第34話 クロの食費問題とじいちゃんの死因

 夜ご飯に昼のとソースが違うだけの同じバケットサンドを食べたオレオル。

 美味しくなかったわけではもちろんない。

 自分1人ならばそれで十分満足だった。

 だが、1人ではないとなると話は変わってくる。

 毎回同じものというのは早い内にどうにかしないといけないだろう。

 オレオルは元々自分1人だけの旅だと思っていたから野菜の千切りを数種類とサンドイッチに合うようなソースしか用意していなかったのだ。

 このままではさすがに飽きが来るだろう。

 クロの性格的に絶対何か言ってきそうだし。


 オレオルはクロに文句を言われる前に、本格的な調理ができない場所でも簡単に作れる料理の種類をもう少し増やそうと心の中で思った。


 あいつの事だからこれが2、3回くらい続いたらきっと文句言ってくる。絶対そうに決まってる!

 いい服きてるし、いいもの食べてきてそうだし!

 というか、俺あいつに食費請求していいよな?

 クロ1人だけに出さないのも可哀想だからアレクさん達に出す時に一緒に出してるけどこのままずっと俺に着いてくるならずっと無料タダは無理だ。


 こういうのは最初にきっちりしとかないとな。 じいちゃんも言ってた。


「なあクロ」


 オレオルは少し離れた場所にいたクロの方へ行って話しかけた。


「なんだ」


「お前これから俺にずっと着いてくるんだろ? 」


「そうだが…何か問題があるか? 」


 クロはオレオルがまた何かピーピーと文句を言いに来たのではないかと思いギロリと睨んだ。


「ヒェ…そ、そうじゃなくてな? 」


 オレオルは睨むクロにビクビクしながら食費の件を伝えた。


「そういうことなら俺の分はいらない」


 クロがさらりとそう言った。


「え、いらない…? 俺のご飯美味しくなかった? 」


「別にそういうわけじゃねえ」


 そう言ったクロが組んでいた足を反対の足で組み直した。


「俺はそもそも生きるために人間共の様に何かを食べる必要はない」


 人間共…?


「必要ない…? 」


 オレオルはクロの言葉に違和感を感じた。


「あぁ、だが勘違いすんなよ。神の加護でそうなってるわけではないし、ましてや病気や呪いなんかでもねえから心配する必要はねえ。種族的な特性というやつだ。」


「でもさっきも昼を普通に食べてたよな? 」


「食べれないわけじゃねえからな…美味しい食べ物は普通に好きだぞ」


「そうなんだ…」


 うーん…なんかよくわからないけど…

 そう言う事ならいくら食べなくても大丈夫だからって俺だけ食べるのもなぁ。


 お金を貰うのが1番手っ取り早いのかもしれないけど、お金を払う気があるならクロなら自分から言い出してそうだしなぁ。


 お金以外で何か…うーん。


 あっ、そうだ!


 いい事思いついた!


「クロ、良かったら俺に魔法とか鑑定スキルとかの使いこなし方を教えてくれないか? 」


「それを食費の代わりにしてやるという事か」


「え、いや、そんな偉そうな事を言う気はないよ…ただクロなら俺にも教えられそうだなって思って…それで…」


 俺も皆みたいに普通に普通の魔法を使ってみたい。 魔力量ゴリ押しの見よう見まねななんちゃって魔法じゃなく、基礎から学んでちゃんとした魔法を。


 こいつならそれができそうな気がする。


「あぁ? ……めんどくせえな…だが…まあいいか」


 オレオルが『教えてくれ』と自分から言い出さなかったら何かしら理由をつけて自分から言い出そうと思っていたクロはその事をおくびにも出さずにそう言って渋々了承したフリをした。


 スピカに頼まれたからその後継者であるオレオルの教育はめんどくさいがクロの仕事なのだ。


「この俺が直々に教えてやるんだから真面目にやれよ。サボったらゆるさねえ、わかったな? 」


「は、はい! 」


 オレオルはなんだか強そうながあるクロに教わる事ができる事を喜びつつも『なんだか厳しそうな気配がするな』と思い、緊張して返事がどもった。


「この世で俺以上に魔法や魔術、スキルに詳しい者はいないからお前は運がいい。この俺に教われる事に感謝しろよ。」


 自信たっぷりにそう言ったクロは楽しそうにニヤニヤと笑ってオレオルをからかう様な目で見た。


 こうしてクロに魔法やスキルの使い方を教えてもらう事になったオレオル。

 既にクロの態度を受けて若干後悔し始めているが、後日教わり始めた時に今のこの後悔が可愛く思えるほど猛烈に後悔する事になる。

 なぜならクロは超がつくほどのスパルタでめちゃくちゃ厳しかったからだ。




 *




 あの後。


「教えるのは明日街に着いて以降だ」と言われ、夜中の見張り当番もクロから「ガキはさっさと寝ろ」と言われてしまい却下されたオレオルは不貞腐れつつもぐっすりと寝た。


 そして翌日、前日と引き続きでナスハワの街への道を進んでいた。


 相変わらずで謎にわっさわっさと生い茂る薬草達が大量に採れたので、オレオルはクロにガキと言われた事等ケロリと忘れすぐにご機嫌に戻った。


 帝国との国境から離れれば離れるほど生い茂る量は減っていったがそれでも通常時と比べるとかなりの量だ。オレオルは自分のリュックが時間停止なのをいい事にとれる分は取り尽くす勢いで薬草達をとりまくった。


 そしてそんな薬草達の中には図鑑でしか見た事がなかった様なものもいっぱいあった。

 現状でオレオルが1番得意なのは調薬だ。

 だからオレオルにとって手持ちの薬草の種類が増えるのはとても嬉しい事だった。


 中でも1番嬉しかったのはアマデグラの木の原種に近いものがあった事だ。


 その木に実っていた木の実を【鑑定】した結果がこれだ。


 ───────────

[アマデグラの実]

 魔素によって変異している元アーモンド。

 中にある種子を割ってその中身を煎って食べるのが人気。

 これは原種に近いため毒がある。

 ───────────


 原種って毒、あるんだ…


「俺の鑑定結果が役に立つ事言ってる…」


 オレオルが鑑定結果の毒という部分に二つの意味でびっくりして見ているとクロが鑑定結果でなんとでたのか教えろと言ってきた。

 だから鑑定結果をそのまま伝えるとため息をつかれた後に「最低でもこれくらいは見れるようになれ…」と言われて紙を1枚渡された。


 ───────────

[アマデグラの実]

 魔素によって変異した元ビターアーモンド。

 長い時の中で魔素によって進化しており、元となったアーモンドとはもはや完全に別物。

 実の中の種子の中の仁を煎って食べるのが人気だが、これは原種に近いため薬効が高いが、合わせて毒もあるためそのまま食べる事はやめておいた方がいいだろう。生のものをそのまま大量に食べると呼吸困難などで死に至る。

 長時間水につけた上でしっかりと加熱する事が推奨されており、きちんと毒を抜く事さえ出来ればとても体によく、変異魔力裂傷症の特効薬の材料としても有名な素材のひとつ。

 ※この実がとれたのと同じ木、かつ、同じ大きさの実であった場合、およそ30粒前後が通常の人族種の致死量。長命種でも50粒前後で死に至る。

 ───────────


 え...

 変異魔力裂傷症の…特効薬…だって!?


「うそ!? 」


 オレオルは自分の鑑定結果との内容の差も気になるところではあったが、それよりも何よりも『変異魔力裂傷症の特効薬』という部分に目がいった。


 なぜなら…


 その病気はじいちゃんが亡くなる原因になった病気だからだ。


 変異魔力裂傷症は歳をとると発症する事の多い病気で体内にある自分の魔力が突然変異を起こし体内を傷つけてしまう様になる恐ろしい不治の病だ。

 この病気の特効薬はドロシーばあちゃんも知らないと言っていた。セレーナさん曰く、この大陸で1番だというドロシーばあちゃん。そのばあちゃんが知らないと言っていたのだからこれはそれだけ大事だとわかる。


「クロ、これって本当!? 」


 オレオル信じられない気持ちでクロに尋ねた。


「どこを見てそんなに驚いてんのか知らねえが俺が嘘をつく理由があると思うか? 」


「だって変異魔力裂傷症の特効薬なんて…聞いた事ない…」


 じいちゃんが変異魔力裂傷症になってから必死になって探したからオレオルはこの病気に関してだけは自信を持って『特効薬は無い』と断言できるほど詳しかった。


「あぁ、そういえば…その病気、随分前から不治の病扱いされてたな…昔は普通に治せる病気だったぞ」


「え」


「だいたい1500年くらい前だな」


「せっ!? 」


 1500年前!?


 クロって一体いくつなんだよ!?

 見た目が20代後半から30代前半だったからもし仮に長く生きる種族だったとしても100歳かそこらかと思ってたのに!!


「その頃まではそこら辺の薬屋で普通に売ってたし、金額も安かったから季節の風邪と同じ扱いだったな。」


 そう語るクロは自分がとんでもない事を言っているという気は無い様で驚くオレオルとアレク達を放置してさらに言葉を続けた。


「あの薬はアマデグラの仁を薬の材料に加工するのに錬金術が必須だからな…錬金術が人族至上主義者共のせいで禁術に指定されてからその材料が作れなくなり、その結果、変異魔力裂傷症は不治の病等と言われるようになった」


「人族至上主義…? 」


 なんだ? それ。

 そういう集団がいるのか?


「帝国に住んでたくせに知らねえのか…いや、帝国に住んでたからこそ、知らないのか…? 」


 クロはオレオルを怒りと同情が混ざった様な目で見てそう呟いた。


「一言で言うならヤツらはただの差別集団だ」


 そういって見たクロの目は出会って初めて見るくらい凪いでいた。オレオルはそんなクロの目が気になったが、なんとなく聞いても答えてくれない気がしたので"なぜ帝国にいたからこそ知らないという事になるのか"を尋ねた。

 するとクロは険しい顔をしてその事について教えてくれた。


 なんでも帝国は帝都に近ければ近いほど人種差別が酷いらしく、それははるか昔に人族至上主義を掲げ人族…つまりヒューマン以外の亜人種を奴隷にしていたやつらが人族だけの楽園を作る等と言って興した国が今の帝国の元にあたる国らしい。

 その時の王家はもう誰1人として残っておらず、国も変わってしまったらしいが、元々差別集団が集まって作った国だった。なので、トップがすげ変わろうが国民の思想は変わらないため何も変わらずに今に至るらしい。


「ついでに言うと、今の帝国上層部の何代も前の祖先共が原因で禁術になったのが、お前が使ってる錬金術ってわけだ」


「それは違う!! 」


 それまで黙ってクロとオレオルの話を聞いていたアレクがそう言って叫んだ。


「違うも何も当時起こった事を客観的に見て、あの時悪かったのは人族至上主義者共だ」


「そんなはずは無い! 人族至上主義者が悪などと聞いた事もないし、そんな、そんなはず…」


「はぁ…人間のガキ、お前はこの俺がわざわざこんな嘘をついたと言いたいのか? 」


 クロの言葉を否定したアレクさんにクロが本気で怒った様子で、そう言ってアレクさんを威圧した。


「そ、それは…ないだろうが…でも…」


 アレクさんはそう言って青い顔で黙り込んでしまった。


 …アレクさん?


「大丈夫ですか? 」


 オレオルは心配になってアレクに声をかけた。


「……すまない、少しひとりで考えさせてくれ」


 申し訳なさそうにそう言うとアレクは先頭を歩くセレーナの方へ行ってしまった。

 そしてアレクがオレオルのそばから離れてすぐ。リリアがオレオルのそばにやってきた。


「ね? ワタシ達がパーティ内で差別に関する話題をタブーにした意味がわかったでしょ? 」


「は、はい…」


 クスクスと何も気にしていなさそうに笑うリリアにそう言われたオレオルはなんと返したらいいのか分からずそんな曖昧な返事を返した。


 そしてそんなことがあってから少しした昼前頃。

 一同はようやくザリニア王国のナスハワへと到着した。


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 お読み下さりありがとうございます!


 この章はこれにて終わりで、 番外編をひとつ挟んでから次の章に突入です。

 そして入れるならここしかないと思ったのですぐには使わないだろう帝国国内の内情や伏線をチラホラと巻きました。ですが、それを回収するのはかなり先になりそうです(笑)

 帝国編はオレオルがきちんといろいろ自覚して自分の力を人並み以上に使いこなせるようになった後を予定しております(どれだけかかるやら…)

 これからもふとした時に『ん?』と思うような描写があるかもしれませんが、その時はタイムスリップというタグを思い出していただけたら嬉しいです

 関係あるかもしれませんし、ないかもしれません(笑)



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