第370話 丹羽長秀と徳川家康
徳川家康と後任である直江兼続、将軍織田信孝の甥織田忠之(信之の弟)、幸田孝之、さらに蒲生氏郷、毛利輝元、小早川隆景、堀秀政、黒田孝高(如水)、蜂須賀家政、稲葉重通、戸田勝隆、神子田正治、真田信繁などは勢揃いし、丹羽長秀一行を出迎えた。
長秀たちが、瀋陽を後にして3年近い月日となっている。今では女直部隊、蒙古部隊、漢人部隊なども編成されており、日本人武装開拓民などがいた。
さらに交代するため派遣されてきた幕府軍5万名や欧州へ向かうための3万名など18万以上という大規模なものだ。これらの大軍が出迎えたのである
これには同行していた欧州、トルコ、ペルシャ、インド・ムガル朝、チベットなどの随行員は驚愕するほかなかった。歩兵の大半は銃を所持しており、夥しい軍馬や無数の大砲など、見た事のない規模だ。
その上、日本の内地は海に囲まれ、途方もない軍船や勇猛な兵で溢れているという。まさに難攻不落。各国の者たちは改めて尋常でない軍事力を見せつけられた。
その領域と勢力は既に全盛期のイスパニアやポルトガルを凌駕しているのは明らかである。しかも、日本の政府は特殊な形態で、武力を有さない皇帝(天皇)の臣下たる将軍が支配するという。
ローマ教皇と各国の王や諸侯との関係を彷彿とする。だが、将軍が国家そのものを支配するというのはなじみない。普通ならば、自身が皇帝になってもよさそうなものだ。
なおかつ、将軍は軍人でありながら法に乗っ取た、統治を行ない、繁栄しているという。しかも、日本の皇帝は2千年前に初代が即位。
現在第107代目であり、血統は男系によって継承され、武力が無くとも君臨しているらしい。そのような話は西方の国々から随行している者たちにとって信じ難く、理解の範疇を超えていた。
長秀たちが不在の間、瀋陽も見違えるようになっている。人口は流動的な兵士や一時滞在者を除いても10万人超えていた。行き交う人の多さもそうだが、欧州の大都市でも見られないような活気に満ちている。
主要な街路は煉瓦で舗装され、運河網も整備されていた。瓦屋根の建物が建ち並び、中には西洋風の建築物もある。和洋中が混ざり合い、国際都市の風格だ。
「これは五郎左殿、よくぞご無事で。欧州の次第は当地でも鳴り響いておりますぞ」
「これは駿府殿(徳川家康)。瀋陽も見違えるほど立派になっておりますな」
「まだまだでござろう。それより、暑いなか遠路さぞかしお疲れの事。湯崗子温泉に来賓共々お泊り出来るよう整えております」
「それはかたじけない」
こうして、羽柴秀吉、前田利家、前田利益(慶次)、最上義光、森長可、滝川一忠を始め、各国からの使節なども湯崗子温泉へ向かった。
「五郎左殿、夢にまで見た湯崗子温泉ですな」
「又左よ(前田利家)、日本では先の天子様がお隠れになったとの事じゃ。ゆえに大阪では派手な振る舞いが出来ぬ。せめてもの労いとして、瀋陽で疲れを癒やせということであろう」
「それは有り難き、お心遣い」
「そなたは、日本に戻れば5万石。大名へ返り咲きじゃ。既に大坂では“まつ”殿が前田家の屋敷を拝領し、住んでいると聞く。帰り次第、かつて前田家へ仕えていた者や新参など召し抱えなければならぬぞ」
「新参については羽柴家の家臣から身内などを分けて貰う算段はつけております。かつての重臣などは織田家直参となったり、他家へ仕えているため、帰参を無理強いは出来ませぬ」
利家が柴田勝家の与力として能登を治めていた時、奥村永福、村井長頼、青山吉次のような尾張時代からの家臣以外に、長連龍のごとき能登の国人出身者が仕えていた。
しかし、柴田勝家による反乱の際、利家はその主力であり、織田信雄を自決させた張本人だ。そのため、所領没収の上、羽柴家への預かり身分となり、事実上利家の前田家は取り潰された。結果、前田利益(慶次)の方が前田家の本家扱いになっている。
奥村永福、村井長頼、青山吉次の3人は一旦丹羽家預かりの後、利益の重臣となっていた。長連龍は長秀の重臣だ。つまり、利家は長秀に丹羽家や利益の前田家へ流れた旧臣の引き抜きはしないとやんわり仄めかした。
長秀たちは湯崗子温泉で1週間ほど湯治を楽しんだ。その間、長秀は訪れた幸田孝之と未来の知識を踏まえ、今後の方針など確認した。
そして、瀋陽へ戻り、帰国の準備に取り掛かる。幕府への総括的な報告書や建白書の作成、日本へ行く異国人の人別や手形など、思いのほか業務が山ほどあった。
それらを処理しつつ、残り少ない大陸での生活が名残り惜しく感じる。また、これから起きるであろう大地震が心配な長秀であった。
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