生産チートな異世界転生者の末裔がチートな壺《錬金釜》を拾って謎の男を助けたら、それがとんでもないチート野郎で、ただの旅のはずが気づけば過去と今を行ったり来たりしながら世界救う旅になってた話
秋桜
1 ゴルゴン帝国→ザリニア王国
新1話 少女と孤児院
ここは、とあるゲーム好きな神が、
"異世界のVRMMO"を元にして作った──
魔素…魔力…魔法…魔術…聖獣…精霊…魔獣…魔物…
それら全てが存在するファンタジー世界。
その世界のとある大陸にある、とある国の貧民街。
この物語はここから始まる。
この日、その貧民街に2人の旅人がある目的のために訪れていた。
2人組のうち1人はとても整った顔をしている大人の男で、もう1人は10歳くらいの子どもの様に見える。
しかしこの子ども、実はすでに成人している。
数年前から姿が変わらないため、"知り合いからしか大人扱いされない"という結構切実な悩みを抱えている。
だが、本人はそれ以外は普通だと思っていた。
そんなその子の名前はオレオル。
短く切り揃えられた明るい茶髪に大きな緑色の瞳、そして背中に背負った可愛らしいデザインのリュックが印象的な可愛らしい姿をしている。
「ねぇ、クロいた? 」
「自分で探せと言いたいところだがまぁいいか…こっちもまだ視てねえ」
何かを探している様子の2人。
今会話の中でクロと言って呼ばれた大人の男。
このクロはオレオルが旅にでてすぐの頃に偶然助け、以来共に旅をしている旅仲間だ。
そしてこのクロ、街を歩けば誰もが1度は見るだろうという程に顔の整った男だ。
オレオルもクロに見劣りしないほどには可愛らしい顔立ちをしてはいるが、何せまだ幼い様に見える上、クロから感じる強者のオーラが凄まじいために周囲の人々の目はクロに集中していた。
そして、そんな2人だが、それぞれが違った分野で世界で見ても右に出る者がいないほどの実力者でスペシャリストだった。
『痛いっ! 離して! 』
「あ! クロ、あっちの路地裏から声が聞こえた…」
オレオルは見た目こそ人族の子どもと変わらないが、実は人族ではありえないほどに耳がいい。
そんなオレオルが細い曲がり道の方を指してそう言う。
「そうか、じゃあ…行くぞ。目的の人物かもしれねぇしな」
「うん」
2人が急いでその場に向かうと1人の少女が大の大人3人がかりで大きな麻袋に詰め込まれようとしていた。
「クロ…あの3人の内の1番左の男、1番気持ち悪い感情してる…たぶんあいつがあの中じゃあ1番厄介だと思う」
人の心の内の感情を感じる事ができるオレオルが小声でクロにそう伝えた。
「……お前の言ったその男は視たとこ一番のゲス野郎だな…過去の犯罪履歴は真っ黒だ」
「そうなんだ…お前のその『過去を視る目』、本当反則みたいに便利だよな…俺もそっちが良かった」
「バカ言ってんじゃねぇ、本来なら今回の様な場合は俺の目よりお前の──って、話は後だなほら、さっさと止めてこい」
「はいはい」
オレオルは旅先であったとある人物に習った方法でこっそり忍び寄ると、その男達に聖属性の【眠り】の魔法をかけた。
そして、それによって眠った男達が万一起きても逃げられない様に縄で拘束した。
「大丈夫だった? 怪我は無い? 」
オレオルがその拘束を終える頃には、自力で麻袋から抜け出して、ポカンとこちらを見ていた少女。
「え、う、うん…」
「とりあえずこの男達をこの街の兵士さんに突き出したいんだけど、君場所わかる? 」
「……こっち、そこの大通りに出てまっすぐ」
「ありがとう、被害者の証言も必要だと思うから着いて来てもらう事ってできる? 」
「うん」
オレオル達と少女はこうしてこの街の衛兵の詰所へと歩き出した。
「お兄ちゃんたちどうして私みたいな孤児を助けてくれたの? 」
「そこの黒い服の人は違うけど、俺はちょうど君くらいの頃に今の君みたいに孤児だったんだ…」
俺がそういうとクロが『お前街で孤児見ても助けた事ねえだろ』とジト目で見てきている気がしたが俺は無視する事にした。
この子に怪しまれるからその目やめろよな!
確かに俺は孤児の子どもが目の前で絡まれてても、我が身可愛さに助けなかったことの方が多いいけどさ!
今言ってる事に嘘はないだろ!? 嘘は!
「……お兄ちゃんも親なしだったの? 」
「親無し…」
誰かに言われたんだろうなぁ…
俺もそうだった。
5歳で母さんがなくなって、その数ヶ月後に運良く優しい人に引き取って貰えたけど、それまで俺は貧民街をさまよっていた。
俺の育った街には孤児院がなかったからだ。
そして、引き取られてからもその事でいろいろ言ってくる奴はいた。
「……君くらいの頃、俺の母さんがなくなってからはそう言われた事が俺もあるよ…君も? 」
「うん、平民街の子達がよくそう言っていじめてくるの…」
「そっか…」
こうしてオレオルと少女が話していると詰所らしき建物が見えてきた。
「おい、雛鳥とそこの小娘…おしゃべりはそれくらいにしとけ、着いたようだぞ」
「あ、ほんとだね…行こっか! 」
「……うん」
*
あれから、衛兵に男3人を引渡し、事情聴取やらなんやらをいろいろやっていると気づくと2時間以上もの時間が経っていた。
これでも手続き自体はクロの少々特別な身分証のおかげでだいぶ短縮された。
だが、事情聴取の際にオレオルとクロがそれぞれ特殊なスキルを持っている事がバレたため、逆に協力を要請されてしまったのでそのせいで時間がかかってしまったのだ。
「やっと終わったー! 」
「あの衛兵にやたら引き止められたせいでな…」
クロが『これだから人間の街はめんどくせえ』とでも言いたそうな顔でげんなりしている。
「あの様子は、ほかの件でも力借りたかったんだろうね…」
「あぁ…俺も一件二件なら視てやらん事もなかったんだかな…この街に収監されてる罪人全員の現在の罪状との照らし合わせなんぞ誰がやるか」
めんどくせえ、とクロは言った。
薄情と思うかもしれないがクロがここまで言うことはかなり珍しく、手続きを担当してくれた衛兵にはクロなりに同情しているのだろう。
「俺達ここにそんなに長くいれないしね…──って、ごめんな、放置しちゃって」
オレオルはそばにいた少女を見て謝った。
なぜならこの少女は俺達が協力要請を受けていろいろと衛兵達と話している間、ずっと別室で待っててくれたのだ。
「ううん…大丈夫…です…」
「さっきみたいな話し方でいいよ? 」
手続きの過程で初めてオレオルが見た目通りの子どもでは無い事を知った少女。
少女から感じる感情的にどうやらとても失礼な事をしてしまったと思っているようだった。
「私…あいつらにさらわれそうになるの、これが初めてじゃなくて…これまでも何度かさらわれそうな所を、お兄ちゃん達みたいな旅の人が助けてくれたの…でもいつもすぐ出てくるから…今回もどうせそうだろうって」
「だから、孤児院のみんなにまで被害が行く前に自分が捕まればいいと思った、でしょ…? 」
オレオルがそう言うと少女がびくりと震えた。
「………もしかしてお兄ちゃん達…私の──気づいた? 」
「うん…わざとじゃないんだけど…ごめんね。誰にも言わないから安心して欲しい…信じるのは無理かもしれないけど、本当に誰にも言わないから」
オレオルは自分だったら信じられないだろうと思ったのだ。
その時は話さないと思ってても我が身可愛さに情報を売るやつがいる事を知ってたからだ。
「ううん、信じる…お兄ちゃんはあいつらとは違うと思うから」
少女はそう言って会ってから初めて笑った。
その笑顔を見て、自分が彼女の立場だったらできていないだろうと思ったので純粋に羨ましいなと思った。
オレオルはなまじ人の心を感じ取れてしまうためにこれまで嫌なところも見てきており、純粋な心で他人を信じる事が難しかったからだ。
「ありがとう、信じてくれて…それじゃあ、だいぶ遅くなったからきっと君を心配しているだろうし孤児院まで帰ろうか! 案内してくれる? 」
「うん、こっち! 」
少女はそう言って衛兵の詰所背にして左手の方を指した。
*
「そうだ、もうあいつらは誰1人出て来れないから安心してね…」
オレオルは孤児院への道中、ふと、まだこの子に言ってないことに気づいてそういった。
「……ほんと? 」
「本当、本当…あいつらとグルだった衛兵も牢の中だから」
オレオルがそういうと隣を歩く少女が瞳を輝かせた。
「ほ、ほんと!? あ、ありがとうっ!…お兄ちゃん達すごい人達だったんだ!………ぁ…でも私…孤児だから渡せるものがなくて…」
最初は嬉しそうにお礼を言っていたが徐々に声が小さくなっていく少女。
「気持ちは俺も凄くわかるけど、本当に心配しなくていいんだよ? 俺はこの街の孤児院に用があっただけだったから…」
「そういえばお兄ちゃん達の用事って何? 」
「あぁ、大したことじゃないんだ…ただ少し前にちょっと多めにお金を稼いだからせっかくだし寄付しようと思って…」
「寄付!? じゃあ今日はお肉が食べられる!? 」
「お肉好きなの? 」
「うん! 」
「じゃあ、寄り道して買っていこっか! 」
「いいの!? 」
「うん、みんなが食べられるようにたくさん買っていこう! 」
「わーい! 私安いお店知ってる! 案内したげるね! 」
途端に元気になった少女はそう言って俺の手を掴むとかけだした。
「来る前に余計な事すんなって言ったのは意味なかったな…」
クロは食い意地の張ったオレオルに思わず息をひとつはいた。
*
大量のコッコ肉を入れたリュックを背負ったオレオルと少女、そしてその後ろについて来ているクロの3人は孤児院へと到着した。
この孤児院はとても古い建物のようで何ヶ所も修復したような形跡がある。
「マリー! 」
少女の姿を見てシスターが慌てて駆け寄ってきた。
「シスターアンリ! 」
「連絡は衛兵の詰所から来ていましたから、無事なのはわかっていましたが…マリー、怪我は? 大丈夫ですか? 」
……そういえば俺は名前を知ってたから聞いてなかった。
オレオルはシスターが少女の名前を呼んでいるのを聞いて思った。
そう、この子の名前はマリー。
今いるこの時間よりも先の未来で、とある国の王妃となっている人だ。
「ねぇ、クロ…お前さっきから静かだけどどうかした? 」
「別になんもねえ、今回は戦闘するようなことはねえからな…俺の出番がなくて暇なだけだ」
「……………ひ、暇だからって、誰かをおちょくってみたりするのはやめろよ? 」
過去に何度か『クロの暇つぶし』の被害を蒙って困らされたり、からかわれたり、笑われたりしていたオレオルがクロが変な事をしだす前に釘をさした。
「安心しろ、ここいにいるやつらになにかするくらいならお前になにかした方が返ってくる反応が面白いから何もしねえ」
……それ、俺にはなにかするって事か?
オレオルはクロの言動にたまらずため息をついた。
そしてクロに向けてもう一度止めるための言葉を言っておこうと口を開けかけた時、少女に事情を聞き終えたシスターがこちらにやってきた。
「旅のお方…マリーを助けていただいたにも関わらず、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません…私はアンリ、この孤児院でシスターとして子ども達の世話をしています」
濃い茶色の髪をしたシスターが丁寧な挨拶とともに頭を下げた。
「この度はマリーをお助けいただいて本当にありがとうございました…」
「頭を上げてください。俺達はただ、通りがかっただけですから! 」
超探し回って助けたのでめちゃくちゃ嘘だが、この場合は嘘も方便というやつだ。
「それと、俺達今日ここには寄付をしに来たんです…お金だと差し障りがあるかなと思ったので品物でとなるのですがもしよければ中で話をさせていただけませんか? 」
オレオルがそういうとシスターは感激したように口元に手を当てた。
「まぁ! マリーを助けていただいただけでなく寄付まで! お恥ずかしい限りですが、この孤児院では子どもの数の割に国からの援助が少なく日々の暮らしはいつもギリギリですのでとても助かりますわ…」
シスターはそう言って孤児院の中へと案内してくれた。
*
中へはいると、外観の割にとても清潔感と温かみのある室内で、日頃からとても大事にされている事がよくわかった。
そして、なにかの部屋の部屋だろう大きな扉に手をかけたところで1人の少年がこちらに駆けてきた。
「シスター!! 聞いてよ! さっきドットがまたオレに、
「あらあら…ちゃんと浄化してあげましたか? 」
魔物は倒されると魔素の塊でしかないため何も残さず消滅する。
ある程度以上大きな魔物なら魔石を落とす事もあるが、そこらの虫が元となった魔物程度なら子どもが手で潰すだけで消えるだろう。
「もちろん! そんな事よりもシスターあいつを──ってマリー!? 遅かったじゃ…ってどうしたんだよその服の汚れ!! まさかまたあいつ絡まれたのか!? 」
「うん…でも、このお兄ちゃん達が助けてくれたの」
「ん? お兄ちゃん達? 」
「レック、お客様がいらしたので院長先生を呼んできてくれますか? 」
「わかった! 」
シスターのお願いに元気に返事をしたその男の子は走り去ってあっという間に見えなくなった。
「慌ただしくてごめんなさいね…」
「いえ、急に訪ねたのは俺達ですから」
その後部屋へ通されて少し、その部屋へ初老のシスターが入ってきた。
「旅のお方初めまして、この孤児院で院長をしております…メネリアと申します」
「初めまして、オレオルです…隣は旅の仲間で付き添いみたいなものですので気になさらないでください」
「オレオル様とおっしゃるのですね…この度はマリーを助けていただいた上に、あの3人を牢から二度と出れなくしてくださったとか…本当に、本当にありがとうございます」
「いえいえ、先程のシスターさんにも言いましたが、俺達からすれば大した手間はかかってませんのでお気になさらないでください… 」
「いえ、それでもお礼を言わせてくださいな…あいつらには本当悩まされておりましたので、知らせを受けた時は驚きもしましたが安心もしたのです」
「そうだったんですね…どうやらあいつらは衛兵の1人とグルだった上に、過去にあの子──マリーを助けた冒険者とまでグルだったようですので…」
正直、孤児院のシスターには手の余る相手だっただろう。
「な、なんということでしょうか…まさかあの方々までもがやつらの仲間だったのですか!? 」
「はい、マリーには過去に助けてくれた冒険者達までグルだった事は言ってませんが事実です」
「………では私達はお礼を渡した事でお金を騙し取られていたのですね…」
「それもやつらの目的だったのでしょう、今ごろおそらく衛兵の詰所の牢屋の中でしょうけど…」
クロが本気の【探知】の魔術で居場所を突き止めた上に、その後すぐに確保へ向かったようだから逃げられなかっただろう。
「そうですか…何から何までありがとうございます…」
「いえいえ、実は今回のこの件は全てとある方から受けた恩のお返しですから…」
「恩返し? 」
「はい、実は──」
*
「木を植えても大丈夫だという庭はこの場所ですか? 」
「はい、この場所であれば子ども達にイタズラされることもないと思います」
そういう事なら早速やるか…
オレオルは背中に背負っていたリュックをおろし、そこから袋をひとつ取り出した。
実はオレオルのリュックと今出した袋は両方マジックバックと呼ばれるアイテムだ。
マジックバックとは、内部に組み込まれた空間属性の魔術によって、見た目の容量以上に中身のはいる特別な鞄で、その中でもオレオルの持つリュックは特別性能がいいものだった。
なぜなら、普通、マジックバックは中にさらにマジックバックを入れる事はおろか、生きているものを入れる事も出来ないからだ。
オレオルはそんなリュックから、あらゆる薬に使われる基礎素材である[ライフウッドの葉]が取れる元の木である[ライフウッドの苗木]を数本植えた。
「ねぇ、クロ…」
オレオルはこれから作る予定の薬にライフウッドの葉を使いたかったので、クロを見た。
今すぐに採取できるような大きさまでクロに成長促進させて欲しかったのだ。
「おまえがやれ、なんのためにこの俺がわざわざ直々に魔法と魔術を教えてやってると思ってんだ」
実はこのクロ、魔素とそれによって生み出される魔力の扱いが、思わず『ありえない』と言いたくなるほどに上手く、周囲の友人全員から『魔法と魔術の天才』と言われているほどの人物だった。
クロを嫌っている人ですら、『最強の魔法術師は? 』と聞かれて、全員が全員、即答でクロの名を出すのだから相当である。
また、この世界において魔法とは『火をつける』や『水を出す』などの『単一の行動を魔力によって生み出す事』を指す。
そして、魔術とはそんな『魔法をいくつも組み合わせひとつの現象を起こす事』を指している。
具体的にどんなものを指すかというと、この世界において【ファイヤボール】は『火を飛ばす』という単一の行動なので小さなものなら"魔法扱い"。
だが、巨大な【ファイヤボール】だと"魔術扱い"になる。
それは、巨大な火を維持するために風属性で補助したり、術者が自身の生み出した火から身を守るために防御系の魔法を同時に使う必要が出てくるからだ。
この場合、『大きな火を飛ばす』『それを風で補助する』『火から身を守る』この3つの魔法を組み合わせていることになるので魔術として分類される。
「なあ、クロ頼むよ…クロの方が安心だから…」
「チッ…帰ったらみっちり修行のやり直しだからな」
「え」
「えじゃねえ、当たり前だろうが」
「はぁい…」
オレオルは少しゲンナリしたが、自分もクロが木を成長させるのに合わせて、そのうちの1本にとあることをしたかったので、意識をきりかえた。
「樹木属性魔術【霊樹の息吹】」
相変わらずオレオルには何をどうしているのかすら理解の追いつかない高度な魔術をさらりと涼しい顔で使ったクロ。
そんなクロの魔術に合わせて、オレオルも自身の力である【改変】を使って木の効果を少し強化する方向で【改変】した。
「まぁ、一つだけすごく美しい木になりましたね…」
苗木だった時は緑色の普通の葉だったのに、今はクロの魔術とオレオルの【改変】による力で金色の葉をわさわさと揺らす立派な霊樹へと変貌していた。
「あの…その木を【鑑定】させていただいてもよろしいですか? 」
「はい、大丈夫ですよ」
院長であるシスターが尋ねてきたのでオレオルは快く快諾した。
「っ! こ、これはっ!? [ライズウッドの霊木]!? 」
「この木のことは、この木が認めた者にしか見ることはできません…ですので、良からぬ者に目をつけられる事も無いでしょう」
俺がそうなるように【改変】したからな。
「な、何から何まで…大切にさせていただきます…」
「この木から取れる葉等から作れる薬のレシピをお渡ししておきますので、薬師の資格を持っているという、もうお一人のシスターさんに渡しておいてください…」
「ありがとうございます…! 」
院長のシスターネメリアがそう言って感動の涙を流した。
「院長シスター泣いてるの…? 」
少し離れた所から気になって様子を見ていたマリーが近くにやってきた。
「ぁ…綺麗な木…」
やはり、マリーはこの木に認められたようだ。
すぐに木の姿が見えたマリーの様子にそう思う。
「お兄ちゃん達がやってくれたの? 」
「うん、この木は薬の材料になるから、もう1人のシスター…アンリさんにこれで薬を作ってもらって売ってもらえばきっとこれからはギリギリに切り詰めて生活しなくてもやって行けるよ」
「毎日お肉、食べられる? 」
「食べれる、食べれる」
「わー! 嬉しい! お兄ちゃん達ありがとう!! 」
どうやらこの頃のマリーはまだ薬の材料になる木よりもそれによって生み出されるお肉の方が嬉しい様子だ。
「じゃあ、今度はさっき買ってきたお肉を使ってみんなのご飯作ろうか! 」
「うん! 」
*
その後、オレオルはコッコ肉を使って孤児院に元々あった食材なども少し使用し、スープを作った。
子ども達は久しぶりのたくさんの肉に大喜びしてくれて、結果、子ども達にせがまれて今晩はこの孤児院でお世話になる事となった。
片付けを終え、寝るだけになった後、あてがわれた部屋でクロと一緒にいるとドアが叩かれて誰かが尋ねてきた。
「どうぞ」
オレオルが返事をして入ってきたのはマリーだった。
「どうしたの? 」
「ひとつ聞きたい事があって…」
マリーはそう言うと、言いにくそうにした後にオレオルをじっと見た。
「なんでここまでしてくれたのかなって…」
うーん…まあ、だよなぁ。
明らかに普通の孤児院にやることの域は出てるしな。
「クロ、いい? 」
「……こいつなら大丈夫だろうから好きにしろ」
「ありがとう」
クロからの許可も降りたのでオレオルは全てとは行かないにしてもある程度は話すことにした。
「マリー、俺達はね、未来から来たんだ…君に恩返しをするために」
「未来…? 」
「うん、君はね…未来で俺達を助けてくれたから、そのお礼に今度は俺が君を助けに来たんだよ」
「未来の私…? 」
「そう」
「わかった! じゃあ今度お兄ちゃん達と会う頃までに私たくさんいろいろ勉強して、お兄ちゃん達を助けられるくらい立派になっておく! 」
「そっか! 楽しみにしてるね…って言いたいところなんだけど、次こっちに来た時に会う俺達はまだマリーの事知らないと思うからいろいろ聞かれると思うけど…」
「いいよ! 私もさっきご飯の時にお兄ちゃん達にいっぱいいろいろ聞いたのにお兄ちゃん達全部答えてくれたから! 」
「そっか! ありがとう…俺に怪しまれた時は今日の話してくれていいからね」
俺、それくらいないと信じないし。
「わかった! 」
*
翌日、オレオルは孤児院を後にする前に子ども達に記念となる物をプレゼントする事にしたので、腕につけているブレスレットに話しかけた。
「錬金釜、壺に戻ってくれる? 」
オレオルがそう言うと嬉しそうな感情とともにブレスレットが不思議な見た目をした綺麗な壺へと姿を変えた。
「何かほしいものある? 材料があるか次第だけど、1人1つプレゼントするよ! 」
子ども達が嬉しそうな顔をした後に揃って「ブルーフェニックス様の置物が欲しい」と言った。
なんでも今、平民街の子ども達の間で聖獣様の出てくる物語が流行っているらしく、数日前にそこの子どもの1人にその物語に出てくる聖獣様の人形を自慢された挙句、持ってないと言ったらバカにされたらしい。
「自慢されたのは人形なのに、置物でいいの? 」
オレオルがそう聞くと子ども達の中のリーダーなのだろう昨日ドアの前であったレックが前に出た。
「人形だと、あいつに見つかった時に取られちゃうかもしれないだろ…だから、みんなで話し合って、みんなの分のお願いをひとつにしてあいつらが奪えない大きさの置物にしてもらおうってなったんだ! 」
「そっか…わかった! 」
オレオルはリュックから1つ大きな丸太を1つ取り出した。
大きめの置物作れる素材って言うとこれしかないけど…まぁ、強度は【改変】すればいいし問題ないよな。
オレオルはそう言って取り出した丸太を【鑑定】した。
───────────
[古代魔香木エルファマナの丸太]
状態:良好
香りがよく、魔素との相性がとてもいい木。
精霊達からとても愛されている。
───────────
「錬金釜、この丸太が入れられるくらいの大きさの口に変えてくれる? 」
オレオルがそう言うと錬金釜が大きくなってオレオルの背よりも大きくなった。
「おぉー!! 」
「でけー! 」
「おっきくなった…」
「すごい大きな木ー! 」
オレオルは【身体強化】の魔法を使って丸太を持ち上げると自身の魔力と一緒にツボの中に突っ込んだ。
目はどうしょうかな…
実際のブルーフェニックスの目が金色だったから、似た色の魔石にしよう。
「えーっと…あ、あった! これが近いかな! 」
オレオルはリュックから魔石入れ用の袋型マジックバックを取り出すとそこから金色のクズ魔石を取り出した。
「錬金釜、今から入れるこのクズ魔石が置物の目な!
合成して2つ同じ大きさのものを作ってくれ」
オレオルがそう言うと錬金釜から〔わかったー! 〕という様な感情が伝わってきた。
よし、やるぞ!
オレオルは出来上がりの姿を想像しながら錬金釜の中の物へと【改変】をしていく。
「うわー! まぶしー! 」
「光ってるー! 」
「ピカピカ! 」
「まっしろー! 」
子ども達の興奮する声が聞こえてくる。
少しするとツボから光が収まり、その中に大きくて美しいブルーフェニックスの置物が鎮座していた。
オレオルはそれを錬金釜の中から取り出すとその場に置いた。
「おおぉぉぉ! 」
「フェニックス様だー! 」
「本で見た絵よりもかっこいい!! 」
「あいつらの人形よりも強そう! 」
「きれい! 」
オレオルは喜ぶ子ども達に最後のお願いをする事にした。
「みんなにこのフェニックス様像の仕上げを手伝って欲しいんだ」
「手伝い!? 」
「やる!! 」
「オレも! 」
「私も! 」
「ボクもー! 」
「みんないい? このフェニックス様像はね、この孤児院の守り神様になってくれるように作ったんだ…だから、みんなでこの像がみんなを守ってくれる様にお祈りしようか! 」
「「「「「「はーい! 」」」」」」
こうして最後に子ども達の願いと同時に更なる【改変】をしたオレオル。
文字通りの守護神を生み出した後、惜しまれつつも孤児院を後にした。
そして後々この出来事はこの孤児院で代々語り継がれ、時と共に少しずつ変化していく事になる。
──とある2人の神々が神の木と守護神像をさずけてくださった話へと。
*
「目的はあらかた終わったな、現在に帰るぞ」
孤児院を後にした途端クロがそう言った。
「あの…クロさ、帰る前に聞きたいんだけど、今回のクロ的にどうだった? 」
「俺からすればまあまあだ」
まあまあかぁ…
「だが、まあ…出会った当初、ちょっと悪人に声をかけられたくらいで怯えて俺にすがってた事と比べたらマシにはなったんだろうな…」
「すがっ!? ……ってなくは無いけど…そんな言い方する事ないだろ!? ほんとクロお前そういう素直じゃない所よくないと思う! せっかく褒められても素直に感謝出来ない原因、だいたいお前だからな!? それに、悪いやつの感情ってほんとに気持ち悪いんだからな! お前にはわからないかもしれないけど! 」
「あー…はいはい、わかったからそうピーピー鳴くな…雛鳥みたいだぞ」
「あ! お前その顔『めんどくさいスイッチ踏んだな…』とか思ってんだろ!? 」
「もうわかったから帰るぞ…」
「あ、ちょ、まだ──」
クロはこうなったオレオルの説教が長い事はわかっていたので、サクッと【時渡り】の魔術を発動させて元の時間へと姿を消した。
こうして、オレオルのいくつもある救済の内の1つが終わった。
だが、終わりとは始まりでもある。
オレオル達にとってこれは終わりの物語だが、同時に孤児の少女マリーにとっては始まりでもあるからだ。
──これはそんな偶然という名の必然から始まる2人の旅の物語。
2人が数々の苦難を乗り越える為に過去と現在を行き来し、未来を変える。
そんな、2人の成長の物語である。
^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─
お読みくださりありがとうございます!
以下、長めのあとがき失礼いたします… (興味無いよという方は飛ばしてください! )
この1話は、2023/11/08に1から新しく書き直し、内容を一新したものとなります
(当初この孤児院の話はもっと先でやる予定でした)
そのため、(かなり前に今以上に探り探り書いた)
次からの2話以降と比べると読んでいて矛盾や違和感を感じたりする部分があるかもしれません
(先の先まで展開を決めてから書いてるので矛盾はないと思いたいですがたまにびっくりする文を過去話で書いてたりするので大丈夫な自信はあんまりないです)
1話と説明が重複している等もあるかもしれません
今現在も随時修正はしていますが、特に重要な伏線がある回から優先で確認をしているのと、修正作業は1話だけで丸1日以上潰れることもざらだったりで、時間が足りない為に、まだまだ終わっていません…
ですので、私の力不足でご不便をおかけし大変心苦しいのですが
もし変な話がありましたら
「あぁ、この話は修正追いついてなくて、前に書いてた時のものがまだ残ってるんだな」とご認識いただいて、生暖かい目で見ていただいたけると嬉しいです…
そしてもしよろしければ、その部分を『その話のコメント欄』か、近況ノートにある『私のX』までご連絡くださると、私としましてはとても嬉しいです…
また、詳しい修正内容や修正したタイミングなどもX(旧:Twitter)にてお知らせしておりますので、詳しく知りたい方はぜひそちらも見に来てくれると嬉しいです
お知らせは以上になります!
長文失礼しました
(初見の方は特に1話から長々申し訳ありません)
少しでもおもしろいと思ってくださった方、2話以降からが、(オレオルが旅に出る所からとなり)本番ですので、ぜひ続けてお読みくださると嬉しいです!
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