第2話 喪失と約束

 時間はオレオルがマリーのいた孤児院を救うよりも前、オレオルがまだ育った街にいた頃に遡る。


 ここは、とある大陸にある大国、ゴルゴン帝国。

 その西側の国境近くにある隣国との貿易で栄える街タリア。


 その街には有名な素材屋があり、その店は『そこに行けばなんでも揃う』と言われているほどの人気店だった。


 そんな素材屋の裏側にある住居用のドア。そこから店に駆け込んできた1人の人影があった。


「じいちゃん! 今日森で珍しいの見つけた!」


 明るい茶髪に緑色の瞳をした10歳くらいに見えるその少年の名前はオレオル。


 オレオルは5歳の頃に流行り病で母親を亡くし、身寄りをなくして路頭に迷い貧民街をさまよっていた過去がある。

 そこをこの素材屋の店主であるロウルに拾われ、家族として受け入れてもらったのだ。

 以降オレオルはこの店で手伝いをしながらロウルと2人で暮らしている。


「おぉ、これはワラナデシか? よく見つけたのぉ…状態もいい」


「ほんと!? 初めて採取するから上手くできてるか不安だったんだ、よかった!」


 ロウルに褒められて嬉しそうにするオレオルは幼い様に見えるが、実際は現在17歳。

 見た目だけ言えば合法ショタを素で行く幼さではあるが、この帝国での成人は15歳。

 なので、書類上は立派な大人という扱いだし、本人も大人であるという自覚があった。


 しかし周囲の目というのはそんなオレオルに厳しく、オレオルは街中で絡まれる事や仕事の依頼先でオレオルを見ると嫌な顔をする者もいる。


 オレオルはロウルに「その身長のせいで何か言われたら貧民街にいた事があると言っておくんじゃ」と言われていたので、絡まれる度にその説明をしたものだ。


 実際はロウルの知り合いだという医者から「過去貧民街をさまよっていた事があるのが信じられないくらいの健康体だ」とお墨付きをもらっているので嘘なのだが。


 そして、そんなオレオルがこれまで依頼先で初対面の人に言われた年齢の内、最高齢だったのはなんと脅威の12歳。

 しかも、ものすごく優しい人でかなり気を使ってくれた上での12歳だ。


 そんなこんなで、見た目のせいで損をする事も多いオレオルだが、当の本人はそれ以外はいたって普通の一般庶民だと思っている。


「じいちゃんは? 今日は体調大丈夫そう? 」


「おぉ、今日はいつもより調子がいいんじゃっ──ゴッホッ…ゴホッゴホゴホ」


「あー、もう! 無理して店開けたりするから! どうせ店の方には誰も来ないんだから、寝てないとダメだろ! 」


 オレオルはそう言ってロウルを奥に連れていこうとするがたとえ病気に侵され痩せてはいても元は冒険者だった大人の男。


 体の小さなオレオルに大人一人を運べる力はなかった。


「じいちゃん! 」


「儂のことはいい…それよりも今日はあいつらに虐められなかったかの? 」


「………」


 ロウルにそう言われてオレオルは目を逸らした。


「オレオル、儂が死んだら店の建物や土地は全部お前さんにやる…知り合いにも話を通しておくから、それを売って金を作って、旅に出るんじゃ…この国にいてはいかん…最近どうにもきな臭い」


「じいちゃん!死ぬなんて言うな!!」


 オレオルにとってロウルは育ての親で唯一の家族。

 そんなロウルが近くいなくなるかもしれないとは考えたくなかった。

 だからオレオルは"自分が死んだら"などと珍しく弱気な事を言うロウルに怒った。


 そしてロウルにはそう言って怒ったオレオルだったが、オレオルだってロウルがずっとそばにいると思っているわけではない。

 年齢的に将来必ずいなくなるという事もわかっている。

 それでもなお、ロウルがいなくなる事を考えたくないと思ったのは、今ロウルがいなくなるとやっていけなくなるかもしれないと不安に思っているからに他ならなかった。


 今はロウルの冒険者時代のコネがあるから依頼も多い。

 ロウルの養い子という事で街の人も基本的には優しいし、ひとつを除いて困っている事も特に無い。

 月々の稼ぎにもある程度余裕があり、多めに貯金にまわせるほど稼げてもいる。


 でも。


 ロウルがいなくなると途端にオレオルの事を冷たい目で見てくる人がいる。

 オレオルが体質だからなのか、たくさん食べないとお腹がいっぱいにならず食費にすごくお金がかかる。

 ロウルがちょくちょく持ってくる特別な依頼がない場合の月々の稼ぎは正直カツカツで余裕があるとは言えない。

 そんな今の状態ではロウルがいなくなった後、何かあればすぐにやって行けなくなるのは目に見えていた。


 そしてそんな現状をロウルもよくわかっていた。

 じゃあなぜロウルが今になってこんな事を言い出したのか。それにも理由があった。


 ロウルは過去冒険者として旅をしていた頃に、ある人から未来の自分に訪れる運命を聞いた事があったのだ。

 そしてその予言で自分がもう長くないという事を知っていた。


「オレオル、安心せい…儂はまだまだ死ぬつもりはないぞ! あくまでこれは先の話じゃ…どう頑張ってもお前さんより儂の方が早く寿命が来るからその時はそうしろと言うだけの事じゃ」


 ロウルは本当の事が言えない事を心苦しく思いつつもオレオルを安心させるためにそう言った。

 そして続けて話そうとしたが体に痛みが走り、言葉を切って少し苦しそうに息を吐いた。


「痛むの? 」


「少しだけの、だからそんなに不安そうな顔をしなくても大丈夫じゃ…それよりも約束してくれんかの? 」


 オレオルはロウルが優しく笑ってそんな事をいうので、泣きそうになったがそれを少し上を見上げる事でどうにか堪えた。


「…わかった、じいちゃんが居なくなったらこの国出る」


 オレオルがそういうとロウルはほっとしたように眦をゆるませ、すっかり痩せてしまい細くなった手でオレオルの頭をゆっくりと撫でた。


「そうかそうか、よかったわい…世界は広い、人生も長い、広い世界をゆっくりと見て回って自分の生き方を見つけてみるといい」


「……うん」


 オレオルにはこの言葉が死期を悟った者の遺言のように思えて泣きたくないから堪えていた涙がポロリとひとつこぼれ落ちた。


 *


 それから数ヶ月経ったある日。


 オレオルは季節の流行り病を持病と合わせて併発させてしまい寝込んでいるロウルの薬の材料を採取しに森まで来ていた。


 朝からロウルの体調が良くなさそうだったので早めに戻りたくて焦っていたのだが、そんなオレオルに3人の人影が近づく。いじめっ子のイェルク達だ。


 イェルクとは小さな頃は仲がよく、同い年というのもあってよく一緒に遊んでいた。

 だが、以前イェルクの母親ルリナに頼まれて外国から来た有名商家のお嬢様を助けたことがあった。

 するとそれ以降、急によそよそしくなり、ほどなくして話しかけても無視されるようになり、しまいには虐められるようになってしまったのだ。


 当時はなぜ急に虐められるようになったのかわからなかったオレオルだが、少しした頃にルリナがロウルに話しているのが聞こえてしまってその理由を知る事になった。


 イェルクの実家はタリアの街で一番大きな宿屋だ。

 そして、そこに客としてやって来ていたそのお嬢様と宿屋の掃除の手伝いをしていたイェルクが仲良くなり、イェルクはそのお嬢様に惚れたらしい。

 その後、そのお嬢様が体調を崩して寝込んでしまい、慌てたルリナがうちにやってきた。

 当時ロウルに呼ばれてタリアの街に来ていた薬師のドロシーを頼ったからだ。


 街の医者に見てもらった時には原因不明と言われたらしい商家のお嬢様のその病気はドロシーによって原因が判明し、修行の一貫だと言われてオレオルが作った薬ですっかり良くなった。


 しかしそこからが問題だった。


 なんとそのお嬢様が俺に惚れたのだ。

 俺としては将来はじいちゃんの素材屋を継ぐつもりだから、帝国外にあるそのお嬢様の実家に婿入りして商家を一緒に守っていこうという提案には乗れなかった。


 だから断ったのだが、それがイェルクには面白くなかったのだと思う。


 人からの又聞きで悪意あるねじ曲がり方をしていたその噂の方を信じてしまっていたのもあるのだろう。

 だが、それがなくてもイェルクは普段から学校の戦闘系科目でいつまでも成績の振るわない俺を下に見ている傾向にあった。

 だから俺が自分よりも出来ることがあると認めたくなかったのもあったのだろう。


 あの当時から数年が経つが、イェルクはあれからだんだんと同年代のトップという立ち位置から落ちこぼれへと変わっていった。


 つい昨日もいい歳しているのに自立できていないとルリナがじいちゃんに相談していたのを聞いてしまったばっかりだ。


 今では仲良かった頃の面影など欠片もない。

 周りから何かと比べられては自分ばかりが親から怒られるのが気に食わないのだろう。

 何かあるとオレオルの前に現れてはこちらをチビと見下し、やる事なす事全部にイチャモンをつけて来る。

 そして俺のやろうとしている事を邪魔をしたりする事で溜飲を下げる。


 そんなやつに成り下がっていた。


「誰かと思えばチビのオレオルじゃねーか」


 イェルクはニヤニヤとした気持ち悪い顔でゲラゲラと下卑た笑い声をあげた。

 そして、薬草を採取しようとしてしゃがみこんでいたオレオルを突然蹴飛ばした。


「っが、かはっ、ゴッホ、ゴホッ!」


 オレオルは体を丸めて痛みに耐えながら、『なんでここまで関係が最悪になってしまったのだろうか』と思う。

 今はこんな関係だが前は仲が良かったので、ルリナのイェルクへの言動が小さな頃からずっと少々キツめな事も知っている。

 その家庭の教育方針と言われればそこまでかもしれないが、イェルクがグレたくなる気持ちがわからないわけでもない。


 だからといって理不尽に殴られている現状を良しと思ってはいないし、魔力だけはありすぎるほどあるので、結界魔法で防御すれば殴られ続けなくてもいいのかもしれない。

 だが魔力が多すぎる弊害で街の学校では魔法を教えて貰えなかったオレオルは魔力の操作と制御が不安定だった。

 ちょっとした事で簡単に制御出来なくなる。


 結界魔法が暴発した所で爆発する様な事は無い。

 だが、制御ができてないオレオルの結界魔法は勝手にカウンターが発動し、イェルクに重傷を与えてしまいかねなかった。


 運が悪ければ、最悪の場合殺してしまう事になりかねない。


 そうなった場合罪人として捕まるのはオレオルだ。


 だからオレオルはイェルクの暴行に黙って耐えていた。

 黙ってやり過ごしていればひとしきり殴って満足すれば去っていくのでそれを待つのだ。


「てめーがチクったせいで昨日オレは飯抜きにされたんだよっ! 」


 小太りの体を揺らし、自分勝手すぎる言い分でオレオルに八つ当たりするイェルク。

 そのイェルクの腰巾着2人は止めるどころか殴るイェルクを囃し立てる事しかしない。


 だが、それもそのはず。

 なんとイェルクとの仲がギクシャクし始めた時にイェルクに「オレオルがイェルクの好きな人に告白されたらしいが手酷く振った上に、イェルクの悪口を言ってその子に嫌われるように仕組んだらしい」という嘘の噂を吹き込んで仲違いする様に仕向けたのはこいつら2人なのだ。


 わざとなのか知らなかっただけなのかは知らないが、オレオルを悪く言う噂話をわざわざ教えたのはこいつらなので、『全く悪気がなかった』はありえないだろうとオレオルは思っている。


 こいつら2人だけが相手ならオレオルも魔法なんてなくても簡単に勝てるので遠慮せずにやり返して返り討ちにするのだが、この2人はそれがわかっているのでイェルクが一緒にいない時は近寄って来すらしない。


 だからオレオルはイェルクよりも取り巻き2人の方が大嫌いだった。


 そして、オレオルがそんな事をつらつらと考える事で痛みにどうにか耐えていると、それを見下す事で気分が少しスッとしたのかイェルクはしだいに蹴るのをやめた。


 そしてイェルクは先程オレオルがイェルクに蹴られる直前に採取しようとしていた薬草をグリグリと足で念入りに踏み潰した。


「っ! イェルク…なんて事をっ…」


 顔を真っ青にしてそう叫ぶオレオル。


「ギャハハハッ! いい気味だ! 」


「チビ! お前の今日の成果はコレで十分だ! 」


 取り巻きの腰巾着の内の1人が踏み潰されてぐちゃぐちゃになった薬草をブチッと雑に引きちぎると、青い顔で呆然として固まっているオレオルに投げつけた。


 嘘…どうしよう。

 この薬草はこの近くにはここにしか生えていない。

 じいちゃんが死んじゃう。


 嫌だ、嫌だ、嫌だ。


 オレオルは発作で苦しむロウルの薬を作るため、切れていたコルリア草のつぼみを採取しようと大急ぎでここまで来ていたのだ。


 だが、たった今イェルクに踏み潰されたこの薬草は踏まれたことでつぼみが潰れてしまい、もう薬には使えないだろう。


 今日の発作は今までで1番酷かった。

 他の所に行っていては間に合わないかもしれないと思いつつも、それでも諦めたくなくて、まだ時期じゃないためにあるかは賭けだとわかっていたが全速力で走ってここまで来た。


 はやる気持ちをどうにか落ち着けつつ探すと奇跡的に一つだけ薬に使えそうな成長した株があった。

 なかったら薬が作れない所だったから本当に良かったと心の底からほっとしていた。

 そして、そんなタイミングでのイェルク登場だったのだ。


「アハハハハッ!! こいつ泣いてやがるぜ! 」


 イェルクがそう言って嗤った。


「チビがボク達に楯突くからだ! 」


「そうだそうだ! 」


 イェルクと同じで事態の深刻さを欠片も知らない取り巻き2人。そいつらも当然の様にイェルクに乗っかるとオレオルを惨めだと見下して嗤った。


「…るさない」


 3人の時には体格差で敵わないからと反論していなかったオレオルの堪忍袋の緒が切れた。


「お前達クズ3人! 絶対許さねえ!! 」


 怒りでタガが外れたオレオルは魔力を体外へと放出させる。そして暴行によって痛む身体に鞭打ってそう叫んだ。


「この薬草は今の時期まだ取れるものは少ないんだ!! お前達の考え無しの行動のせいでここにはもう取れるものは無くなった! 今日のじいちゃんの体調じゃもう1つの場所まで行ってる余裕はきっとない!! それに仮に時間があったとしても、まだ時期には少し早いからそこに薬になるまで育ってるコルリア草があるとは限らないんだ!! 」


 涙をボロボロ流しながらオレオルは怒りのままに相手3人を罵る。


「じいちゃんがこれで死んだらお前らのせいだ!! この人殺し!!! 」


 オレオルは最後にそう叫ぶと、もう1箇所の場所を目指し、怒りで暴走している魔力に任せてものすごい速さで走り出した。


「な、なんだよ…急にわけわかんねえやつだな」


「そ、そうだよな! チビのくせに…」


「必死になって…だっせぇ奴」


 オレオルの尋常ではない様子に今さらになって自分達はとんでもない事をしてしまったんじゃないかと思い始めた3人は内心で少し焦りつつもそれを素直に認めるわけもなくそう話す。


「ま、街に帰ろうぜ」

「そ、そうだな」

「は、はい」



 *



 オレオルが大急ぎで向かった街から少し離れた遠くにあるもう1箇所のコルリア草の群生地。

 そこでオレオルは必死につぼみのついたコルリア草を探した。

 だが収穫できるまでつぼみが育ちきっているものはなく、薬に使える薬草を見つける事は出来なかった。


「くっそ、じいちゃんが…じいちゃんが…ない、ない、ない、なんでだよっ!! 」


 諦めて大急ぎで踏み潰されたコルリア草を持って帰って何とか薬を調合してみるオレオル。


 だが、踏み潰された時につぼみの中の薬効成分のほとんどを失っている様で出来た薬は極わずかだった。


 本来であれば、これっぽっちしかない材料では到底この流行病の薬は作れない。

 だが、オレオルは薬作りに関してはタリアの街1番どころか帝国…いや、この大陸1番の腕を持っていた。


 それはオレオルの特殊すぎる血筋からくる固有の力による所が大きい。

 オレオルがこれをそうであれと強く念じ、そして同時にこれはそうなれると心の底から信じる。


 それさえ出来れば、その辺の薬草であったとしてもなんでも治る万能薬の材料のひとつである霊草になる。


 本人はその力はおろか、自分の薬師としての腕がとっくに師匠であるドロシーを超えた大陸一だとドロシー本人に思われている事など知らない。誰かに指摘されないと思いつくことすらしないだろう。


 オレオルには薬師として自信を持って薬を売れる程度にはその能力に自覚はある。

 だが、いつも大袈裟に感謝する患者達を見ても「大袈裟だな…」と言ってのん気に笑って否定するだけだ。本気で言っているとは思っていないのだ。

 そして患者達もオレオルのその言動と裏でのロウルの口止めもあって他では話さない。なのでオレオルの薬師の腕はびっくりするくらい広まってはいない。


 ドロシーが大陸一の薬師だとオレオルに伝えなかったロウル。

 ロウルの店の裏手に転移で連れてこられ、スパルタすぎる指導をしたドロシー。

 鈍感すぎるオレオル。

 そのどれが原因かは不明だが、オレオルは自分の実力の客観的な評価に関しては欠片もできていなかった。


 こうして、本来作れるはずのなかった薬は無事完成し、それを荒い呼吸を繰り返すロウルにのませてあげようとした。

 だが、元々ロウルはオレオルが2箇所目の群生地には寄れないと思うくらい悪く、今生きているのがそもそも奇跡だった。

 そんな状態ですんなりその薬が飲めるはずもなく、咳き込んでしまいなかなか飲む事ができない。


 それでも何とかそれをあげるとロウルは意識を取り戻した。


「じいちゃんっ!! 」


「オレオル…前にした…約束…」


 ロウルが死の間際のような態度でそう言ってくるのでオレオルは必死に涙をこらえる。


「じいちゃん、何言ってんだよ! 俺が薬作って絶対治すから! 」


 そう言うオレオルを見てロウルはやせ細った手でオレオルの手を弱々しく握る。


「さっき…ぉ………ル…………が…こに…来た…じゃ…」


 ル?

 ルリナさんかな?

 ルリナさんは俺にはまぁ…良くしてくれる。

 息子のいじめのお詫びもあるのだろうが、俺としては正直放っといて欲しいと思う事も少なくはない。

 ルリナが俺を贔屓するのをやめればイェルクのいじめも多少はマシになるだろうからだ。


 即効性の薬が効いてきたのか徐々に呼吸が落ち着いてきたじいちゃん。


 その視線の先を見ると、ベッドサイドに椅子が2つ出ていた。薬草探しに出る時にはなかったはずなので、どうやら俺がいない間に来ていた客は2人だった様だ。


 誰だ? 1人がルリナさんならもう1人はイェルクか?


「じいちゃん、俺が留守の間に来たのって2人だった? 」


「あぁ…2人、じゃ………様子が…おか…しいので…問い、詰めたら…またお前を…………た………らし…と……………言って…おった…」


 ロウルは今日森で何があったのかを、先程2人から聞いた話だけでなく、いつもより遅い帰り時間や、潰れたコルリア草から泣きながら薬を何とか抽出しようとしていたオレオルの様子からも悟っていた。

 そして予言されていた日は今日なのだと言う事も同時に悟っており、覚悟を決めていた。


 オレオルの作った薬は本来ならありえない事にきちんと効いており、ロウルの症状を癒しつつあったが、オレオルも知らない別の要因でロウルは死に近づいていたのでもう助からない。


「じいちゃん、ごめんなさい…俺、俺が弱いからあいつらに…負け…せっかくあっだのに゛…最後のひどづだっだのに゛っ」


 ごめんなさいとひたすら繰り返して泣きながら謝るオレオル。


「いいんじゃよ…オレオル、立派になった、の…」


 ロウル自身がこれだけは言うと決めていた言葉。

 それをどうにかいつもの変わらない調子で言うとオレオルの方に腕を伸ばそうとした。

 だがどうしても腕が動かない。

 本当は最期にもう一度だけ頭を撫でてやりたかったロウルだったが、腕が上がらない事を悔しく思いつつ眠気に勝てずに眠りについた。


 イェルク達に嫌な事をされる度に『人の痛みのわかる大人になれ』『何があっても自分がされて嫌だと思う事は他人にしてはいかん』そう言って慰めてくれた。

 時には厳しく怒る事もあったが、レオルはロウルが大好きだった。


 そんなロウルがそれから目覚めることは無く、程なくして永遠の眠りについた。



 *



 ロウルの葬式と役人からの事情聴取が終わり、家の片付けを進めていたオレオルが息抜きがてらにあの日から1週間ぶりにコルリア草の群生地に足を運ぶと開花寸前で色付いたコルリア草のつぼみ達が憎らしいくらいに迎えてくれた。


 あと1週間病気の併発が遅ければ…あの時俺がつぼみをダメにされてなかったら…じいちゃんは…。


 実はロウルの直接的な死因は流行り病でも持病の悪化でもないのだが、その事をオレオルは知らない。

 だからそう思わずには居られなかった。


 目の前の1株を丁寧に根ごと採取するとオレオルはそのコルリア草を見つめて決意する。


「じいちゃんとの最後の約束通り旅に出よう…この国から出るんだ! 」


 オレオルは袖口で涙を拭うと悲しい事から目をそらすように前を向いて歩き出した。



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 お読み下さりありがとうございます!


 ゴルゴン帝国、首都の名前は帝都ゾーラです。

 これ書いた時に食べたかったんです。

 ゴルゴンゾーラチーズ…

 なお、主人公は帝都に行く事はしばらくないという…


 しかもわざわざこんなこと言っといてあれですが、主人公がいる町と今目指している街の名前以外の街の名前は覚える必要はたぶん無いです←

 そういう世界なんだなー、くらいにお考えください。


 なんで誤字脱字って推敲する度に湧いてくるんだろう…撲滅できる方法誰か知りませんかね(泣)


 2023/11/03

 この話の前にあった話を無くし、

 この話自体にも、かなりの過筆修正いたしました!

 以降の話との違和感は徐々に修正していきます!

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