4.兄妹でも下着はさすがに恥ずかしい


 そして英梨花は次第に頬を緩ませ、弾んだ声と共にパタパタと翔太の背中を追った。

 2人してぎしぎしと音の鳴る階段を登り、とある二階の一室へ。


「ここって……」

「昔はオモチャ部屋だったな」

「昔みたいに、また一緒の部屋かと思った」

「っ、それはさすがに今だと問題あるだろ!」

「ふふっ」


 予期せぬ言葉でジト目を向ければ、可笑しそうに笑う英梨花。

 翔太はこういう揶揄いは心臓に割るからやめてくれとばかりに唇を尖らせる。


「ったく。……机とかベッドみたいな大物は適当に置いといたけど、これでいいか? 言ってくれたら、今動かすけど」

「ん、平気。大丈夫」

「そっか。他にも届いてた段ボールの荷物とかはそこに纏めて手つかずだから。っと、荷解き手伝うよ」

「ありがと」


 そう言って翔太は一度自分の部屋に戻りカッターナイフ取ってきて、段ボールを開封していく。

 ポーチや手鏡といった雑貨類に可愛らしい柄のマットやクッションといった身の回りの品から、自分との違いを感じさせられる。

 そして見慣れぬボトルやスティック状のものが飛び出し、それがコスメ品だと気付いた時、思わず手を止めて英梨花の方を見てしまった。


(化粧とか、するんだ……)


 透明感のある白い素肌、くりっとカールした長い睫毛、瑞々しいぷっくりとした紅い唇。思わず見惚れてしまう、少し幼さを残した可愛らしくもきれいな顔。

 なるほど、その美貌の裏ではこうしたアイテムが必要なのかもしれない。そのことを考えると否が応でも英梨花が女の子なんだと意識させられ、胸が妙にざわついてしまう。


「兄さん?」

「いや、なんでも」


 どうやらかなりまじまじと見てしまっていたらしい。

 こちらの視線に気付いた英梨花が小首を傾げ問いかければ、素っ気なく返事をし、誤魔化す様に目を逸らす。なんとも胸がもやついている自覚はあった。

 英梨花はといえば涼しい顔で淡々と片付けており、自分だけドギマギしているようで、それが少し恨めしい。

 翔太はそんな胸の内を悟られまいと、内心(平常心、平常心)と呟きながら、努めて平冷静さを心掛け荷解きをしていく。

 しかしそれでもとある段ボールを開けた時、「う゛っ」と言葉を漏らして固まってしまった。


「ん?」

「えー、いやその、これ……」


 慌てて段ボールを閉めた翔太に、英梨花はどうしたことかとその手元を覗き込み、不思議そうな声を上げる。


「あぁ、下着」

「わかったから、目の前で広げないでくれ」

「恥ずかしい?」

「当たり前だ!」

「兄妹なのに?」

「あのな、兄妹でもさすがにそれはその、ダメだろう」

「ふぅん?」


 翔太がさすがに見てはいけないと赤くなった顔を背ける傍ら、英梨花は少し困った顔で相槌を打つ。そして、少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「昔はお風呂も一緒だったのに」

「む、昔は昔だろ!」

「今日、一緒に入る?」

「入るか!」

「ふふ、兄さん面白い」

「……ったく」


 くすくすと愉快気に肩を揺らす英梨花。

 どうにも妹との距離感は難しい。

 しかしちょっとしたことでドキドキしてしまうものの英梨花の笑顔を見れば、今のところ間違った反応はしていないのだろう。


 結局その後、衣類に関しては英梨花に任せ、残りをテキパキと荷解きしていく。

 作業はスムーズに進み、思ったよりも随分と早く終えられた。

 翔太は完成した英梨花の部屋をぐるりと見渡し、ポツリと一言。


「荷物、少ないんだな」


 大きく目に付くものといえば机にベッド、本棚や小物の収納を兼用したオープンシェルフくらい。荷解きしながら感じていたことだが、翔太の部屋と比べても所持品が少なくて、同じ間取りのハズなのに随分広く感じてしまう。

 ともすれば殺風景。あまり年頃の女の子の部屋には見えない。


「……よく、引っ越してたから」

「そう、なのか。そういや父さん、昔から仕事で全国各地を飛び回ってたっけ」

「だから、持ってるものは必要最小限を心掛けてる」

「でも、これからはそうじゃないだろ?」

「っ!」

「……英梨花?」


 何気なく零した言葉に、英梨花は目を大きくして瞳を揺らす。翔太は何か変なことを言っただろうかと、内心をドキリとさせしながら英梨花を見つめる。

 すると次の瞬間、かつての妹を彷彿させる嬉しそうな顔を返された。


「ん、これからは一緒」

「っ! お、おぅ」


 不意打ちだった。

 どこか妹かも知れない女の子と思っていた目の前の少女は、やはり確かに英梨花なのだと分からされてしまったかのような感覚。

 バクバクと早鐘を打つ心臓は動揺からか、はたまた別のものなのか。

 自分でもそれはよくわからない。ただ1つ確かなことは、この笑顔をもっと見てみたいと思ってしまい、余計に鼓動が早くなる。

 翔太はそんな胸の内を悟られまいと、少し早口で言葉を紡ぐ。


「あーその、シャンプーとか歯ブラシ、食器といった生活必需品はまだ揃えていないんだ。まだ陽も高いし、買いにいかないか?」

「ん、行く」


※※※※ ※※※※


タイトル模索しています。


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