第364話 将軍信孝、2度目の現代へ③

 織田信孝は楽しみにしていた暑い時期の現代であり、喜んではいる。しかし、ひとつ気になっている事があった。髪や骨で鑑定が出来るという話だ。 


 信孝が焼け落ちた本能寺へ駆けつけたのは変事の翌々日である。焦げた臭いが一面に漂っており、焼けてない遺体も沢山転がっていた。無論、その中に信長と思わしき人物は見当たらず。


 問題は本能寺の敷地内にあった信長の屋敷である。無残に焼け落ちており、焦げた材木や無数の瓦などが折り重なっていた。文字通り、瓦礫の山だ。


 大量の瓦礫を撤去するだけでも膨大な量となる。現代において30坪の木造2階建て家屋を解体する場合、木材だけで4tトラック3~4台分が相場。


 仮に300坪あれば、瓦と合わせて100tは超える。焼け落ちたとしても、4tトラック数十台分であろう。消防車や消火栓も無く、明智軍は焼け落ちるまで何時間も待っている程暇なはずもなかろう。


 火が収まった後も煙が立ち込め、瓦礫も熱いため、迅速に撤去作業出来るはずもなく、放置されたままだった。信長を屠る事が最大の目標である以上、必ず首を必要とするとは限らないであろう。


 明智光秀にすれば信長親子を襲い、疑いようなく敗死させたという既成事実が最も重要だ。そもそも、晒し首にして光秀が称賛を浴びたとも思えない。


 また、足利義輝が三好に討たれた際、首を討ち取る前、火の手が回ったという記録もある(『続応仁後記』『足利季世記』)。その後、瓦礫の山から義輝の首を探し当て、晒し首にしたという記録はない。


 大坂夏の陣で秀頼と淀殿は山里丸にある蔵で自害し、炎上。この時も秀頼の首が特定されて晒し首にされたという話はなく、何故信長の首だけ特別視されるのか意味不明だ。


 首があるにこしたことはない。しかし、無いからといって光秀痛恨のミスといえるか大いに疑問である。ともあれ、信孝は父信長の亡き骸を特定し、十分弔う事が出来なかったのだ。そんな事もあり、DNA鑑定に複雑な思いが去来するのであった。


 さて、牛タン専門店を出た織田信孝、幸田広之、犬神霊時、肉山298たちは中野にあるダイニングバーへ向かう。そこで竹原元教授と小塚原刑子も合流した。


 竹原と小塚原は先に来店し、フィッシュ&チップスとカスレ(豆と肉などを煮込んだフランス料理)でギネスを飲んでおり、テンションが高い。


「ヤッホー、上様元気ぃ?」


「……」


「刑子ちゃん、昔は会話も色々回りくどいから。現代みたいに単刀直入な語彙が少ないんだよ」


 横から竹原がたしなめる。


「まあ良い。儂も黒麦酒を頂こう」


 ギネスで喉を潤わす信孝であった。


「犬神さん、電話の件ですが本当なんですか」 


「竹ちゃん、向こうの方に見かけない客居るだろ?」


「えっ、まさか……」 


「電話も盗聴されてたはずだ。俺たちも尾行されている」


「それってヤバすぎて笑えちゃうんだけど」


「流石、刑子ちゃん。竹ちゃんも心配する事ないよ。かえって当局のお墨付きみたいな状態になれば、今後活動しやすくなるだろ。来る途中、何とかロックフェラーさんからメールあって、上様と幸田君が帰る時、立ち会いたいっていってきてる。自家用機で午前中に出発するそうだ」


「話のスケールが現実離れしてますね」


「うまくすれば竹ちゃんも表舞台に返り咲けるかもな」


「えっ、犬神さん本当ですか?」


「私もロックフェラー家の御曹司に見初められたらどうしよう」


「刑子姫、その時は拙者も執事としてついて行くでござる」


「298ちゃんは上様の小姓だから駄目よ」


「然様、そなたは織田家の肉奉行であろう。役目を疎かにしてはならぬぞ。場合によっては切腹じゃ」


 こうして23時頃まで飲んだ信孝たちであった。





 

  

 

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