第362話 将軍信孝、2度目の現代へ①

「何……仙女殿から念が送られて来たと申すのだな」

 

「はっ、明後日の朝方とあいなりました」


「承知した。されば左衛門よ、例のサンジェルマンは如何いたす」


「上様、こたびは手紙、髪の毛、デジカメで撮った動画だけ持参いたします。それを犬神殿のつてでサンジェルマンの従兄弟へ伝える所存」


「令和の世において大商人の一族なのだな」


「一族の力を得られたら、多くの学者や職人の助力など期待出来ましょう」


 こうして2日後、幸田広之と織田信孝は令和の時代へ訪れた。肉山298が犬神霊時の部屋で小姓よろしく信孝の相手をしている。その間、広之と犬神は鬼墓亜梨沙の運転する車に乗り新宿で降りた。鬼墓亜衣子と鬼墓亜梨沙はそのまま自宅へ帰るため、新宿を後にするのであった。


 犬神は編集部へ顔だけ出すと、直ぐに広之とシャンバラ出版そばのレトロな純喫茶へ入った。24時間やっており、客層は夜職と反社がメインだ。普通の人間は滅多に来ない。


 2人ともアイスコーヒーとカツカレーピラフを注文した。食事類は数少ないが、そのかわりどれも美味しい。深皿に入ったカレーピラフの上に豚カツとトマトベースのソース、そしてとろけたチーズが乗っている。


 広之と犬神は若い頃から打ち合わせがてら、よく利用していた店で、カツカレーピラフは数え切れないほど食べた。長期服役確実のヤクザが出頭前や出所後に食べる事も多いという。


「いや、ここのカレーピラフも久し振りですよ。全然、味変わってないなぁ」


「美味いよなぁ。俺なんか週に1回は食ってるよ。このカレーピラフの豚カツは牛脂配合の油で揚げているから、旨味と風味が違う。小さな喫茶店とは思えないくらいこだわっている」


「久し振りに食べて感激です。まあ、それはともかく、ロックフェラーの件は何とかなりそうですか……」


「幸田君も知っての通りロックフェラー財団の影響力は大きいし、一族の力はまだまだ計り知れない。そうはいってもバカな陰謀論者がビルダーバーグ会議や三極委員会とかよく口にする。しかし、チャタムハウスルールによって出来る限りオープンかつフェアな議論が可能だとか、そういう趣旨を全く理解していない」


「本当に陰謀を企むなら大っぴらな会議なんかしませんからね」


「そういう事だ。幸田君が向こうでしている事と比べたら、遥かに民主的だろうな」


「確かに、そうかも……」


「で、ロックフェラー家の党首へどうやってコンタクト取るかだな。ここは海洋平和財団の力を借りようと思う」


「犬神さん、確か会長の甥が大学の先輩で付き合いあるんですよね。あと、鬼墓さんの贔屓筋だったはず」


「その通り。先輩との付き合いもあるが、あの一族は鬼墓さんに色々相談している。そもそも、うちの爺さんは笹山太一郎が戦前にやっていた東亜大衆党の出身だ。爺さんは政財界のフィクサーみたいにいわれていたが、笹山太一郎へ生涯忠誠を尽くしており、少なからず一族間の関係は続いている。爺さんも笹山太一郎にだけは頭が上がらなかった。面白いのは2人とも同じ年に亡くなっているんだよな」


「近衛前久が見つけた石盤はどうします」


「それは笹山一族やロックフェラーの一族に知られない方がいいだろ。まずは保管し、鬼墓さんがそっちへ行った時、見てもらおう」


「あの石盤は何でしょう」


「俺にも全く検討がつかない。まあ、シャンバラでは世界的な覇業や研究を成し遂げた人物は未来人あるいは宇宙人と接触云々だの適当に書いてきたけど、洒落にならんな。幸田君の現状含めて、もはや想像を遥かに超えている。しかし、いよいよ面白くなってきたぞ」


 その頃、信孝は犬神のタワマンでエアコンに満足していた。まるで初春のような涼しさに信孝は大喜びだ。デリバリーで届けられたアイスクリームやアイスコーヒーが実に美味い。冷たいものを堪能しつつ有料動画サービスで『暴れん坊大将軍』なる昔の時代劇へ見入っていた。


「肉山よ、何故血が出ないのじゃ」 


 「これはみね打ちと申し、斬ってはおりませぬ」


「相手は何故倒れる。全く動かぬではないか」


「斬られたと思い気を失ってるのか、と」


「何十人もか……」


 細かい事を気にする信孝であった。そして昼もデリバリーで運んでもらったカレーライスを食べご満悦。しばらくして水道橋へ電車で向かい、スパへ入店。


 風呂上がりにフローズンオロポを飲み頭がキンキンする信孝であった。オロポというのはオロナミンCとポカリスエットを1:1で割った飲み物だ。それがフローズンドリンクとなっている。汗を流し、火照った身体には最高の飲み物だ。


 そして、スパを出た2人は新宿へ向かった。



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