第363話 将軍信孝、2度目の現代へ②

 犬神霊時は決断した後のスピードが異常に早い。歌舞伎町の純喫茶から大学の先輩である海洋平和財団会長の甥へ電話し、直接ロックフェラー家当主へコンタクトしたいと告げた。


 当然、理由を問われ、マイケル・ロックフェラーの件で確実かつ重要な情報があり、どうしても直接伝えたいと説得に成功したのである。しかし、当主は高齢のため窓口として娘を紹介された。


 アメリカ東部時間の深夜に繋いでもらいメールを送った。それにはマイケルのビデオレター、直筆の手紙、幸田広之が現れたり消える瞬間の映像、西暦1596年の静画と動画なども添付している。


 当然、無視されたままで返信は無かった。流石に無理がある。笹山ルートで失敗となれば、ロックフェラー家へ別の手段を行使して、アプローチせねばならない。


 純喫茶で知り合いのマスコミ、財界人、政治家などへ連絡しまくり、手を尽くした。かつての祖父大吉、または鬼墓亜衣子や笹丸一族との繋がりなどを背景にしての事だ。しかし、焦燥に駆られる犬神の知らぬところで、事態は大きく動き始めた。


 寝る寸前であったロックフェラー家当主は手紙やビデオレターを見て驚嘆したのである。年上の従兄弟であるマイケル・ロックフェラーが失踪したのは半世紀以上も前の学生時代だ(自身が)。


 子供時代からの思い出や、失踪当時の事を鮮明に記憶している。娘から話を聞き、悪質極まりないイタズラだと思った。だが、付き合いのある笹山一族からの紹介とあり、嫌々目を通したのだ。


 現在、40歳だという自称マイケルを見た瞬間、直感で本人であろう事を確信した。話し方や仕草、さらに話す内容も自分たちしか知り得ない内容だ。


 しかも、ビデオレターのマイケルはクレジットカードを持っており、間違いなく本人が所持していた番号である。暗証番号も口にしていた。


 当主は直ちに髪を回収し、鑑定する事、広之が現れたり消える動画がトリックか専門家に調べさせる事、そして犬神と広之について徹底調査するよう命じ、眠ったのだ。


 そして、数時間後には犬神や広之の元へロックフェラー家の代理人を名乗るアメリカ人が現れ、サンジェルマンの髪を持っていった。


 既に内閣情報調査室や警察も動いており、犬神と広之の身辺調査が行われていたのだ。また、それを犬神も人脈からもたらされる情報により察知した。犬神にすれば望むところである。


 犬神の方は最近数々の骨董品や金を闇ルートで換金している事が突き止められた。また、広之に至っては捜査機関が重要資料を極秘所持していたのだ。


 広之が約14年前、岸和田市久米田寺付近のコンビニへ車を置いたまま失踪した件についてである。警察は目撃者不明としてきた。


 しかし、失踪時刻に偶然駐車場で停まっていた警察の覆面車両のドライブレコーダーが一部始終を収めていたのだ。無論、直ちに捜査関係者に箝口するよう伝えられ、お蔵入りとなった。


 失踪当時、犬神が人脈を駆使し、捜査当局へ探りを入れたのはいうまでもない。その結果、何らかの箝口令が出ている事は直ぐに突き止めたものの内容までは掴めなかった。そのため、犬神はそのへんの反社レベルではなく、某教団や某国の関与など、真剣に疑ったのだ。


 米国防総省は全領域異常解決局(AARO)という未確認飛行物体や未確認異常現象についての専門部署を設けている。犬神もその組織に関する記事を月刊シャンバラで特集した。よもや消失する瞬間の動画が存在するとは思っていなかったのだ。


 さて、犬神と広之はロックフェラー家が動き始めた事を知り、安堵しつつ織田信孝と肉山298も合流。高級牛タン焼肉専門店へ入った。


 柔らかいタン元を長期熟成した上、塩麹に漬けており、味は肉山の保証付き。国産黒毛和牛の成牛だけでなく仔牛まで用意している。低温調理したタン生、タン中の味噌漬けやタン先の燻製などもあり、平均客単価5 万円以上という店だ。


「流石は犬神じゃな、左衛門同様実に動きが早い」


「いや、今回は少し相手が大きいので骨を折りました」


「何、骨を折るじゃと……」


「いや上様、実際に折ってはおりませぬ。大事であったという例えでござる。さあ、仔牛の牛タン元が焼けたでございます」


「然様か。それにしても肉山、これは実に美味じゃ。焼き加減も見事である」


 そういうや生ビールを飲み干す信孝であった。



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