必死で考えた。


 もし、アカネちゃんがメモを見ていたら、ハルさんに伝えてしまう危険性がある。ハルさんには、あの中2病満載のメモを知られたくない。


「アカネちゃんも、カイさんとこれから仲良くしてね」


「ギルド作るの?」


「そうね。この3人でギルドを作って、大きくしていきましょうかね」 


 やさしい口調で、ハルさんはアカネちゃんに話かけた。


「そしたらアカネは、王子さんと結婚できるかな」


 王子さんだって。

 大きくなったら王子さんと結婚したいなんて、実に子供らしい夢だ。


 ………まてよ。王子さん??


 もしかして俺がメモに書いた、『ダンジョンからの救出依頼を受けて、王女と恋に落ちる』というのが元ネタなんで事はないよな。


 そんなこと、あるはずないよな。


「近くにダンジョンなんてあったかなぁ」


「ちょっーと待った。アカネちゃん、外でお兄さんと話そうか?」


 このままだとメモの内容がハルさんに漏れかねない。どうにかして、口止めしないと。


「やだ。ハルさんはギルド作ってどうするの?」


 ハルさんは首をかしげて、考え込んでいる。


「うーんそうね。アカネちゃんが王子との結婚でカイさんが王女だったら、私は勇者との結婚かな?」


 ハルさんもすでに俺のメモを読んでいたのね。あんまりだ。


 ハルさんのニコニコしている隣で、うなだれるカイであった。

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