第30話 【運命に初めて感謝した日】
クロ視点です
後々読んでなるほどなと思っていただけるような書き方をしてるのでワケわからないと思う事が多いかもしれません
読み進められないほどでしたら優しめに教えてくれると嬉しいです
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「この世界は私が前世で生きていた世界ではゲーム──つまり物語の中の世界だったのよ」
あいつがそう言ったのはいつだったか…
たしかあいつに会ってすぐの頃だった気がする。
昔すぎてもうちゃんとは思い出せない。
あれから俺は今に至るまで長い長い時を生き、様々なモノの繁栄と衰退を見てきた。
この世には大きなひとつの流れがあり、それは寿命に縛られない俺であってもどうにもできないものだという事は知識としては知っていた。
命あるものは生まれた瞬間から老いて死に向かっている。それはどんなものでも基本変わらない。
どんな生物にも終わりは来る。
俺の様な1部の例外を除いて。
ある人はその流れを運命と呼び逆らおうとし、ある人はその流れに身を任せた。
そしてあいつは…
その流れに乗って光の速さで駆け抜けて逝った。
今でも理解できないが、人間なんかと結魂したからだ。
あれから長い長い時が経過し、近頃の一部の人間共はもう過去の痛みを忘れた様子で…もはや何度目かを数える事すらしなくなった戦争をまた始めるらしい。
そのせいで俺の下僕共が『この国にまでとばっちりが来ないようにするための対応』で忙しそうにしていた。主にどんな事を懸念していたのかと言うと、戦争の噂が広まる事で、発生するだろう一部のバカに余計な事をさせないようにするための手配だが今は割愛する。
話を戻そう。
あいつが居なくなった事で『世界のバランスを保つ者』を失った今の世界。
滅びに向かうだけの今のこの世界。
そのためなんかに、昔の様に真面目に働きかけるのは面白くない。やるなら一発逆転だ。
そして、戦争を放置する理由だがもうひとつある。
今回のこの戦争は、帝国周辺で多少の影響は出るだろうが、せいぜいその程度だろうと思ったからだ。
だから、まるっと無視して国には帰らなかった。
そもそも戦争をしようとしている帝国とその隣の王国は、アホ猫があいつから任された場所。
だからアホ猫の管轄だし、そもそもやつら…コリもせずに100年置きくらいには戦争起こしてるから俺たちの間ではもはや恒例行事となりつつある。
どうせ、いつもの事だ。
少しやったらどっちかが停戦を言い出して、国の名前が変わって終わりだ。
あの土地に住むヤツら、国名は戦争の度にコロコロ変わっちゃあいるが、やってる事は何も変わっちゃいねえ。
つくづく人間ってのは愚かな生き物だと思う。
そんな人間と結魂したあいつが寿命で亡くなってから約2000年。
亡くなる前『後継者となる子を助けてあげて欲しい』と頼まれていた。だが、どれだけ待ってもあいつの子孫達の中からあいつの血の力を覚醒させる者は現れやしない。
あまりにも長い間現れないため、最近ではあいつの血は薄まりすぎてしまっていて後継者なんて二度と現れないのではないかとすら思い始めていた。
『俺はどこかで失敗してしまったのだろうか』
そう思い、半ば諦めていた。
それでもあいつがわざわざあんなに真剣に頼んできたからきっと大丈夫なんだろうと思い、その時が来るのを待っていた。
そんな時だ。
あいつの血を引いたその子孫である東の島国の王族。その最後の生き残りが殺されたと精霊共の噂で聞いて絶望したのは。
『やはり失敗していた…もしかしたら本当はもうとっくの昔に希望は消えていたのかもしれねえ』
そう思うと、もう何もかもがどうでも良くなって、このまま永遠に生き続けるのにも嫌気がさした。
だから本気で死ぬつもりで自分の身辺整理を始めた。
下僕共の所へもしばらく帰っていなかったが、久しぶりに帰って、もしも俺という存在がいなくなっても、これまで通りやっていけるようにもしてきた。
そして何もかもを終わらせ、最後に適当な洞窟をフィーに見つけさせて…
そこを終わりの場所にしようと死ぬための空間作りを開始した。
周囲の魔素を操作して、停滞させ、淀ませ、それを充満させる。
そして最後に"穢す"きっかけとして呪いの塊を砕いて解き放った。
解き放った呪いが自分を侵食していく感覚にこれで終われると思った。
復活できない状態で死ぬのは初めてだったため、少しの不安とある種の興奮を抱きながら目を閉じる。
最期の場所に帝国国内を選んだのはあそこの王家の奴らやその先祖が間接的にあいつを殺したからだ。
それがなくても今帝国にいる人族至上主義者共はこれまでも散々やらかしてきた。
最期にこの世界の癌でしかないあいつらを国ごと一掃して逝くのもいいだろうと思ったのだ。
だが、そんな俺の予定は懐かしい気配をもつ者に呆気なく阻まれた。
一瞬、あいつが生き返ったんじゃないかと思うくらいに出会った頃のあいつの魔力に似ているその気配…
そいつは信じられない事にフェニックス由来の再生の炎を使ってオレを助けたのだ。
何がどうなってそうなったのか全くわからないが、あまりにもできすぎている状況だった。
だから自分が今死にかけているのにもかかわらず、俺はおかしくなって笑いそうにすらなった。
久しぶりに感じる聖命復活の炎はとても心地いい。
聖命復活の炎はあいつが怪我を治すのによく使っていたものだったので懐かしく感じたのもあるだろう。
あぁ、そうか、スピカ…
お前の言っていた後継者はこいつか。
ちゃんと生きていたのか…
俺は数秒前まで死にかけていたためにまだ重い体と頭を意地と気合で動かし、懐かしい気配をしている存在を視た。
念願叶ってようやく会えたあいつの後継者。
長年探し続けたその存在を前にして俺はもう少し感慨深い気持ちになるものかと思っていた。
しかし、俺はそいつを一目見て一瞬でそんな感慨深さが吹っ飛んだ。
なぜならそいつは魔力暴走状態だったのだ。
意味がわからなかった。
もってあと1ヶ月。
なぜ本人が気づいてないのか。
いや、その膨大な魔力量で1ヶ月も
元々、魔力暴走とは強い精神的苦痛を受けた時に魔力を操作しようとする事で起こる現象だ。
例えば『親が目の前で殺された』だったり『最愛の恋人を目の前で殺された』等だ。
だいたいが大切な人の死がきっかけになる事が多い。
普通は身体中の魔力が急速に体外へと放出される事で魔力枯渇となり意識を失い、暴走しているために魔力の流出を止める事も出来ずそのまま死に至る。
死亡するまでの時間はその者の持つ魔力量によって違うが魔力量が多い者でもだいたいもって数時間だとされている。
俺でもせいぜい1~2週間が限界だろう。
冷静じゃない混乱している状態だと、気づけないものなのか…
できない事を数える方が早い俺には理解できない状態だった。
しかし、それにしても…なぜこいつは魔力暴走状態にもかかわらずケロッとしていられるのだろうか。
自覚すらしていないのは、いくらなんでも鈍感がすぎないか?
しかも魔力暴走状態で、呪いがこんなに充満した場所にのこのこやってくるなど…自殺志願者か?
一緒にいるヤツらは…気づいてるようだな…なら止めろ。
ホイホイこんな所に連れてきてんじゃねえ。
こいつじゃなければとっくに死んでるぞ。
目の前のわけがわからない存在にふと『そういえばあいつもわけわからんやつだった』と思い出し懐かしい気持ちになる。
いろいろ気になる事はありすぎる。
だが、とりあえずは、あいつに後を頼まれた者として、死にかけている癖に気づいてすらいない目の前のアホをどうにかしてやらないといけない。
俺は長い時で忘れかけていた未来への希望にあふれている様なそんなワクワクとした気持ちでそいつに話しかけた。
直接話してみるとこのアホは俺の知っているあいつに本当によく似ていた。あいつから知性と自信と…他にもいろいろ抜いたらちょうどこんな感じになるんだろうなとも思った。
与える情報を故意に操作されて育ってきた様だからそのせいで歪になってしまったのだろう。
俺の事を『ブルーテイルの親じゃないか』と、そう勘違いして聞いてきたのはその中でも1番意味不明だった。
だが、あいつも『幻獣が人に変化できる』と勘違いしていた事があった。そしてその返しに『幻獣は人にはなれねえ』そう言ってツッこんだ事もある。
だから、もうこいつらはそういう生き物なんだろうと思う。
こいつに関しては少し作為を感じるが、それはまあ今はいいだろう。要らんところが遺伝しているなとも思ったが、あいつの子孫達は変わり者も多かったしな…
その考えで自分を納得させた男は魔力酔いで眠ったオレオルを抱きかかえて護衛の4人に目を向けた。
「俺の元にこいつを連れてきてくれて感謝する」
男はそう言って上等そうなその服に良く合う、とても様になっている綺麗な所作で4人に向かって礼をする。
「…ぼく達に何も聞かないの? 」
「だいたい想像はつきますので」
それに過去が知りたいなら、俺の場合、聞くより視た方が早い。
先程オレオルを相手に話していた時の尊大な態度とは全く違い、丁寧ではあるがどこか壁を感じる対応をしてきた男にセレーナ達は驚いた。
だが、当の男はそんな視線はまるっと無視して自分の思考を優先している様子で、セレーナはそれ以上話しかけるのをやめた。
4人が事前に聞いていた通りこの男が人間を好きじゃない事がわかったからだ。
失礼と言うほどの態度では無いが、仲良くする気は無いとはっきりわかる態度。
警戒のためにいちおう『仮に攻撃を仕掛るとするならどうするか』とも考えるだけ考えてみる。
本当にする気はさらさら無いが相手がこちらに敵意を向けてきたらわからないと思ったからだ。
しかし、隙など欠片も見当たらず、こちらを見ている訳でも無いのに圧倒的な差を感じた。
一言で言うなら『眼中に無い』という言葉がぴったりかもしれない。
4人はそう思い、心の内でそれぞれ苦笑いした。
それから少しして、男はオレオルを抱っこしたまま4人の方を見た。
「念の為に確認しておくが、あんたらはこいつの護衛で雇われた冒険者、違うか? 」
「そうですが…なぜおわかりに?」
エルフ混じりの黄緑色の髪をした男が俺にそう聞き返してきた。
こいつは…元暗殺者、か?
闇属性の気配がする。
だがまあ…今は違う様だし、問題は無いか。
「あんたらのその位置取りは帝国内の冒険者ギルドで教えられている『護衛時の教え』そのままだ。その上さっきからのその1歩引いた態度。これが護衛でないわけがない。」
男はにっこりと微笑んでそう返した。
のちにオレオルからは胡散臭いと酷評されまくる事になる笑顔だ。
4人が帝国の冒険者ギルド所属の護衛だと気づけばあとは簡単だ。
会話が少なくどこかぎこちなく感じるのも、出会って日が浅くこいつらがお互いにお互いの事を知らないからだろう。
こいつに魔力暴走を自覚させなかったのも、これ以上暴走状態を悪化させて『残りの時間を減らさないようにするため』には妥当な判断だ。
魔力暴走の治療には暴走している者がもつ魔力の総量の倍は必要だと言われている。
こいつはまだまだ子どもなので、今はまだ俺でもどうにか対処出来るレベルで問題ない。
だが…普通の人間が4人集まったくらいでは総量の百分の一にも満たないだろう。
「あぁ、ひとつ聞いておくか…」
「…聞きたい事ですか? 」
俺のつぶやきにさっきと同じエルフもどきが言葉を返してきた。
「あぁ、魔力暴走状態にあったこいつを穢れや呪いの充満する場所に連れてきた理由だ」
俺がそう聞くとエルフもどきは先程からなぜか固まったまま動かない赤毛の男をちらりと見て首を傾げてから口を開いた。
おそらくパーティリーダーの意見を聞きたかったが反応がないので諦めたと言ったところか。
「…それが依頼主からの最優先事項だったからです」
最優先事項…そうか…なるほどな。
これもあいつの想定内だったというわけだ。
「わかった」
俺はエルフもどきの返答を聞いて初めて『運命とやらもたまには面白そうな事をするじゃねえか』と久方ぶりに心の底から愉快な気持ちになった。
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お読み下さりありがとうございます!
クロも主人公になりそうな…そんな予感がしております。
最初はそんなはずなかったのにな。おかしいですね。
ザ・行き当たりばったり(笑)
私事ですが、この作品のフォローが250名を突破し総閲覧数も10000PVを突破いたしました!
皆様本当にありがとうございます!
物語の始まりであるこの章はソシャゲで言うとチュートリアルです。私が力不足なばかりに説明等が多めになり作中の時間経過もゆっくり目で進めておりますが、それでもあと数話でこの章も終わると思います。
これからもどうぞよろしくお願いします!
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[☆☆☆]とレビューをくれたりなんかするととんで喜びますのでどうかよろしくお願いいたします!!
2023/11/05追記
先の方を書いていたら違和感を感じたので少し言い回しや故意に隠していた部分を開示して変更を加えました。
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