第382話 神と進化論?
迎賓館では中庭で流鏑馬、公家たちによる蹴鞠、相撲、居合抜きなどが披露。居合術である神明夢想流(林崎夢想流)の開祖林崎重信(甚助)による抜刀は招待客たちの喝采を浴びた。
余談だが神明夢想流の系譜には水鴎流などの名も上がる。ただし、子連れ狼の拝一刀で有名な水鴎流の方は名称こそ同じだが創作であり、関係無いという。
さて、庭の片隅で幸田広之はフランシス・ベーコンと話していた。傍らにはサンジェルマンも居る。広之はベーコンに日本へ残るなら十分な便宜を図ると伝えた。
「少し考えさせて下さい。しかし、既に日本の歴史書、文学、法、哲学(史実では、この時代に存在しない概念を含む)、天文、算術、医学の他、仏教、東洋哲学のイングランド訳が存在するとは驚きました。かような話をお聞きした以上、興味が尽きません。ところで、先程の神についての話ですが、個人的にもう少しお聞きかせ願えませんか。イエズス会の方には色々申し上げましたが、私自身神との向き合い方や信仰は如何にあるべきか、悩まないといったら嘘になります」
「欧州のキリスト教に関する絵画に出てくるイエスや天使は欧州の民と同じ姿形だと聞いております。天使はともかくイエスはマタイによる福音書2章1-23節、ヘロデ王の代、ベツレヘムで生まれたと記されてるわけですが、欧州の民と同じ姿形とは思えません。しかし、欧州の民が描くイエスは青い瞳や金髪の場合もある上、当然の如く肌も白いと聞いてます。まるでギリシャ神話ゼウスの彫像みたいな造詣だ、と。少なくともビザンツ(東ローマ帝国。西暦395~1453年)時代ならば、イエスがゴルゴダの丘で磔にあってから、それ程でもない。なのに、すっかり自分たちと同じ姿形へ変換してしまった。それは、理論より願望と都合によるところでしょう。貴方がた欧州の民に限った話ではありません。日本人が崇める釈迦は今のインドで生まれました。しかし、東アジアで描かれる釈迦はインドの民とは似ても似つかない。残念ながらそういうものなのでしょう。古今東西、高貴な人物は白く描かれる傾向のようです」
ベーコンは真剣な眼差しで広之のいう事へ耳を傾けている。あまり深く考えた事が無かった。しかし、冷静に考えれば、やはりイエスが青い瞳で金髪の可能性は薄いといわざるをえない。
「確かに仰られるとおりか、と思います」
「これもいい難いことですが、人は神と自分たちは同じような見た目であって欲しい。しかし、そもそも人はいつから人であったのか……。動物を分類してみましょう。例えば鯨にはエラが無く、肺がある。潮を吹きますが、あの穴は恐らく鼻でしょう。つまり、息を吐いてる。ならば、魚よりは陸の動物に近いのかも知れない。我々はどうでしょう。二足歩行出来る動物は限られてます。猿と鳥くらいのものだ。ならば人と最も近いのは猿といえましょう。普通に考えれば似ているだけで、両者は関係ない。しかし、人と猿の骨格はあまりにも似ている。その上、人のお尻の辺りには妙な突起があります。これは、かつて尻尾であった可能性も考えられるでしょう」
「猿から人になったということでしょうか」
「比較した場合、可能性はあると思います。例えば鳥の骨を見ても、羽の先には僅かながら指のような突起が5本あって、かつては手だったのかも知れません。現在でも飛べない鳥は居ます。地上で羽が出来た後、一部はさらに発達した羽により飛んだ、と考えられます。ちなみに羽があっても空を飛べず、海を泳ぐ動物も存在するそうですね。何れにしろ人と猿の骨格を比較すれば、鶏(ニワトリ)と鳩くらいの差しかありません。人が最初から鉄を加工したり、船を作ることなど出来ないはず。昔は石の刃物を使ってたのでしょう。火との出会いもあった。神に教えられたわけでもなく偶然と生活の中から長い年月を経て、現在に至ってるように思えます。以上は神が自分の姿に似せて人を作ってないかも知れないという疑問の一端です……」
「総裁閣下、果たして神とは必要なのでしょうか」
「それは私にも分かりません。少なくとも観察や理論はどうあれ、神に対する信仰を否定するつもりはないです」
「かなり大胆かつ進んだ考えかたですが、それを聞いて安心いたしました」
「さて、私は晩餐の仕度がどの程度進んでいるか見てきます。また改めてお話いたしましょう」
去っていく広之を放心状態で見つめるベーコンであった。
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