第3話 遺品整理と遺言書


 コルリア草の群生地から帰ったオレオルはロウルがいなくなって1人になった家で遺品整理をしていた。

 素材屋はたたむ事になるので残っている商品も倉庫の中の素材も何もかも全てが整理の対象だ。

 貴重な物は生前ロウルから貰っていたマジックバックの中に片っ端から突っ込んで持っていくことにするが、そこまで珍しくない消耗品達はある程度を残し、多すぎる分は全て売る事にした。


「ん、なにこれ…本? あの文字嫌いで活字アレルギーだって豪語してたじいちゃんが? 」


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[古びた???のレシピ本]

 状態:良好

 はるか昔から存在するいにしえのレシピ本。

 魔力をおびており、所有者が所有する財産のうち1度以上手に取り【鑑定】した事のあるものを使う???で作れるもののレシピが記載される。

 ───────────


 倉庫の素材保管棚の奥にあった古ぼけた一冊の本が気になり中を見てみる。


「真っさら?レシピ本なのに?」


 不思議に思いつつパラパラとページをめくっていると文字が書かれているページを見つける。


『ワラナデシ+綺麗な湧水+???=???』

『草侵虫+???+???=???』

『花侵甲虫+???+聖水=???』

『コルリアの実+???+???=???』

『フェニックスの風切羽+???+???+???=???』


 本当に俺が手にしたことがある物だけ書かれてる…。


 馴染みのないものもよくよく確認してみるとロウルの遺品整理中に手に取ったものばかりだった。


「なんのレシピ集なんだろう…」


 不思議に思いつつさらにパラパラめくっていくと一つだけ完成しているレシピを見つける。


『魔石(小)+魔石(小)+魔石(小)=魔石(中)』


「え? なにこれ…こんな事できんの? もし出来たらぼろ儲けし放題じゃん」


 詳しい手順を読んでいくとどうやら何か特別な道具が必要らしい事がわかった。


 この壺みたいなやつ…どっかで聞いた事があるような…なんだっけ。うーん。

 思い出せないなら今はとりあえずいいや。

 どっちにしろ持ってないしな。


 やっぱ世の中うまい話なんてそうそうないよなぁ…


 オレオルはガッカリした気持ちで古ぼけたレシピ集をマジックバックに突っ込み遺品整理を再開した。



 それからも素材屋だった事もありいろいろなレア素材や聞いたことも見たことも無い石やアイテムがいくつも出てきた。

 とりあえず片っ端から【鑑定】で分類しつつマジックバックに突っこんでいく。


「うっわ…大っきい魔石…」


 俺の頭くらいあるんだけど…。


 石素材用の箱の中から、丁寧に布でくるまれ箱に入れられた深い紫色の魔石が出てきた。


 じいちゃんこんなのまで持ってたんだ。若い時旅してたとは言ってたけど。こんなの持ってるなんてびっくり…。


「オレオル君いるかしら?」


 店舗だったスペースからルリナの声が聞こえてくる。

 オレオルはその声を聞いて持っていた巨大な魔石を元通り箱に戻し、旅に持っていく物用のマジックバックにあわてて詰めこむと、店舗スペースの方へ向かった。


 こんなの持ってるって知られたら何が起こるかわかったもんじゃないからな。隠しとかないと…。


「ル、ルリナさん…こんにちは」


 オレオルの髪よりも色の濃い暗い茶髪に青い目の美人な女性である、イェルクの母親。

 この人はじいちゃんの店の常連さんだった事もありそこそこ話す間柄ではあったが俺がルリナさんと話すとその翌日機嫌の悪いイェルクに決まって酷い目に合わされていたからここ最近はあえて避けていた。

 正直あんまり話したくはなかったので気乗りはしないオレオルだったが、訪ねて来てしまった事には避けようもないので店舗スペースの奥の部屋に通してお茶を出した。


「オレオル君、今回の事は本当にごめんなさい…今日はうちの子がやった事の賠償について話に来たの」


 ルリナさんはそういうと再び本当にごめんなさいと言って深々と頭を下げた。


「亡くなった命の償いがこの程度でできるとは思っていないけれど受け取ってくれないかしら」


 そう言ってお金の入った大きめの皮袋を渡してきた。


「イェルクには街の衛兵に自首させたわ」


 そういうルリナさんの目の下には隈が濃く、心做しかやつれているように見える。


「それと、生前ロウルさんからこの手紙を預かっていたの…葬式が終わったら渡して欲しいと言われていたから渡すわね」


「正直、こんな形で渡すことになるとは思っていなかったけれど」


 そう言ってルリナが手渡してきたのはロウルの遺言書だった。


「じいちゃん…」


 オレオルは震える手でその手紙を受け取ると「ありがとうございます」とお礼を伝えた。



 *



 あれからすぐ、ルリナが帰った後にロウルの遺言書を開けたオレオルは中身を読んだ。


 ───人生で初めてまともに文字を書いておるが、この手紙を読んでいる頃には儂は天の神のみもとにいる事じゃろう。この歳になってこれまでやってこなかった手紙を書くという事を今さらする事になるとは思っておらなんだ。自分でもびっくりしておる。

 だがそんならしくない事をしたのもお前さんに目に見える形で感謝を伝え遺しておきたかったからじゃ。

 ミナに先立たれて死を待つだけだった儂が最後の12年をこんなにも楽しく過ごせたのはお前のおかげじゃ。 ありがとう。

 怖がりなお前を1人のこしていくのは心配じゃが、儂の人生に悔いはない。だから残ってるもんは全部オレオル、お前にやる。儂も若い時にはミナと2人で世界を旅してまわったもんじゃ。雷氷夫婦なんて言われて冒険者ギルドの大陸版貢献度ランキング1位になったこともあったんじゃ。すごいじゃろ。──


「うぇ!? ランキング1位!? うそぉ!?」


 冒険者ギルドの貢献度ランキングの集計範囲はこの国どころか周辺国々なども全て含めた全域で行われている。その中でも大陸版貢献度ランキングは周辺国どころかオレオルが聞いたこともないくらい遠くにある国も含めた文字通り大陸全土の冒険者が対象なのだ。そしてその大陸版貢献度ランキングは最上位ランクの冒険者達が複数の街のギルドマスターに推薦されて初めて参加できるようになるランキングで、上位ともなれば国の英雄クラスがゴロゴロしているのだ。


 オレオルはロウルがそんなにすごい冒険者だったとは知らなかったのでびっくりした。そして予想外の内容に逸る気持ちをどうにかおさえてゆっくりと丁寧にじいちゃんの最初で最後の手紙の続きを読み進めた。


 ──だからオレオルも広い世界に出て、やりたい事を探すといいじゃろう。儂らからいろいろ教わったお前ならきっとどこであってもやって行けるじゃろうから心配せんでもきっと大丈夫じゃ。

 この街を出て最初に向かうのは国境が1番近い北西の方角がいいじゃろう。

 近頃のこの国は何やらきな臭いからくれぐれも帝国に残ってはならんぞ。

 北に2つ国境を越えた先にある大国グラミリア王国には儂の友人もまだいるじゃろうからティミラの街に行く事があれば冒険者ギルドにいるグランという剣士の元を訪ねてみるといい。儂の後輩冒険者だった男じゃ。何かあれば存分に頼るといい。儂の活字アレルギーはあやつも知っとるだろうから使えるかは正直わからんが念の為に儂からあやつへの手紙も同封しておくからの。


 いつかお前が天命を全うし、神のみもとに来た時。天上の酒片手に楽しい土産話が聞けることを楽しみにしておるぞ…     ロウル───



 じいちゃん…


 わかったよ。

 旅の土産話をたくさんできるように俺なりに頑張ってみる。

 戦うのは怖いし、俺弱いから…。じいちゃんみたいに冒険者で成功したりはできないだろうけど、逃げ足には自信があるから!

 いろんな場所を見てまわってくるよ。


 心の中で手紙への返事をしたオレオルの頬に一筋の涙がつたう。

 それを服の袖で拭うと、遺品整理を再開した。



 ^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─

 お読みくださりありがとうございます!


 イェルクとその取り巻き達へのざまぁな話はオレオルが帝国に行くまでお預けです(かなり先)


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