第361話 サンジェルマンの苦悩
サンジェルマンことマイケル・ロックフェラーは大坂の町で連日食い倒れ状態であった。フランスに居る時は神秘性を演出するため人前での飲食を禁じていたが、もはや人目は気にせずともよい。
同じ現代人にして金持ちの幸田広之が日本での生活や活動費を面倒見てくれる。また、近衛前久との知遇もあり、もはやフリーパス状態だ。絶対的権力者の後ろ盾があるのは心強い。
それにつけても大坂は噂に聞いていたが、それ以上だった。現状で世界一の先進都市といって差し支えないだろう。欧州の重厚な建築は見事だが、大坂のような賑わいに乏しい。
また、汚物や生ゴミも近郊の農家が買い取り、堆肥にする。循環型のサイクルが確立されている上、人々は風呂へ頻繁に入るため清潔だ。
庶民であっても、仕事にあぶれる事もなく、最低限の暮らしが出来る。毎日、風呂へ入り、茶や酒が飲め、時折芝居やスモウの見物を楽しむ。そして、食べ物もこの時代のレベルを超えている。
まだ、マイケル・ロックフェラーであった時代、サムライやゲイシャなどに憧れた。アキラ・クロサワの作品もいくつか見ている。そして自分は今、浮世絵の世界を漂っているのだ。アステカやマヤの地も訪れ、そしてウタマロの国、日本へ来た。
大坂で最も賑やかなエリアにしても、全く飽きがこない。芝居小屋やスモウレスリングのコロシアムが沢山ある。現在、天皇の父が崩御し、自粛中だという話だ。
それでも、大坂は既にカフェ文化が花開いている。狂い咲きといっても良いレベルだ。1日中カフェ巡りをしても飽きない。交通も水上バス(運河の舟)と駕籠があり、市内を難なく移動出来る。街も実に清潔だ。
最初は世の中を変えたいという欲望に駆られる事もあった。しかし、まるっきり無力だという事を直ぐに悟る。先ず、ヒロユキ・コウダと最も違う点だが、欧州は異端審問などにうるさい。
下手をすれば、直ぐに逮捕されてしまう。また、カトリックとプロテスタントなどの宗教対立が尋常でない。人々の心も荒廃していた。
とにかく目をつけられないようにするのが精一杯であり、今のようなキワモノの道化師を演じる他なかったのだ。結果的に社会への影響力はほぼない。
こうなっては、ヒロユキ・コウダが目指す世界覇権に協力する他ないだろう。日本が奴隷貿易や人間牧場へ精を出すとは思えない。人種差別もなく信仰の自由がある社会。そして女性の地位向上……。
そうはいっても、今の自分に出来る事はほとんどない。幸い従兄弟がまだ生きているという。何とか協力を取り付ければ、ヒロユキ・コウダの手助けにもなるだろう。
彼が次に現代へ戻る時、私の手紙と髪の毛を持参させる。またヒロユキ・コウダが現代より持参しているデジタルカメラなる物があるらしい。
何と手のひらサイズで動画撮影も出来るという。ビデオレターまであれば十分だろう。現代にはイヌガミというヒロユキ・コウダのフレンドが居て、政財界へ人脈があるという。
こうして、サンジェルマンも歴史改変へ大きく関与していくのであった。
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