第365話 将軍信孝、2度目の現代へ④

 織田信孝は中野のダイニングバーをすっかり気にいってしまい、ギネスビールの虜となった。結局、閉店まで飲み、上機嫌で帰宅。


 そして翌日、午前9時頃に目を覚ます。飲む前にタチオンやオルチニン、飲酒後はミラグレーンを服用していたので、それほど悪酔いしていない。このへんはラウンジでバイト経験のある小塚原刑子が詳しく、色々教えている。


 信孝はタブレットで新聞の電子版やテレビのモーニングショーを見ていた。新聞については漢字の種類と使い方、意味、文法など色々違うので読みにくい。


 しかし、元の時代で持ち込まれた現代の新聞・雑誌・書籍を散々読んでいる。それも14年近くであり、現代の日本語へお手上げという事はない。


 LINEグループの確認も怠りなく、フリック入力もマスターしていた。いくつかのカタカナ語も使いこなす。もはや英数字も問題ない。


 信孝は肉山298に教えてもらった通り、スマホを使い、デリバリー注文した。まもなくしてインターホンがなり、急ぎ応答する。


「手前館っす」 


「うむ大儀である」


 玄関にて受け取り、感動する信孝であった。まさに初めてのお使い状態だ。少し、照れくさそうである。今回、独力で注文したのはマクドナルドの朝マックであった。


 アイスコーヒーのサイズアップやナゲットソース選択もそつなくこなしている。ただ、ハッピーがよくわからず押してしまったのは次回への課題であろう。


「上様、お目覚めでございましたか」


「左衛門よ、儂ひとりで手前館を呼んだぞ」


「流石は上様」


「テレビを見よ、異国で一揆が起きておるぞ」


 幸田広之がテレビ画面を見ると、海外ニュースで某国のデモを報じていた。催涙弾が撃ち込まれ、騎馬警官が暴徒と化したデモ隊を制圧している。


 信孝がチャンネルを変えると、不祥事を起こした政治家が映し出された。闇献金問題を追及されているらしい。


「左衛門よ、秘書が……といっておるが」


「秘書は小姓のようなものでございます」


「誠に小姓の所業であるのか」  


「恐らくは、この者による指図でございましょう」


「何と卑劣な事よ」


 しばらくして犬神霊時も起きてきた。


「起きてきたか。犬神よ本日は如何いたすのじゃ」


「はっ、アメリカよりロックフェラー家の使者が参ります。夕刻に会ってその後は羊を食べに行きたいと……」


「左衛門より聞いておるぞ。実に美味らしいのぉ。これは楽しみじゃ」


 しばらくして、3人で浅草へ出掛けると洋食の店へ入った。信孝は特上ビーフカツカレーを注文。他にも白身魚のピカタ、夏牡蠣のフライ、ロールキャベツなどが並ぶ。その後は買い物を楽しみ犬神のタワマンへ戻った。


 そして夕方、待ち合わせ先のホテルオークラへ3人で向かう。ロビーで秘書が待っていた。明らかに私服の警官と思わしき人物も居る。そのまま1泊数百万円といわれるインペリアルスイートルームへ案内された。


 待っていたのはロックフェラー家の女性だ。挨拶もそこそこにサンジェルマンことマイケル・ロックフェラーの髪や映像を収めたデジカメを差し出す。数百年前の大坂やサンジェルマンが鮮明に映し出されている。


「Mr.イヌガミ、送って頂いた動画を調べましたが疑わしい点はありません。そしてマイケルと名乗る人物についても調べた結果本人の確率が高いと報告を受けました。またマイケルが語っている内容もこれまで家の外へ一切漏れてない内容など、多数含まれております」


 さらに明後日(月曜日)、犬神のタワマンへ行く事やサンジェルマンへ見せるロックフェラー家当主のメッセージ動画を用意している事など告げられ対面は短時間で終わった。ホテルを出た犬神は珍しく神妙な顔つきである。


「幸田君、部屋の片隅に居た日本人の紳士が誰だか分かったかい」


「気品のある感じでしたよね。どことなく浮世離れしているというか……。大学の教授とかですか」


「皇籍離脱した旧宮家の現当主だよ」


「随分、話が上まで行っちゃいましたね」


「まあ、こうなれば身を任せるしかないな」


 こうして、3人はタクシーで新宿へ向かうのであった。




 





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