第367話 南方出征武将たちの帰還

 西暦1596年7月(天正23年6月)。南方へ出征していた武将の艦隊が続々と大坂へ帰還した。


 ゴアを陥落させるなどしてインド南部を転戦していた長尾一勝(織田家家老)と竹中重門(竹中半兵衛の家督相続者)。


 小島兵部(織田家家老)、生駒善長(五徳の従兄弟)、水野勝成たちはマラッカを陥落後、アチェへ侵攻し、服属させた。さらに、ミャンマーへ侵攻するとナンダ・バイン王は降伏。


 シャムを侵攻した件の首謀者として、ナンダ・バイン王と一族は全財産を没収。服1枚のまま裸足で終身島流しの刑に処された。こうしてタウングー王朝は滅亡したのである。


 高山重友(右近)、中川清秀、細川忠興、島津義久たちは呂宋へ侵攻し、マニラやセブを陥落させ、各地を制圧。イスパニア人の大半は島流しのような刑罰ではないが、最低限の農具だけ与えられ島々へ分散の上、移住させられた。大半は島民から襲われ既に死んでいる。


 ともあれ、アジア各地で活躍した武将たちは台湾や琉球を経由し、無事に日本へ帰還する事が出来た。小島兵部、長尾一勝、高山重友(右近)、中川清秀、細川忠興、島津義久などは所領が九州にある。


 そのため、足軽の大半を所領へ向かわせ、本人や主に上位の者だけ大坂まで来た。春先に正親町上皇が崩御しているため、派手な行事は控えられたが、大坂城で織田信孝や幸田広之から十分労われたのである。 


 さらに恩賞の目録が授与された。基本、所領の加増は無く、石高に応じた金貨と融資などであり、それは出征前から告げられていた。これに対して織田家直参の家臣は金で俸禄が加増されたりしている。


 意味するところは明確で、土地による知行というのは過去のものになりつつあった。今回、出征した大名家の足軽や小者へも幕府から恩賞が給付されている。


 それとは別に大名が功績の大きな家臣へ加増する場合、土地ではなく金や銀を用いる他ない。これは、石高制の終焉が近い事を意味していた。


 帰還した武将の面々は色々と多忙であったが一段落ついたある日、高山重友、中川清秀、細川忠興、池田恒興の4人が幸田家に集まっていた。 


「いやいや、皆達者で何よりじゃ」


「勝三郎(恒興)殿の顔を見るまでは三途の川は渡れませぬからな」


「瀬兵衛(清秀)殿は呂宋でたいそうな武勲を挙げられたそうじゃな。流石は山崎で中川ありと謳われただけの事はある」


「それほどの事はござらぬ。イスパニア人なんぞ、我らを見て白くなっておりましたわい」


「いや、各方がご無事で戻られ安堵いたしました。さあ、馳走を遠慮なくお召し上がりくだされ」


 揚げたての天ぷらが次々と並べられる。鯵、鯖、太刀魚、白鱚、蛤、鱧、茄子、ズッキーニ、パプリカなどだ。それぞれ、塩や天つゆなどで美味しそうに食べては酒を飲み干す。


 天ぷら以外にも酢蛸、鱧落とし、豆腐田楽など、様々な料理が並び、賑やかだ。


「マニラでも天ぷらは食しましたが日本で、この時期に頂く、鱧や白鱚は格別な味わい」


 重友が感想を述べる。以前は熱心なキリスト教徒であっが、棄教はせずとも、距離をとっていた。呂宋に行き、イスパニア人によって現地人がどれだけ過酷な扱いを受けているか、まざまざと見て、我が道を行く決意を固めたのである。


 つまり宣教師など無視して、個人的に祈りを捧げるという選択だ。ポルトガル人やイスパニア人が少ない労力で異民族を支配するためキリスト教を広めた側面は十分理解した。


 ただ、神の存在やイエス・キリストを否定するまでには至ってない。帰国した重友へイエズス会士は面会を求めてきたが追い返している。


「左衛門殿、それがしの不在時、父が色々と世話になったそうですな」


「与一郎(忠興)殿、幽斎殿にはこちらこそ力を貸して頂いております」


「於福も久しく見ないうち、立派な佇まいで驚き申した」


 少し離れた卓で福(春日局)が忠興へ軽く会釈する。


「於福も我が娘として、家のために励んでおります」


 忠興が福について言及したのは、噂を聞いたからだ。ここ数年存在感を強め、五徳の右腕として活躍しているという話であった。子供時代から福を知っている妻の玉(ガラシャ)や父藤孝より、色々と聞いていたので気になっていたのだ。


 この後も、清秀の武勇伝などを皆で茶化しつつ、時間は過ぎていった。



◆東南アジアの幕府担当者

バンコク  小西行長(南海府長官)

カンボジア 大野治長

呂宋    明石全登

昭南    浅井長時(尾張浅井家)

シャンバラ 小島正勝(小島兵部の甥※架空の人物)

インド   織田長次(信孝の弟)

※シャンバラは旧ミャンマー


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