第407話 サンジェルマン、現代へ戻る⑤
幸田広之、織田信孝、犬神霊時、肉山298、小塚原刑子、竹原たち6人は永福の鬼墓邸を出ると2台のタクシーで中野にあるダイニングバーへ入店した。
ベストセラーを連発する人気の時代・歴史小説作家が税金対策で経営しており文壇バー的な側面もある。儲けより趣味優先で、いわゆる歴メシやミリ飯などの企画も好評だ。
昨晩、ろくな物を食べてない犬神はいつもより多めに頼んだ。この店の名物であるスペアリブとバッファローウイング。さらに、キャベツのミルフィーユグラタン、サルサ風フレンチフライ、テキサス風フレンチフライなどを注文。
フレンチフライは密かな人気メニューだ。サルサ風はチーズがちらされ、サルサソースやワカモレソースが付いている。テキサス風はチリビーンズやカリカリベーコンがたっぷりのってるヘビーな仕様で、両方ともキャノーラ油に牛脂が加えられ風味抜群だ。
この店は味優先なので値段は相応にする。凝った内装もあってか、客層は相応に良い。この日もまだ早い時間だが店内は半分ほど埋まっていた。犬神は店有数の太客なので奥のボックスシートへ陣取っている。
「流石は左衛門と犬神じゃな。それにしても、あやつらは何者であるか」
信孝はギネスビールの生を飲みつつ上機嫌だ。
「何者なのかは分かりません。およその見当としては宗教、国家、国籍、民族など関係なく共通の目的や利害で繋がった一党でしょう。我らとは違う形で何かしているのは間違いなきところ。ただ、サンジェルマンのお陰でロックフェラー家の好意を得ているからには、敵対しない限り、滅多なことしないはず」
さらに、熱いミルフィーユグラタンを食べながら聞いていた広之が話し始めた。
「上様、ともあれこたび、あの者たちから授かった書物は宝の山でございます。大坂や日本各地、北京、ロンドン、パリなどが何年の何日は雨であったとか記されている他、人口の予測もされており、なかなか優れたる内容」
「人が増えるということは誠に大事なのじゃな」
「さようでございます。このまま日本人や日本語話者の数を増やさなければなりませぬ。そのためには寒冷地や痩せた土地でも育つ作物を広めつつ、飢饉や疫病など出来る限り避けるのが肝要」
「幸田君、真面目に凄いよな。これまで日本の古記録をまとめた天候のデータはあったけど、それらを超えている。また世界各地のもあるのだから、ほぼ兵器に等しい。さらに、世界各地で人口が増えたり、減った場合の影響も予測されている。それによれば、アフリカは極力現地勢力を間接的に支配し、資源を確保することが推奨されており、人口増加には否定的だ。人口、宗教、軍事、経済含めて、模提供された資料の通りでほぼ正解な気はする」
「アフリカについては少し再考する必要ありですね。奴隷による流出無ければ人口は今より増えます。主要な勢力と取引関係を維持しつつ、内部で絶えず争ってもらい、食糧も供給不足が望ましいと推奨されてますけど、その方向へシフトした方がいいでしょうね。やはり差別とかでなく文明の段階が欧亜に比べ立ち遅れています。無理やり、枠組みへ入れるのではなく、部族を超えた国家体制がある程度自然に築かれるよう後押ししましょう」
「幸田さん、私も賛成です。まずは鉄器製造出来るくらいに進み、村からクニとなり、大きな王権が出来て時間を掛けてある程度の段階へ達するよう促すべきでしょうね」
竹原はギネスビールのグラスを置くと静かに語った。
「心得た。左衛門よ、犬神や竹原の知恵を借り、存分にいたせ。それはともかくじゃ、今宵の馳走もなかなかであるな。この葉牡丹(キャベツのこと)や骨付き肉は実に美味。黒麦酒が進む」
「上様、この骨付き肉はスペアリブと申しまして、このバルサミコ酢を少し掛けたあと、タバスコ数滴垂らせば極上の味わい。お試し下され」
「どれ……。ほぉ、肉山の申す通りじゃ。酢でくどさが抑えられ、ほんの少し辛味が加わり、一層美味であるな。小塚原も食べてみよ」
「こんな肉だらけにポテトフライとか食べたら太っちゃうわよ」
「でも刑子姫、拙者たちはこれから名誉アメリカ人でござるよ。懐具合もたんまりだし、何ならパスポート無しでアメリカへ入国出来てしまいますぞ」
「肉ちゃんと行きませんからね。1人で行くし」
「殺生でござる」
「これ肉山、小姓の分際で。小塚原は儂の腰元じゃ」
こうして宴は続くのであった。
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